第八話:消えたページの秘密
図書館の扉が開いたのは、霧の深い夜だった。
その女性は編集者だった。
作家の原稿に目を通し、文章を磨き、締切と戦う日々。
あるとき、担当作家の最後の小説の「最終章だけが忽然と消えていた」。
原稿には“終わり”がなかった。
消した形跡もなく、本人の記憶からも「書いた記憶だけがごっそり抜け落ちている」と言う。
その夜、女性は夢遊病者のように図書館の前に立っていた。
もしくは、「導かれた」としか思えないような不自然さで、そこにいた。
中に入ると、閲覧机の上に一冊の本が置かれていた。
それは、消えた小説の写しだった。
しかし、最終章のページは破られ、消えていた。
「……ここにも、ないの?」
だが、本を手にした瞬間、図書館の奥でふいに風が起きた。
本棚の影から、一枚のページがふわりと宙を舞っていた。
彼女がそれを拾い上げると、インクの香りが漂った。
ページには、こう記されていた。
「終わりがない物語は、まだ誰かに必要とされている。
消えたのではない。読まれるその日を、待っていただけだ。」
彼女はゆっくりと目を閉じ、記憶の奥を探るように思い出す。
作家が話していた「もう一人の主人公」。
彼自身が語ろうとしなかった“自分自身”──
物語の中でだけ、救われたはずの彼。
ふと、手元の本が開かれる。
そこには、まったく別の結末が記されていた。
苦しみの果てではなく、許しの先にある物語。
それが、彼が本当に書きたかった最終章だった。
彼女はページを閉じた。
図書館の霧が、ゆっくりと晴れていった。
翌朝、彼女は作家に電話をかけた。
「見つかったわ。あなたの“終わり”──じゃなくて、“続き”が。」
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