第十二話・「自己消費(2)」
久しぶりの投稿です。
長らく投稿できていなくてすみません、これからは頻度を上げて投稿していきます。
力強く叩き込んだ拳にじんわりとした痛みが残る。
ふぅ、硬いな……。
死に体の――骸に等しいモノを殴ったとは思えない感触。
カウンタをⅢにセットしたにも関わらず、それなりに硬いと感じたのは、流石は最強種たる竜の鱗――殻だと思った。
そんなことを考えながら、引き上げたカウンタによる負荷を感じながらカウントを落としていく。
「フゥ――、――――」
深呼吸――深く息を吸って吐いて、排熱。
身体駆動に余分な熱を排斥し、身体の最適状態を整える。
「よし」
体の状態を確認してそう呟く。
「……叢真、無事か?」
太刀を納刀しつつそう言って駆け寄る沙耶。
そしてそんな彼女のすぐ近くにいた雨嶺は、困惑した様子ながら心配そうな表情でこちらを覗いていた。
俺はそんな二人に向けて、
「――ああ、問題ない」
そう答えて軽く笑みを送った。
「……そうか。ならいいんだが」
俺の言葉に雨嶺は安堵の表情を、沙耶は何か言いたげな表情を浮かべていた。
実際のところⅢまでカウントを上げたことによる負荷で、全身にはひどい痛みが走っている。だけど今は余計な心配を掛けたくなかったから、精一杯のやせ我慢でそう言い黙っておいた。
それにこれを理由に、強制リタイア――なんてことになっても困る。
苦痛に歪みそうになる表情を無理やり抑え平静を装った。
少しして負荷にも慣れ、体の調子が安定したところで立ち上がる。
「あ、えっと……、逆刃大くん」
「ん?」
ふと、雨嶺がタジタジとした様子で俺の名を呼ぶ。
「……先程は助かりました。ありがとうございます」
ほんのり朱色に染まった頬、彼女はそう言って丁寧に頭を下げる。
……?
何に対しての礼なのかわからず、困惑して首を傾げる。
だが、すぐに今のことだと気付いた俺は笑みを浮かべて言葉を返す。
「気にするな。俺の方が雨嶺にも、沙耶にも迷惑を掛けてる。逆にこれくらいしなきゃ俺がここにいる意味がない」
――そうだ。
俺は人を助けるためにここまで来た――にも関わらず、人を助けるどころか迷惑を掛けっぱなしでは笑い話にもならない。
だから俺は、俺にできる最大限を尽くして人を助けて見せる。
それが俺の役割で、俺のいる意味だ。
だからこそ、今の行為に礼なんてもは不要だ。
「――そんなことないですよ」
「っ」
俺の思いに反するように、彼女は笑顔でそう言った。
そんな言葉が返って来ると思わず驚いていると、沙耶も同意するように頷いていた。
「叢真。正直お前の索敵能力には助かっている。彼女――クレアからも聞いていると思うが、ここらの地域はいま竜の生源の影響で普通の魔力探知が効きづらい。だからお前の三源力由来じゃない探知には非常に助かってる」
「はい。これで迷惑が掛かっているとか、邪魔だとか思うわけありません」
「……そう、か?」
「ああ」「はい」
「…………」
そう言われてしまってはこれ以上返す言葉もなく、俺は押し黙った。
無言で微笑みを浮かべる二人。そんな二人を前に気恥ずかしさと気まずさから、この場を脱するため、さっき投げた剣を拾いに行った。
変に壁深くに刺さってしまった剣を抜くのに苦労をしながらも、何とか回収することに成功した。
その後、少し休憩したところで俺達は再び目的地へと向かって走り出した。
暗夜を駆け抜ける。熱風を掻き分けて道を突き進む。
先頭には沙耶、その後ろを雨嶺と俺が追うような形で付いて行く。
『ヴァ――』
「ふッ!」
眼前に迫る殻を沙耶が薙ぎ払う。
……凄まじいな。
殻を一刀両断しつつ走るペースを落とさない彼女の驚嘆する。
道中、何度か殻と接敵することとなったが、沙耶の圧倒的な剣術によって全て殲滅された。
斬って斬って――斬り払われる。
あまりにも圧倒的な力の差。だがそれは、決して殻が弱いわけじゃない。
殻は〝数〟と〝力〟の両方を合わせ持つ怪物。
そんな怪物を余裕で殲滅できているのは、彼女の強さが常軌を逸しているだけだと思う。
あの熊型殻を覗いて俺は彼女が苦戦している姿を見たことがない。膨大な数を相手にして、それでも余裕そうに対応してみせる。
そのおかげでこちらに回って来る殻は一二体程度。それくらいは俺達でも十分に処理できた。
やっぱり……沙耶の剣術はすごいな。
見れば見るほどにそう思う。
カウンタによって引き上げられた動体視力でも所々捉えきれない斬撃。時々、抜刀から振り終わりまでがスキップされたんじゃと思ってしまうほどに一瞬で、驚かざる得ない。
魔術みたいな超常的な力を除いても、彼女の剣術の腕が非常に高いことは素人目にもわかる。
本当に……本当に参考になる。
彼女の動きを注視しながらそう思う。
脳にどんどんと新しい情報を取込むしていく。
「――悪い。一匹抜けた」
「!」「…………」
不意に彼女がそう言った。
目の前には彼女が討ち損じた犬の形状をした殻が迫って来ていた。
一心不乱に、血肉を――命を貪らんと突っ込んで来る。
「わた――」
札を突き出す雨嶺を手で静止し、俺が前に出る。
腰の剣に手を掛ける。
さあ――出力の時間だ。
記録した情報を集計。
既存の規格をアップデートさせ、より自身に適切な動きへと仕上げる。
――軽く踏み込む。
摺り足で地を踏み、滑らかに自然な動作で剣を振るう。
「ヴァウ――ッ! ヴァ――」
スパンッ――
緩やかな抜刀。左下から右上にかけて一文字に振り抜く。
抵抗はなく、豆腐でも切るような感触。
「すごい……」
雨嶺の小さな呟き。
――殻は容易く両断された。
地面に血肉や臓物などの残骸を散らばらせながら転がれるソレを横目に、少し落ちたペースを戻す。
少し乱れた呼吸を整えながら剣を鞘に納める。
「…………」
「?」
ふと、俺の方を見る視線に気付いて首を傾げる。
「どうかしたか?」
そう視線の主たる沙耶に聞く。
「……叢真、お前は剣を習ったことがあるのか?」
「いや、ない」
「――っ、……そうか」
問いにそう答えると彼女は少し驚いた表情を見せる。
彼女のよくわからない反応を不思議に思いながら付け足すように言う。
「というか今日、初めて持った」
実際、俺は剣という物を今日初めて振るった。
俺はクレアたちと違って魔術師でも霊術師でも、結界師とやらもでない――ただの一般人だ。異能を持ってはいるが、一般人であることの変わりがない以上、実物の剣を触れる機会なんてそうあるものじゃない。
だから、そう、別に嘘は吐いていないんだが――
「そうか……ん? ――――は?」
沙耶の表情が一気に険しいものになった。
そして、彼女は問い詰めるように質問をして来る。
「剣を初めて持った、だと? ……我流じゃないのか?」
「いや、まあ……我流ではあるけど、今即興で合わせたやつだからな」
「…………」
ありえないものでも見るような目で彼女が見てくる。
「初めてで今のをですが、なんていうか……すごいですね」
感嘆した、という感じの表情を向ける雨嶺。
「まあ、今回はいい手本が目の前に遇ったってのもデカいけどな」
「「手本?」」
ハモりながらそう言う二人に頷き、俺は自身のことについて話す。
俺がしているのは取り込んだ情報の分析分解、そして自身への情報反映。
視覚で取り込んだ動きの情報を解析して自身へと最適化したものを反映させることで、完全とはまではいかないが、読み込んだ動きの再現を可能としている。
我ながらすごい技能だと思う。どうしてこんなことができるのかもしらないけど。
――だけど、これはあくまである程度の動きを模倣しているに過ぎない。芯はないし、その動きが本当に使えるかどうか、意図した用途が正しいのか、そういったものは武の心得というものがない俺にはわからない。
アニメやドラマなどの動きを再現しても、それがリアルで通じないなんてことはザラだ。あれらは基本的に見せる動き、効果的かどうかはそこまで考慮されていない。
最初にこの剣を使った時も今ほど上手く扱えなかったのは、それが起因している。実用的か否かを判断するのは俺だが、その是非を判断する知識や経験を有していない。
とはいえ俺には――異能がある。
多少無意味な動きであろうと、身体能力のバフが乗せられるため、ある程度は効果的に機能してくれる。
無理を通す力が俺にはある。
だから俺はまだ止まるわけにはいかない。
「そういうことか」
俺が話し終えると沙耶が納得したような表情をみせた。
「まったく羨ましい才能だな」
「そうか?」
「当たり前だ。見ただけでその動きを再現できるなど、武芸者でなくとも欲しがる能力だ」
そんな彼女の発言に少し照れ臭くなる。
「それが――お前の歪みに起因していないのならばな」
「?」
唐突な彼女の発言に首を傾げる。
「沙耶、それはどう意味ですか?」
同様に発言の意味を理解できないでいた雨嶺がそう問い掛ける。
すると、沙耶は軽く瞳を閉じて言った。
「いや……なんでもない」
「「?」」
発言の撤回。
意味深な彼女の様子に俺と雨嶺は二人して首を傾げた。
「――なんにしてもすごい才能だ。頼りにしている」
「はい、頼りにしてますよ」
「……二人の信頼に応えられるように頑張るよ」
真摯な二人の言葉に少し頬を赤くしながらそう答えた。
そんな会話を交えながら、崩壊したこの街を二人と共に駆け抜けた。




