第三話:音のない物語
図書館の扉が開いたのは、風の強い夜だった。
ひとりの少女が、耳を澄ますようにして扉の前に立っていた。
いや──正確には「音のない世界」に彼女は生きていた。
生まれつき耳が聞こえない彼女にとって、世界は常に静かだった。
それでも、言葉を読むことが好きだった。
音のない世界でも、物語は彼女の心に響いた。
図書館の中に入ると、不思議な静けさに包まれた。
だが彼女にとっては、それが心地よかった。
いつの間にか、一冊の本が彼女の足元に落ちていた。
白い表紙に、題名は書かれていなかった。
開いても、最初の数ページには何も書かれていなかった。
彼女は困惑する。けれど──ページをめくるごとに、
「何か」が聞こえる気がした。
波の音。木々のざわめき。遠くで誰かが呼ぶ声。
聞いたことのないはずの音たちが、心の中で響いていた。
やがて文字が現れる。
それは、かつて彼女が書いた物語だった。
誰にも見せず、ノートに書き溜めていた、小さな物語たち。
そこに登場するのは、音のない王国に生きる少女と、言葉を失った旅人。
二人は言葉ではなく、心で通じ合っていた。
最後のページに、旅人が少女へ贈った一文があった。
「きみがくれた静けさは、僕にとって音楽だったよ。」
涙がこぼれた。
音もなく、けれど確かに、何かが胸に満ちていった。
彼女は本を閉じた。
外ではまだ風が吹いていたが、彼女の心は静かに凪いでいた。
音のない物語には、誰よりも深い音が宿っている。
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