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星架の望み《ステラデイズ》・星  作者: 零元天馬
竜殺し編・焔喰らう竜
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第一話・「平穏と不穏を乗せた秤(2)」

ガヤガヤとクラスメート達の雑談が聞こえる中、そっと教室の扉を開いて自席へ向かった。

 途中、何人かと挨拶を交わしながら席に着く。

 「よっ、叢真」

 鞄を置き一息ついたところで聞き覚えるある声が耳に響いた。

 「おはよ。相変わらず早いな」

 「まあな」

 そういい眼鏡の縁をクイッと押す男。

 俺の目の前にいる男は山河(やまかわ)早間(はやま)、キリッとした目が特徴的な眼鏡男子。見た目通り几帳面な性格をした人物で、テストでは毎回学年一位と勉学に優れた男である。

 コイツとは中学からの付き合いでよく勉強を教えてもらっている。

 流石の学年一位、教え方が非常に上手く然程勉強が得意ではない俺を、それなりに勉強をできるようにしてくれた。

 周りからはその堅物さから避けられがちだが、話してしまえばそんなに気にならない。

 ただ少し毒舌気味な発言が多い人間であるため、忌避され易い人物なのは確かだろう。俺個人はそこまで気にしないが、言葉の節々に棘があるなとは思う。

 もう少し言葉と目つきを軟化させれば、人との会話の機会が増えるだろうに……。

 「どうした?」

 ジッと顔を見ていたからか、早間が疑問そうに首を傾げた。

 「いや、なんでもない」

 「そうか? そのわりには意味深な表情だな」

 「それこそ、そうか? 俺の顔はいつもこんな感じだ」

 そう言って自分の顔を指さす。

 「それもそうか……お前、いつも何を考えてるのかよくわからない表情をしているからな。感情死んでるんじゃないか?」

 「ひどくない?」

 しれっと心を抉るような発言を飛ばされる。

 別に自分が感受性豊かで、表情にもそれが現れるような人間味溢れる人物だとは思わないが、人並みに感情はあるわけだし、表情にそれが見られないのは見る側が悪い。俺は悪くない。

 「お前、別に人から避けられてるわけじゃないが、妙な心の壁があるからな。人との会話に膜を張ってるみたいで気持ち悪い……いや、言い方が悪いな。当たり障りのない会話しかしないから、〝人との関係があまり進まない〟――だな」

 「…………」

 この男、ズケズケと人が言われたくないことを真正面から言ってくる。

 確かに早間とは話してしまえば、その堅物さなどは気にならなくなる。が、代わりに――このノンデリ発言が人の心を突き刺してくる。

 なぜここまで言われたくないことを的確に言って来るのか……おそらく彼が人の事をよく見ているからなのだろう。よく観察しているからこそ、相手のことを理解してその言葉を吐ける。

 ……それでなぜ、嫌なことしか言えないのか。

 その着眼点は素晴らしいと思うが、発せられる言葉に難があり過ぎる。

 もっとその人を見る力(・・・・・)で良い事を言える努力をすればいいのに、彼は自身がノンデリ発言をしていることに気づいていない。……クソ鈍感男が。

 俺は早間から視線を逸らし、反撃に出る。

 「目つきで怖がられるヤツよりマシだ」

 「ぐフッ――!」

 本日二度目のクリティカルヒット。

 端的に相手を射殺す言葉。春姉も早間も弱点(ウィークポイント)がわかりやすい。目に見える的を射抜くことくらい簡単だ。

 「お、お前……」

 酷く苦しそうに胸を押さえる早間は、恨みがましい顔で俺を覗く。

 「(なんじ)に出ずるものは(なんじ)に反る、ってやつだ。早間、観察することもいいけどさ、自分の行いで相手がどう思うかも少しは考えた方がいい」

 「…………」

 「無自覚鈍感は嫌われるぞ」

 まあ、八方美人過ぎるってのもよくないんだろうけど。俺みたいに当たり障りのない人間になるのも考え物か。

 よく考えれば、それで苦労しているのがうちの兄だ。

 「……すまん、助言感謝する」

 「どういたしまして」

 笑みを浮かべてそう言葉を返した。



 お前は何様だ、という説教染みた言葉を早間に送ってから数分が経過。早間と雑談を交わしていると、ガシャンと扉を強く開けて教室へ入ってくる人物が一人。

 着崩した制服、耳にはピアス、相手を睨みつけるようなツリ目。見て分かる人相の悪さ、彼が入って来てから何だか教室内がピリついている。

 そんな男がカツカツと靴を鳴らしこちらへ近づいてくる。そして――

 「よーすっ! 叢真に早間、何話してたんだ?」

 満面の笑みと共に陽気な声でそう質問してきた。

 「「…………」」

 俺達はそんなコイツを見て呆れたような表情をした。

 男の名は大浜(おおはま)原崎(はらき)――人相が悪いだけの善人である。

 原崎はその見た目が不良そのものであるが、中身は善性の塊みたいなやつだ。悪事は見逃せず、本物の不良達にも食って掛かるほどの正義感を持っている。

 そんな性質(タチ)のせいか、不良とよく喧嘩を起こし周囲から変に恐れられている。

 が――

 「大浜くん」

 「あ?」

 原崎は振り返り、背後にいたクラスメートの女子に視線を向ける。

 「き、昨日は、助けてくれて……――ありがとうございました!」

 「……ああ、そういやそうだったな」

 深々と頭を下げる女子生徒を見て頭を掻きながら、原崎は少しどうでもよさげに呟く。

 どうやら昨日ちょっとした事件があったようだ。

 よくやるよ、本当に……。

 「気にすんな。また困った事があったらいつでも言ってくれ、力になるからさ」

 「う、うん。ありがとね」

 「おう」

 その人相で怖がられ、避けられても彼は多くの人を助けている。

 爾に出ずるものは爾に反る――さっき早間に送った言葉だが、この言葉に尽きると思う。悪い行いも良い行いも、いずれは全て帰ってくる。

 どれだけ見た目でマイナスがあろうと、行いまでマイナスにしなければ相応に還ってくる筈だ。

 そう――例え、その根底が歪んでいた(・・・・・)って関係はない。

 「で、二人は何の話してたんだ?」

 女子生徒が去った後、再び原崎がそう質問をして来た。

 「俺達はお前が赤点になった今回の期末について話してたんだ」

 「ブフッ――!」

 クリティカルヒット――本日三回目。

 前言撤回。善い行いをしても必ず帰ってくるとは限らないようだ。あくまで善行は一方通行、帰ってくる事の方が稀なんだろう。

 まあ……善行に見返りを求めるのが、そもそも間違ってるのか。

 一人そんな風に自己完結した。

 「おはよ、叢真」

 自己完結を済ませた俺が、目の前で繰り広げられている早間と原崎のくだらない言い争いを眺めていると、トントンと軽く肩を叩き、声を掛けて来る人物がいた。

 「ん。おはよう、命里」

 顔をその人物に向けて挨拶を返す。するとニッコリとした笑みがこちらへ向けられた。

 彼女の名は望月(もちづき)命里(いのり)、小中高とずっと同じクラスの幼馴染だ。

 二つ結びされた青みがかった長い黒髪、薄花色の瞳はまるで宝石の様。整なった顔立ち、すらっとしたその体型……総合的に見て〝美人〟と言わざる得ない人物である。

 若干癪だけど……。

 幼い頃から関係がある故か、周囲が彼女を美人などと言っていると違和感を覚える。能天気なコイツが美人だなんだと持て(はや)されているのが、癪に障る。自慢もしてきてかなり鬱陶しい。

 まあ、美人なのは事実なわけで、認めざる得ないのだが……本当に遺憾だ。

 「…………」

 そんなことを思いながら、今一度――彼女に顔を向ける。

 「?」

 不思議そうな表情がこちらへ向けられ、そっと視線を落した。

 命里とは幼い頃から家族ぐるみで交流があった。小中高と言ったが、正確に言えばそれより前から付き合いがある。

 俺達の両親は昔馴染みだったらしく、そんな両親に連れられ俺達は幼い頃からよく一緒に遊んでいた。命里は一人っ子ということもあって、当時は俺や兄さんくらいしか遊び相手がいなかった。

 特にうちの兄さんは、面倒見のいい性格だったこともあって命里の両親からも信頼があった。

 今考えると俺達の両親は、兄さんに子供の面倒を見させていたのだろう。兄さんは年齢の割にしっかりした人だったし、良識を弁えた人だった。(所々おかしい人ではあったけど)

 両親からはよく早熟だとか、育て甲斐がないとか、私達よりちゃんとしてるだとか言われていた。親としてそれはどうなのか? という発言が多くあった気もするが、それほど兄さんを信頼していたのだろう。

 命里も兄さんのことを本当の兄の様に慕っていた。

 俺は彼女や彼女の両親との関係が好きだった……あの日(・・・)が訪れるまでは、そんな関係がずっと続くと思っていた。

 「二人はまた喧嘩?」

 彼女が問い掛ける。

 「喧嘩ーではないと思うけど……いや、まあ、そうだな。喧嘩するほど仲がいいってやつじゃないか?」

 「「違う!」」

 こちらの会話を聞いていたのか、二人はもの凄い勢いで否定してきた。

 ……これで仲が良くないは流石に無理があるだろ。

 あまりにも息ピッタリな様子にそう思わずにはいられなかった。

 「あー言ってるけど?」

 背後の命里がそう問い掛けてくる。

 「あくまで傍からの意見だ、当人の思いは知らないよ」

 「なーほー」

 両手を組み納得したように頷いた。

 そしてその後、少しの間を開け彼女は俺の前に立ち、少し恥ずかしそうに頬を赤らめ口を開く。

 「叢真、そういえばさ」

 「ん? どうした?」

 「いやね、その……」

 「?」

 どこか緊張した様子の彼女に疑問を浮かべる。

 深呼吸――開き直った彼女は真っ直ぐ俺の顔を見て言葉を紡ぐ。

 「誕生日おめでと叢真」

 「――――」

 目を見開き、少し驚いた様相で命里を見る。

 ……その程度のことに一体なんで緊張した? 毎年の事だろうに。

 何か衝撃的な事実でも言われるのかと身構えた俺が馬鹿だった。いや、嬉しいんだけどさ、でもそこまで緊張するようなことではないと思ってしまう。

 ――いや、世間的な意味(・・・・・・)か。

 「どうかした?」

 「なんでもない。ありがとう」

 疑問符を浮かべる彼女に平静を装いそう感謝を述べる。

 「それでさ、ちょっと帰りに――」

 「命里ちゃんー!」

 彼女が何かを言い掛けたその時、少し離れた位置にいた彼女の友達が声を上げた。固まる命里、少ししてなにやら恨めしそうな表情を友人に向けている。

 「呼んでるぞ? 行かなくていいのか?」

 「もうぉ……」

 「?」

 酷く草臥れた声を出す彼女に、今度は俺が疑問符を浮かべることになる。

 すると命里はくるっと反転し、彼女を呼ぶ友達の元へ向かって小走りで向って行った。

 「あれ? なんか、いのりちゃん怒ってない?」

 「むー」

 「え、なんでっ!?」

 頬を膨らませ突撃した命里によって友人の二人は撃沈される。

 何やってるんだ、アイツは……?

 幼馴染の奇行に呆れた視線を向け――少し彼女を眺めていると、なんだか複雑な心境に気持ちが置かれた。

 「浮かない顔だな」

 「っ――!」

 突然正面からそんな声が聞こえ、驚いて視線を戻す。

 「なんだ、白汰か」

 俺の反応に笑みを浮かべる男。

 目の前にいる男の名は上翅(かみばね)白汰(はくた)

 文武両道、才色兼備を体現した人物。

 勉学は力を入れずに早間に次ぐ学年二位。どんなスポーツも人並み以上にでき、その他のことも卒なく何でもこなせるという正に完璧超人。

 その超人っぷりだけでもチートだというのに、側も内もイケメンというオーバースペックっぷり。クラスを越え、学年を越え、女子生徒から強い人気を誇っている。

 そんな白汰はなぜかは知らないが、一クラスメートに過ぎない俺によく話し掛けてくる。

 「大方、望月さんからの言葉に対して気落ちしたとか、か?」

 「……見てたのか」

 「ああ。どうせ叢真のことだ、自分とは何ら関係ないのに気にしてるんだろ?」

 「…………」

 図星を突かれ押し黙ってしまった。

 「まあ、そうだな。今日は世間的にあまり良い日じゃないだろ? アイツの反応は至極当然だ」

 「そうかもしれないが、別にお前は悪いわけでもない、気にするようなことではないと思うけどな」

 「心の持ち様だ……俺のせいとか、そんな話じゃない」

 白汰は神妙な面持ちのままこちらを見たと思ったら、次に呆れた表情で言った。

 「それはそうとして、趣旨の曲解はどうかと思うよ」

 「は?」

 「状況が悪いのかもしれないけど、長年の付き合い的にわかると思うんだが……まあ、叢真のせいもあるけど、奥手過ぎる方も悪いか」

 「??」

 なにやら自己完結を済ませた白汰が呆れ顔で俺と命里を交互に見る。意味がわからず困惑の表情を向けるが、答えが返ってくることはなかった。

 そうこうしている内にチャイムが鳴り、それぞれが席に着いた頃にはホームルームが始まった。

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