第四話:本棚に眠る猫
図書館の扉が開いたのは、星が瞬く静かな夜だった。
足音もなく現れたのは、小さな女の子だった。
まだ幼いその子は、眠れぬ夜にふとベッドを抜け出し、気がつけばここにたどり着いていた。
入口の前で立ち止まると、扉はまるで迎えるように開いた。
彼女は迷わず中へと歩を進めた。
絵本が好きだった。字はまだすべて読めなくても、物語の絵を見ているだけで楽しかった。
図書館の中は、しんと静まり返っていた。
けれど、どこかから「ふにゃあ」と小さな鳴き声が聞こえた。
本棚の隙間に、ふさふさの尻尾がちらりと見えた。
「……ねこ?」
その猫は、真っ白だった。
目は金と青のオッドアイ。不思議な風貌をしたその猫は、女の子の足元にするりと近づくと、しっぽで彼女の手をちょんと叩いた。
そして、ひとつの棚の前でぴたりと止まる。
猫が見上げていたのは、**『しろねこのほん』**というタイトルの古い絵本だった。
女の子がそれを手に取ると、ページの中で猫が動き出した。
草原を駆け、星の下でまどろみ、そしてときには言葉を話す──
その絵本の中の猫は、どう見ても、目の前にいるその猫だった。
「あなた、ほんとの……ねこなの?」
猫は何も言わない。ただ、にゃあと短く鳴いた。
物語の最後に書かれていたのは、こんな一文だった。
「この図書館にいる白猫は、すべての孤独な夜を抱きしめる。」
女の子は、猫を抱きしめた。
柔らかい体温が、胸の奥まで染みわたるようだった。
やがて眠気が訪れた。
彼女は図書館の隅で、猫と一緒に静かに目を閉じた。
朝になり、ベッドで目を覚ましたとき、手の中には小さな白い毛が一房だけ残っていた。
それが夢だったのか、本当だったのかは、誰にもわからない。
けれど、その夜から──彼女はもう、ひとりでは眠れなくなることはなかった。
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