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星架の望み《ステラデイズ》・星  作者: 零元天馬
竜殺し編・焔喰らう竜
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第十話・「無数の屍の上に(2)」

 空虚がしんみりと沈み込む。

 静寂は冷たく、その終わりを看取る。

 あったであろう慟哭は、遠に消え失せてしまった。

 残るのは形だけ――無残に、無慈悲に、在った証だけを残して潰えている。

 伽藍堂な命、果てを見送った。

 「…………」

 冷たい、な……。

 力を失った手から伝わるひんやりとした感覚。

 その感覚がその命の終わりを告げている。

 安らか……ではなかっただろうけど、……最後の少しでも救われてくれただろうか?

 もう動くことのない遺体の手を優しく両手で握り、そんな風に思う。

 「……知り合いだったのか?」

 少し躊躇いつつも、太刀を持った少女はそう問い掛けてくる。

 隣の少女共々、物悲しさを孕んだ表情を浮かべている。

 そんな彼女達に視線を向けず、俺は男性の遺体に視線を向けたまま、淡々と言葉を返す。

 「いや――他人だよ」

 短く言葉を返す。

 「「――――」」

 再びの静寂。

 二人はどんな言葉を掛ければよいのかと困っているのか、何も言わず、男性の手を握り続ける俺をただ見ていた。

 ……また、目の前で命が消えた。

 結局、俺のやったことは全て無意味だった。

 人を助けるためにこの場にいるのにも関わらず、ただ最後を看取ることしかできなかった。

 もっと上手くやれば、この人は助かったのだろうか? あの時、あの瞬間、走り出さずにクレアとルジュを待った方が良かったんじゃないのか?

 最善な選択肢はどれだったんだ?


 ――一体、どうするのが正解だったのだろうか?


 …………。

 そんなことばかり頭に過って、心を曇らせる。

 俺の選択は間違いだらけで、後悔しか生まない――そもそも、選択するに足る者ですらないのかもしれない。

 何一つ成す事の出来ない今の俺は、選択者ではなくただの当事者だ。

 人を助けたいという独り善がりな〝願望〟だけで、無意味にも、無謀にも、走り出してしまった。

 そんな俺に、この場にいる資格はないのかもしれない。

 でも――


 「……次こそ、絶対に救う」


 ギュッと男性の手を握る両手に力を込める。

 気持ちは切り替えた。

 自分を呪うのも、後悔を叫ぶのも――ここで打ち止めだ。

 そうだ、俺がなんであれ……関係ない。

 ただの当事者であろうと、選択者であろうと――俺はそれでも己を果たす為に、この独り善がりな願いを突き通す。じゃなきゃ、ここに至る全てが本当の意味で無意味になってしまう。

 だから、こんな所では止まれない。

 「前を向け――」

 不思議と心は重くない。後悔も訓戒も、次へ礎――止まるつもりなど毛頭ない。

 ――間違いは止まる要因にはならない。

 正しさを基準に行動しているならば、俺は此処へ至る前に止まっている。

 だから、俺は――



 ただ己を果たす為だけに――


        ――――走り続ける。



 気持ちを固め直し、目の前の死を受け止める。

 握った手をそっと放して、ゆっくり立ち上がる。

 軽く周囲の光景に目を向け――己を俯瞰した。

 (フリーカー)にしろ、人にしろ、俺は無数の屍の上に立っている。

 殺し殺され、喰い喰われる。

 その果ては無数の死に塗れた三途の川。

 天秤の上の自分――逆側には、既に数え切れない罪が置かれている。

 「良い死に方はできないな……」

 小さく苦笑を浮かべ、夢想した己の果てを振り払う。

 そして、表情を戻すと共にクルリと振り返り、背後にいた二人の少女に視線を向けた。

 「さっきはありがとう、助かった」

 随分、後回しにしてしまったお礼をいま口にする。

 すると、少し戸惑いながらも二人はすぐさま言葉を返してきた。

 「ん? ……ああ、気にするな」

 「はい、お気になさらず」

 少し力のない声でそう言った。

 ……お人好しか。

 彼女達の様子を見て内心そう思う。

 その声に力がないように感じるのはおそらく、男性を救えなかった故に、自分達が謝辞を受けることに忌避感でも抱いているのだろう。

 優しいんだな、と二人の様子に少し微笑を浮かべる。

 「……お前、大丈夫なのか?」

 太刀を持つ少女は、俺を見て困惑した表情でそう問い掛けてくる。

 俺はその問いが何に対してなのかわからず、首を傾げながら疑問を返した。

 「えー、……何が?」

 「……、いや――やっぱり何でもない」

 「?」

 本気で疑問の表情を浮かべたところ、彼女は一瞬目を見開いて驚愕したような表情を見せると共に、問いを取り下げ、どこか変なモノを見る目を向けてくる。

 俺、何かおかしなことしたか?

 やはり彼女が何を言いたいのかわからず、以前として困った表情を浮かべ続ける。

 少しの間、彼女の問いと表情の意味を考えてみたが、この場でこれ以上の思案は無意味と判断して、この疑問についてはここで切り上げることにした。

 「あー、えっと……それでアンタ達は、誰で何者なんだ?」

 頬を指で掻きながらそう問い掛ける。

 すると、難しい表情をしていた太刀の少女は、さっきまでの無表情気味の凛とした表情に戻した。

 一方、どこか緊迫した空気に当てられていたのか、緊張した面持ちだった巫女の少女は表情を和らげ、笑みを浮かべながら丁寧に自己紹介をした。

 「私は星十字団所属の結界師、兼、観湖都神社の巫女――観湖都(みこと)雨嶺(あまね)です。よろしくお願いします」

 そう言って巫女の少女……雨嶺は握手を求めて来た。

 俺はそんな彼女に、どうも、と言葉を返して握手を交わした。

 「私は星十字団所属、霊術師兼雨嶺の護衛、伏城(ふくしろ)沙耶(さや)だ」

 雨嶺とは打って変わって、沙耶はそう淡々とした口調でそう自己紹介をした。

 結界師、霊術師……魔術師とは違うのか?

 予想通り星十字団の関係者だった二人だが、結界師と霊術師という魔術師とは違う役職?に疑問を浮かべた。

 そういえば、クレアが魔術師以外にも色々いるって言ってたっけか……って、今はそれはいいか。

 とりあえず抱いた疑問は呑み込み、こちらも自己紹介をすることにした。

 「俺は逆刃大(さかばだ)叢真(むらま)――星十字団所属じゃないし、魔術師でも何でもない。()()()()()()だ」

 「は?」「え?」

 「へえ?」

 驚愕した表情で声を漏らす二人の様子に、思わず呆けた声を漏らしてしまった。

 そんな俺を見た沙耶は呆れた表情で腕を組み、考えるような表情を浮かべた。そして次に、チラリ、と俺の手に持つ剣に視線を向ける。

 はぁ、と小さく疲れたようなため息をこぼして問い掛けてくる。

 「……叢真。仮に(・・)お前が一般人だとして、なぜスカロンを持っているんだ?」

 「スカロン?」

 「その剣のことだ」

 「ああ、これか」

 手に持った剣に軽く視線を向け、彼女の言いたいことを理解する。

 「これはミサリさんから貰った物だ」

 「ミサリ司令官からだと?」

 彼女は少し驚いた表情を浮かべた後、疑惑の表情でそう聞き返してきた。俺はそんな彼女の言葉に、コクリと頷き肯定の意を示す。

 そして、俺は彼女達にここへ至るまでの経緯を軽く説明した。



 俺は二人に、フリーカーに襲われた事、クレアに出会い助けられた事、ミサリさんに会ってクレア達に付いて行くことを決めた事などを簡潔に話した。

 話を聞いた彼女達は納得したようで、若干あった警戒を解いてくれた。

 「なるほどな……」

 沙耶はそういいスッと鋭い眼差しを向けてきた。

 「事情は理解した。であれば叢真、しばらくの間、共に行動しないか?」

 彼女はそう提案してきた。

 願ってもない提案に俺は驚きながら言葉を返す。

 「いいのか?」

 「ああ」

 沙耶は微笑を浮かべてそう返事をした。

 うっ、……可愛いな。

 ここで初めて彼女の笑みを見たが、しかめっ面な彼女とのギャップで一瞬ドキッとしてしまった。

 精一杯、カッコつけて表情は平静を保ってみせる。

 そんな俺の様子に気付かない彼女はそのまま話を続けた。

 「それにお前がなんであろうと、民間人である以上、捨て置くわけにもいかないしな」

 再び微笑を見せる彼女にダメージを受けるが、顔に出さないように精一杯堪えた。

 「そうか、なら頼む」

 「わかった。雨嶺、お前もそれでいいか?」

 「…………」

 沙耶に呼びかけられても反応しない雨嶺。

 何やら考え事をしているようで、少し難しい表情で固まっていた。

 「雨嶺?」

 「え? あ、え……ええ、私は全然大丈夫だよ」

 ようやく反応した彼女は少し慌てた様子でそう言った。

 「どうした? なにか思うところでもあるのか?」

 「ううん、違うよ。ただ叢真くんの苗字に聞き覚えがあった気がして……」

 「?」

 首を横に振ってそういう彼女の言葉に、俺は首を傾げる。

 逆刃大に聞き覚えがある……?

 自分で言うのもなんだが、この苗字はかなり珍しい。

 他では滅多に聞くことはないと思う。

 「沙耶は何か思い出さない?」

 「特には……いや、確かにどこかで聞いたことがあるような」

 再び腕を組み、考え込む沙耶。

 記憶を辿る二人。

 少ししてその話を言い出した雨嶺が声を上げる。

 「沙耶。思い出せないし、この話は後にしましょう」

 「……ああ、そうだな。ここで長居してもいいことはないな」

 彼女の言葉に同意し周囲に視線を向ける沙耶。

 俺も同様に周囲に視線を回すと、再びフリーカーが瓦礫の隙間から這い出て来ている光景を目にした。

 ここにいる理由ももうない以上、この場にいる意味はない。

 「――二人とも、とりあえず、今はここから出よう。俺はアンタ達に付いて行く」

 「わかった」

 「はい、了解しました」

 二人は俺の言葉に同意し、俺達は沙耶の開けた壁の穴へ向かった。

 次こそは……――

 軽く男性の遺体に目を向け走り出す。

 黒い肉塊と赤い肉塊が混在した瓦礫を駆け抜ける。

 死臭を突き抜け、闇を潜る。

 地面から黒い塊が這い出るのを横目に俺達は、薄暗く鬱屈としたビルから抜け出した。

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