第六話:最後の読書係
図書館の扉が開いたのは、深く冷え込む冬の夜だった。
長いコートを羽織った老人が、ゆっくりと扉を押し開ける。
その動作は、まるで「何度も訪れた場所」への帰還のようだった。
かつて彼は、この図書館で働いていた──そう自分では信じている。
けれども、それが夢だったのか、真実だったのか、今ではわからない。
ただひとつ、記憶に残っているのは、
**「この図書館には“読書係”という役目があった」**ということ。
読み手が本と出会い、物語に没入するのを、そっと見守る者。
ページが閉じられる瞬間に、静かに灯りを消す者。
その役目を果たす者が、読書係だった。
老人はカウンターの奥に進み、埃の積もった名札を拾い上げた。
そこには、かすれた文字で**「読書係・結城蓮」**と書かれていた。
「やっぱり……わしは、ここにいたんだな」
ふと、本棚のひとつが音もなく開いた。
中には、いくつもの「読まれ終えた物語」が眠っていた。
タイトルはどれも見覚えのあるものばかり──
少年が影と向き合った話、少女が過去と和解した話、猫と眠った小さな客の話……
そして、一番奥にあった一冊を手に取る。
それは、自分自身の物語だった。
ページをめくるたびに、若かりし日の自分が浮かび上がる。
初めて誰かの涙を見届けた夜。
読後の余韻に佇む少女を見守った夜。
名もなき物語たちに寄り添い続けた、数えきれない時間。
「誰かの人生の、静かな通訳になれたなら」
そう思いながら、彼は最後のページを閉じた。
その瞬間、図書館の灯りがふっとひとつ、消えた。
そしてもうひとつ、扉の奥から微かな足音が聞こえる。
新しい「読書係」が、静かにその任を継ごうとしていた。
老人は微笑んだ。
これでもう、大丈夫だ。
物語は、まだまだ終わらない。
図書館は、今夜も読み手を待っている。
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