第一話:影を抱く少年
図書館の扉が開いたのは、月のない夜だった。
少年は、何に導かれたわけでもなく、ただふらりと足を向けた。学校にも家にも居場所がなく、駅前のベンチで時間をつぶす毎日。寒さに震えて歩いているうちに、いつしかその坂道に立っていた。
「……灯りが、ついてる……?」
町のはずれにある廃墟のような建物。けれどその夜は、扉の隙間から柔らかな明かりが漏れていた。何かに吸い寄せられるように、少年は扉を押し開けた。
薄暗い室内には誰もいなかった。
ただ、静かに並ぶ本棚と、どこかから漂う本の香り。
そして、その中にひときわ古びた一冊があった。
背表紙には、タイトルが書かれていなかった。
けれど彼は、迷わずその本を手に取った。
開いた瞬間──視界がふっと暗くなる。
次の瞬間、少年は「物語の中」にいた。
彼とそっくりなもうひとりの少年が、誰にも気づかれず教室の隅に座っていた。
笑うクラスメイトたち。怒鳴る教師。何も言わない家。
心の奥に積もった寂しさと怒りと、言葉にできない痛み。
「これは……俺?」
少年は気づく。
この物語は、「まだ誰にも話していなかった自分自身」だということに。
ページをめくるごとに、彼は少しずつ「影」を見つめ始める。
逃げていたものと、向き合うように。
そして最後のページには、たった一行の言葉が書かれていた。
「君は、君のままでいていい。」
彼は涙を流した。音もなく。
読み終えたその瞬間、図書館の灯りがふっと消えた。
気づけば、少年は坂道に立っていた。
朝焼けが、町の向こうに静かに広がっていた。
背負っていた影は、もう、彼の中にはなかった。
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