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星架の望み《ステラデイズ》・星  作者: 零元天馬
竜殺し編・焔喰らう竜
31/34

第十話・「無数の屍の上に」

 埃っぽさと血腥(ちなまぐさ)さの混在した空気。

 薄暗くて不気味な空間。

 天上に空いた穴から差す月光。

 退廃的で空虚なビルの中は、死臭に塗れている。

 明かりに照らされた太刀を持つ少女。

 どこか神秘的な光景と助けられた?ことも相まってか、不思議な神々しさすら感じる。

 思わず目を丸くして彼女に見入る。

 「…………」

 息の止まるような拍。

 観察するように彼女の事を見た。


 ――大和撫子。


 直感的にそんな単語が浮んでしまうほど、日系人的な容姿の美しさをしている。

 丈の短いスカートが特徴的な制服を身に纏い、腰まで伸びる黒橡(くろつるばみ)色の髪をそよ風に靡かせる。凛とした佇まいで腰の刀を握り、スッとこちらを覗いている。

 容姿端麗、眉目秀麗。

 それらの言葉が適当だと思うほど、美しい容姿をしている。

 スラっとしつつも肉付きの良いスタイル、整った顔立ちと鋭く力強い墨色の瞳。

 クレアやルジュという逸脱した美人にも劣らぬ容姿。

 こっちに向けられたキリッと鋭い眼差しに固唾を呑む。

 怪しむように覗く瞳は、上から下までよく観察してくる。

 「!」

 ふと、彼女は何かに気付いたような表情を見せる。

 思案するような様子の後、彼女は問い掛けるように口を開いた。

 「お前はなに――、!」

 何かを言い掛けたその瞬間、クルッと身を翻し、即座に臨戦態勢を取る。

 彼女の突然の動きに動揺するが、そのわけを理解して平静を取り戻す。

 ……まだ、いるのか。

 周囲に目を向けると、ぞろぞろと瓦礫から這い出るように(フリーカー)が現れる。粗方は彼女が斬り伏せたと思ったが、フリーカーは予想を超えて溢れた。

 醜怪な烏合が死を求めて地を這う。

 「お前、戦えるか!」

 不意に少女がそう叫ぶ。

 「え……あ、ああ。やれる」

 突然のことに動揺しながらも、そう言葉を返して剣を強く握り直す。

 そんな俺の様子を横目で軽く見た彼女は、

 「ならば――その男はお前に任せる(・・・)

 そういい地を蹴って走り出す。

 目の前から消えたと錯覚しそうな走力。一瞬にしてフリーカーとの距離を詰め切り、反応されるその前にその命を散らして見せる。

 ――一閃。

 驚嘆するほどの刀速。

 閃光が走ったと思ったその瞬間には、太刀が振り下ろされている。

 正しく一刀両断、一撃で数匹のフリーカーを斬り捨てる。

 は、速い……!

 カウンタの強化を受けている俺の目ですら、僅かにその残像を捉えることしか出来ないほどの速度。

 舞い散る黒い水の中、彼女は再び走る。

 「…………」

 次々と敵を葬っていくその光景は圧巻だった。

 思わず見入ってしまうほど、鮮やかに敵を斬り伏せていく。

 クレアとルジュのような圧倒的な質量による強さではなく、人間的な技術を突き詰めた強さ。

 脳にゆっくりと刻まれる情景。

 そうか……ああ、やる(・・)のか。

 情報の更新。

 その技術にどんどん魅入っていく。

 ……なるほど。

 夢中になって彼女の戦いを見ていると、どこからか声が聞こえた。

 一度、観戦を止め声へ聞こえた方へ視線を向ける。

 「沙耶(さや)!」

 先程、彼女が空けた壁の穴。

 その方へ視線を向けると誰かの……いや、おそらく彼女の名前を叫ぶ少女の姿を発見した。

 声に気付いた彼女は軽く穴の方へ視線を向け、少女の姿を確認した後。

 「雨嶺、そこの二人を守ってほしい」

 そう一言、彼女はすぐさま戦闘を再開する。

 穴から建物へ入って来る少女は、突然の指示に戸惑うも、

 「え! どういう――あ、……わかりました」

 俺と男性の姿を発見するとすぐさま了承の返事をした。

 フリーカーを次々と斬り伏せる彼女を尻目に少女は、こっちに駆け寄って来る。

 み、巫女……?

 駆け寄る少女の外見に、思わず目を見開いて驚いた。

 黄土色の長髪に花の形をした特徴的な髪留め、澄んだ琥珀色の瞳。

 彼女もまたクレアやルジュ、太刀の少女のような浮世絵離れした美人という他ない容姿を持っている。こんなに短期間に連続で美人を見ていなければ、その容姿に見入ってしまっただろうが――そんなことよりだ。

 スッと彼女の服装を覗く。

 白衣に松葉色と瑠璃色の珍しい袴、右手には鈴……確か神楽鈴とかいう物――俺の知っている巫女の姿とは少し違うが、おそらく巫女装束だろう格好した少女。

 外見の良し悪し以前に、そのあまりにも場違いな恰好に目がいってしまった。

 この壊滅しつつある市街地の中、小奇麗な巫女装束を身に纏う少女の姿は違和感を感じない方がおかしい。

 ……いや、そうでもないの、か?

 直近の事――フリルの付いたヒラヒラとした可愛らしい服装をしていた少女と共に行動していたことを思い返し、案外その格好がおかしなモノではないのかと思った。

 魔術とかよく知らないし、そういうのの関係なのか?

 などと余計なことに思考を割いていると――

 「ヴァッ――ヴァッ!!!」

 逸らした意識の合間に入り込むように、フリーカーが男性に向けって突撃した。

 ヤバい!

 即座に意識を転換し、攻撃に意識を組み替える。

 だが、逸らした意識の合間にフリーカーは男性の眼前まで詰め切っていた。

 クッソ! 間に合えッ!!

 全力で迎撃しようと剣を振り上げた――が、それより速く言霊が響く。

 「祓へ給へ、清め給へ。八百万乃神ながら授け給へ。


 炎葬――荼毘(ダビ)


 シャリンシャリンと鈴の音を響かせ、言霊と共に巫女が札を飛ばす。

 飛来する札は鋭く素早く、俺の顔横を通り過ぎる。

 次の瞬間、ボウッ、と札が燃えると共に火球へと変化し、フリーカーへ向かって飛び――直撃する。

 火球は熱風を放ちながらフリーカーの肉体を一瞬にして燃やし尽くし、その身は灰塵と化す。

 「!」

 あまりの光景に驚愕して動きが止まる中、少女は俺と男性の前に片手に神楽鈴をもう片手に札を持って、フリーカーを退けるように立った。

 チラッと視線をこっちに向ける少女。

 「大丈夫ですか!?」

 「え、ああ……おかげさまで」

 「そうですか、よかったです」

 安堵した表情を見せる少女は、すぐさま臨戦態勢を取り、こっちに襲い掛かろうとするフリーカーを迎撃する。

 二人の少女によって次々とビル内のフリーカーが駆除されていく。

 一体何者なんだ……?

 二人のおかげで少し余裕が生まれたためか、そんな疑問が頭に浮かぶ。

 おそらく星十字団の関係者なのだろうが、身なりが特異で本当にそうなのか判断に困る。

 制服に、巫女装束。

 とても竜伐に来ている人物の恰好には見えないが……やはり、クレアやルジュのこともあって、身なりで判断はできない。

 確か仮設拠点の職員は、白を基調とした軍服のような服装をしていた筈だ。

 ……といっても、それ以上に色んな恰好してたしなぁ。

 拠点内の職員はそういった服装の人が多かったが、外で作業していた人達は結構バラバラだった。

 考えても答えが出る筈もなく、事が済んでから聞けばいいと考えを閉じる。

 「河旋(かせん)

 円を描くようにクルリと並行に太刀を振るう少女。

 頭上、真下、左右から迫るフリーカーを同時に斬り伏せ――バックステップ。

 瞬間的に距離を取り、体勢を整える。

 刀を引き、振り上げるように構え、そのまま前進。

 フリーカーはそんな彼女へ向かって考えナシに突っ込む。

 踏み込みと同時に腰を捻じり込む――次の瞬間、加速し飛ぶように前進する彼女は同時に太刀を振り上げる。

 両断。

 飛来するフリーカーの一体を切り捨て、即座に太刀を翻す。

 刹那。踏み込みと同時に腰を深く落とし、滑る様に地面を駆け、大きく斜めに一閃――前方の呆けたフリーカー二体を斬り殺す。

 黒い血を浴びながら、クルッと身を翻す。

 そして、体勢を整えると共に周辺のフリーカーを斬る。

 一動作一動作、無駄なく敵を斬り殺すために費やされる。

 「フゥ――荒流(ありゅう)

 軽く息を吐き、即座に閃光の斬撃を放つ。

 カチッと太刀が鞘に納まる音と共に、フリーカーの体がバラバラに刻まれる。

 「す、すごい……」

 感嘆する他ない動きに思わず声が漏れる。

 鮮やかに弧を描く太刀は、まるで豆腐でも斬っているように、容易に肉を斬り裂き骨を断つ。

 俺が剣を使っている時とは全然違う……剣と刀の違いかとも思ったが、それ以上に技術の差が大きい。きっと彼女がこの剣を使えば、同様の芸当が可能な筈だ。

 圧倒的な練度の差――

 アニメやドラマ、創作物の動きを再現しているだけの俺が届く筈がない。

 ……よく、視ろ(・・)――

 観察する。

 動きを細部まで読み取り、情報を収集する。

 そんな俺を余所に、二人は止まらず攻防を続ける。

 「炎葬――火鳥荼毘(かちょうだび)迅乱(じんらん)

 言霊と共に、巫女の少女は手に持つ札を何枚か飛ばす。

 飛ぶ札は少しして火球ではなく、燃える鳥となってフリーカーへ突撃していく。

 何匹かのフリーカーは炎鳥に打ち落とされるが、また何匹かは炎鳥を躱して見せる。しかし、炎鳥は軌道を変えて、回避したフリーカーに軌道修正して突撃。

 追尾する炎鳥によって、回避したフリーカーも軒並み灰塵と散る。

 手を振るうだけでフリーカーを蹴散らせる無法者二人とは違って札を要するようだが、それでもその術の威力は二人にも劣らない。

 「…………」

 少女二人によってみるみるとフリーカーの数が減っていた。

 ……結局、俺は役に立たないのか。

 二人がフリーカーを殲滅している光景に、ふと、そんなことを思ってしまう。

 悔しいわけではないし、俺なんかの力を必要とするほど、危機的な状況に陥らないことに越したことはないとわかっている。

 でも、ここまで来て何もできないでいる自分に歯痒さを覚えたのも確かだ。

 憤りからか剣を力強く握った。

 そんなことを思っていると、一匹のフリーカーが咆哮を上げて太刀の少女へ向って、攻撃する光景を目にした。

 「ヴァッッ――――ッ!!!」

 他のフリーカーと違い二足歩行で駆けるフリーカー。

 前脚だったモノは、大きく肥大化して巨大な手のようなモノに変化している。

 二脚とは思えない圧倒的な速度で接近――彼女が迎撃する時間を与えず、肥大化した手に備わった大きく鋭い爪で一撃を放つ。

 空を裂く轟音を鳴らし、異様な速度で突撃する。

 「!」

 今までの彼女と違い太刀の腹で攻撃を防ぐ。

 ドッパン――! と凄まじい音で弾かれる少女は、何とか堪えるも体勢を崩しながら後方へ飛ばされてしまった。

 瞬間、フリーカーは彼女への攻撃を止め、方向転換してこっちへ向って走り出す。

 口元から涎を滴らせ、乱雑な走りで接近して来るフリーカーは、道中の同胞を轢き殺しながら突撃する。

 「火鳥荼毘!」

 フリーカーを迎撃しようと即座に炎鳥を放つ――が、

 「「「!」」」

 飛来する炎鳥に向って、周囲のフリーカーを掴むと共に投げつけ、炎鳥を無理やり相殺する。

 一切脚を止めることなく、灰塵と化す同胞を突き抜ける。

 バコンバコンと地面を陥没させる勢いのステップを踏み、彼女のロックから外れながら接近。

 そして、フリーカーは彼女を越えて男性へと突っ込んで来た。

 ――!

 彼女を越えられれば、残るは俺のみ。

 く、クソ。やるしかない!

 男性の前に立ち、襲い来るフリーカーへ切っ先を向ける。

 ……今の俺で本当にやれるのか?

 急激に不安な気持ちが胸の淵に溢れる。が――

 いや――関係ない。

 心が不安に押し潰されそうになるが、すぐさま切り替え、弱音を切り捨てる。

 何もできない自分に対しての憤りは、もう捨てろ――後悔とか、無力感とか、全部後回しだ。今は最善を尽くして、己を成せ(・・・・)

 剣を握る手から力を抜き、接近するフリーカーに鋭く視線をぶつける。

 「フゥ――――」

 一度、深く息を吐く。

 ……動きは、何度も視た(・・)

 浅い呼吸を繰り返し、心臓の鼓動を静める。

 ――再現しろ(・・・・)

 脳内に描くは太刀を持つ少女の動き。

 細部まで観察したその動作を追憶し、今までの記憶/経験と複合する。

 フィクションの動きを備考に、(コア)をリアルの彼女に合わせる。

 自身のポテンシャルを最大限発揮することのできる動きを可能にするように、情報を――微調整。

 何度も脳内で反芻して、体に情報をフィードバックさせる。

 ――記憶を経験に変換。

 「フゥ――ハァ、フゥ――――」

 今一度、深く息を吐き――脱力。

 スッと迫るフリーカーの動きに意識を傾ける。

 観察――一撃を叩き込めるタイミングを測り、その瞬間を待つ。

 が――

 次の瞬間、フリーカーは地面に転がる同胞の死骸を掴んで、俺に向って投げて来る。

 轟音で飛来する肉塊。

 「――――」


 予想外の動き――ではない(・・・・)、その一撃を冷静に回避する。


 飛んで来る肉塊の斜め下に体を逸らし、回避してそのまま突っ込む。

 ……――来た(・・)

 冷静に、秤を刻む。

 バコンッ――!

 地面を蹴り砕き、陥没させながら踏み込む。

 抜刀するように剣を深く構え、脚を絞り込み、腰を捻じる。

 全身の連動――一点を斬るため、全霊を尽くす。



 「――――斬る(・・)



 そう呟き、全身をバネを使って剣を振り抜く。

 鈍い閃光。

 剣は滑らかに、(から)をなぞるように駆ける。


 スッパン――――!


 ザザザと地面を擦る。

 一刀は何の抵抗もなく過ぎ去った。

 「「――――」」

 男性を助けようと走る二人が、その光景を見て足を止め、驚愕した表情を見せる。

 背後のフリーカーはシュッと真二つに斬り裂かれ、臓物と黒い血を散らして肉塊と散った。

 「フゥ……」

 吐息をこぼしながら地面に転がる肉塊に視線を送る。

 手に残る今まで感じたことのなかった感覚を確かめながら、不思議な満足感に少し浸る。

 な、なんとかなったな……。

 少しして安堵から緊張の糸が途切れそうになる。だが、まだまだフリーカーは血肉を求めて襲い掛かろうとしていることを思い出し、男性の前に立ち戦闘態勢を取る。

 その様子を見て、呆けていた二人も再び戦闘態勢を取り直した。

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