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星架の望み《ステラデイズ》・星  作者: 零元天馬
竜殺し編・焔喰らう竜
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第九話・「廻る歯車(3)」

 壊滅した市街地の風景を横目に、声の聞こえる方へ向って全力で駆け抜ける。

 周囲からは焦げた物の匂いに混じって、鼻を(つんざ)くような生臭い鉄の香りと臓物が放つ独特の異臭が漂っていた。

 ここに至るまで何度も嗅いできた匂いだが、ここは今まで以上の強い匂いがした。そして、匂いの中には微かに獣臭も混ざっていた。

 この匂いもまた、この場に至るまでに何度も嗅いできた。

 呼吸が荒くなる。動悸も止まらない。

 嫌な予感に額から冷や汗が止まらなくなる。だが、それでも一秒でも早く声の聞こえる場所へと足を動かす。

 「うわぁぁぁぁあああ! やめろッ! やめてくれぇ――ッ!!!」

 段々と鮮明になる叫び声に焦りが生まれる。

 全力で駆け抜け、声の聞こえた倒壊したビルの中へ突っ込む。

 ビルの中は(フリーカー)で溢れかえっており、周囲に目を向けると食い荒らされた人の無残な死骸が無数に転がっていた。

 血肉や臓物が散らばる死骸を貪るフリーカーは、ビルに入って来た俺を見るなり標的を変えて襲って来る。

 大きく口を開きその鋭い牙を見せつけるようにして、左右から飛び掛かって来る狼型のフリーカー。

 二匹の動きを察知した俺は左脚で、バコンッ、と地面が陥没するような勢いで地面を踏みつけ――急停止。

 攻撃の射線から外れる。

 瞬間、急停止の勢いを乗せて右拳を振りかぶる。

 空中で止まることなどできない二匹はそのまま俺の前で衝突し、

 「邪魔だ、――退け」

 そう呟くと共に拳を全力で叩き込む。

 若干カウンタによる補正を強化したその一撃は、容易に二匹のフリーカーを吹っ飛ばし、前方にいたフリーカーを巻き込み、黒い血液を撒き散らしながら壁に衝突した。

 その光景に感想を抱く間もなく即座に走り出す。

 続々とフリーカーが襲って来るが、カウンタの強化によって超人的な身体能力を発揮している今、問題なく全て回避し切る。

 しばらく倒壊したビルの奥へ進むと無数のフリーカーが、何かを貪っている光景を発見した。

 天上には穴が空いていて月光が差している。

 そして、そこからは助けを叫ぶ男性の声が聞こえた。

 「やや、嫌だ嫌だ、いやだァッ! やめろぉぉぉおおっ!!!」

 段々と呂律が回らなくなっている声を聞き、腰の剣を抜いて男性に群がるフリーカーを剣を薙いで追い払う。

 普通じゃないその声を聞いて少し冷静さを欠いた俺は剣を闇雲に振るう。だが、それでも今の俺が振るえばそれだけで脅威になるのか、フリーカーは男性から離れ俺から一定の距離を取った。

 男性と俺を囲むようにフリーカーが陣取る。

 だが、今はそんなこと気にしていられる状況ではなく、俺は即座に男性に駆け寄り声を掛ける。

 「大丈夫ですか!」

 「……た、助かった、のか?」

 途切れ途切れでそう安堵するように声を漏らす男性。

 しかし、俺は男性の有り様を見て思わず絶句してしまった。


 飛び出た臓腑。

 露出する骨。

 水溜りができるほどの血。


 フリーカーに体のあちこちを貪られ、下半身に至ってはその形を失っている。

 歪む表情は助けが来たことに少し安堵したような表情をしていたが、その顔は真っ青でまるで生気を感じない。

 その顔はここまでに何度も見てきた――死人の顔(・・・・)だ。

 これで生きている方が不思議なほど、その体は悲惨な状態だった。

 「…………」

 「き、君……僕は、一体、どどうなって、るんだ?」

 途切れた声でそう問い掛けてくる男性。

 どうやら自分がどのような状況にあるのかわかっていないようで、俺の表情を見て疑問の表情を浮かべていた。

 「……だ、大丈夫で――」

 とりあえず言葉を掛けなければと励ましの言葉を掛けようとしたその瞬間、


 「なんか僕――全然痛くないんだ」


 「――――」

 そう口にする男性の目は虚ろで焦点が合っていなかった。

 この人は、も、もう……。

 男性の様子を確認して絶望で掛けようと思った言葉が出なくなる。

 俺はそれらが全て無意味だと悟ってしまった。

 「で、でも、なんかかか寒くて、気分、悪く、てて……アイ、ツらに噛まれてる、感覚だけが、残って――」

 どうすれば、どうすれば。

 拳を強く握り締め、歯噛みする思いで頭を回す。

 これ以上は無意味だと解っていて尚、フリーカーが襲って来るのを牽制しつつ、この状況を脱する方法を必死に考え続ける。

 「あ、ああ、月が綺麗だな。こここ、こんな状況になるまで、何とも思わなかったあに。……ああ、今度は、お袋と、親父……一緒に、みみったいな……――」

 クソ――クソ。

 悪態を吐きながら必死に剣を振るう。

 もう死ぬ間際の命でも――まだ生きている以上、俺は見捨てられない。

 「めめ、めいあく、かかけえ……ばかり、だたし……、す、すこ、しは……おやこ、こしななないとな……」

 ああ、クソッ! ……一体、どうすればいい。

 目の前の光景に絶望する。

 段々とフリーカーの数も増えて来た、このままだと俺も殺される。

 もう何を言っているのかわからないほどに生気を失った男性に視線を向けつつ、それでも見捨てる事の出来ない俺は剣を強く握って構えた。

 ――三匹のフリーカーが襲って来る。

 右下、左上、真後ろ。

 三方向からの同時攻撃。

 周囲のフリーカーに警戒しながらも俺は、即座に右下のフリーカーを頭部に向って――斬撃。硬い物がぶつかる感覚を感じつつ、一撃で頭を真二つにする。

 そして、振り上げ様に左上から落ちるように突っ込んで来るフリーカーを斬る。

 厚い毛皮に斬撃が阻まれるも、超人的な筋力で無理やり切り捨てる。

 弾ける頭――

 吹っ飛ぶ頭部を余所に俺は振り抜いた勢いそのままに回転し、後ろから迫るフリーカーに突きを放つ。

 「ヴァ――ッ!」

 「!」

 突きを見舞ったフリーカーは、空中でヒラリと一撃を躱した。

 大きく開かれた牙が俺の喉元へ向けられる。

 が――

 この程度で――死ねるかッ!

 空いている左腕でアッパーするように振り上げ、フリーカーを叩き上げて天上にメリ込ませる。

 凄まじい威力にフリーカーは一撃で絶命。

 「!」

 しかしその瞬間、即座に二匹のフリーカーが背後から飛び掛かって来るのに気付く。

 バンッと勢いよく回転して、二匹の攻撃を間一髪剣で受ける。

 「グ――ッ!」

 「「ヴァッ!」」

 だが、その瞬間――追撃するように三匹のフリーカーが前方から飛来した。

 な、ッ――!

 二匹で両手が塞がってしまった俺は、襲い来る三匹と隙の出来た俺へ攻撃を仕掛けようとする周囲のフリーカーへの対処ができない状況に追い込まれた。

 思わず顔が引き()る。

 コイツらに連携というものがあるのかは知らないが、どうやら俺は仲間?を囮にした罠に掛かってしまったようだ。

 ――考えろ、考えろ!

 絶体絶命。それでも頭をフル回転させ、この状況から脱する最善手を導き出そうとする。

 凶器が俺の命を奪おうと迫る。

 〝死〟が目の前に近づき恐怖で心が縮こまるが、それでも強く固めた意思が〝生〟にしがみつこうと必死になる。

 クッソ! こ、こうなったら……――

 どうしようもないと判断した俺は覚悟を決め、行動に移そうとする。

 その瞬間――

 壁が崩れ吹き飛ばされる音、地面を強く踏み込む音が聞こえた。

 突風が吹くのを感じる。

 視界に黒髪が靡くのが見えた。

 刹那――



 ――()()()()()



 目の前のフリーカーに折れ線のようなモノがスッと入る。

 瞬間――線をなぞるようにしてフリーカーの体がバラバラに細断され、襲って来ていたフリーカーの全てが肉塊と成ってしまった。

 「な、――」

 目の前でバラバラになるフリーカーを見て驚愕する。

 そして、同時に月光に輝く太刀が目に入る。

 だ……誰だ?

 おそらく今の芸当をやってみせたであろう人物。

 腰まで伸びる艶やかな黒い髪。

 制服を身に纏うその腰には太刀が携えられている。

 どう考えても一般人ではないその様子から、多分星十字団の関係者だと思うんだけど……。

 突如として現れた少女が何者なのかと頭を悩ませていると、少女が黒い血を払って太刀を鞘に納めるそっとこっちへ振り返ってきた。

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