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星架の望み《ステラデイズ》・星  作者: 零元天馬
竜殺し編・焔喰らう竜
27/34

第八話・「百花繚乱:混雑(3)」


 ――星十字団(せいじゅうじだん)・スターレイド。


 〝落ちた星〟より生まれし存在の殲滅及び関連事件の対処、解決を目的に発足された組織。

 各地の様々な組織、団体から出資、支援を受ける他に各組織からの技術提供により、多種多様な超常に関する知識技術を得ている。

 星十字団は、

 竜の襲来(・・・・)という厄災を退けるため集まった――


 ――異理者(異なる理を生きる者)の組織である。


 稼働してしまった厄竜を殲滅するため、本来相容れることのない組織の人間が集まり共に力を合わせ戦う。

 とあるイレギュラーによって落ち星の規模が縮小したことにより、当初想定された規模の組織ではないが、現存する超常に関連する組織において、魔術協会や聖典教会などの大規模組織に劣らない技術力を有した超常組織である。

 ――仮設拠点。

 忙しなく人が入り乱れ、緊張した雰囲気を漂わせた現場。

 そんな鉄火場を仕切るのは金髪の女。

 「大規模術式展開用の龍脈、源脈の確保にもっと人員を」

 『了解です!』

 「砲台用魔術結晶の運搬を優先。申し訳ないですが隊員用の刻装、界装は後回しでお願いします」

 『はい!』

 「そして、厄災兵器(ハイエンド・シリーズ)の移送を最優先に、いつでも戦場に投入できるよう技術班の皆さん、調整しておいてください」

 『了解しました!』

 彼女の指示を受けた者達はすぐさまに行動を開始、人の波が凄まじく入り乱れる。

 今現在――発生してしまった竜災へ対処すべく働く星十字団所属の団員達。そんな彼らへ的確に指示を出し、事に対処しているのは星十字団、総司令官であるミサリ・フォンズ・アルマーク。

 「橘さん、部隊配備の進捗は?」

 そう彼女が問い掛けるのは、素早くPCのキードードを打ち込み情報の処理を行いつつ、各部隊が円滑に動けるように指示を出している人物、(たちばな)圭介(けいすけ)

 カチカチカチと素早いタイピングの最中、スッと軽く視線をミサリに向け言う。

 「予定より若干遅れは出ていますが、七割程完了しています」

 「OKです、急な要請でこの進捗率なら問題ありません。橘さん、第四~六中隊は(フリーカー)を殲滅に向わせ、第一、第二、第三は待機命令。第七中隊以降は人員の揃い次第、次の指示を出します」

 「了解しました」

 指示を受け、即座に各部隊に指示を飛ばす圭介。

 「ある程度、部隊の配備が完了したら救護班と防衛班に人員を回してください」

 「はい」

 そう返事を返しながらPCから意識を逸らさずマルチタスクに作業を進める。

 「ミサリ司令官」

 彼女を呼びながら天幕を潜り白衣に眼鏡の男が現れる。

 ――ジェイル・アドモス。

 いかにもな研究者な恰好をした彼は、資料を片手に駆け足気味に彼女の下へ向かう。

 「どうしました?」

 「はい。星位持ち生徒五名、現着しました」

 その言葉を聞き軽く思案するミサリ。

 数秒の間を空け、彼女はジェイルに指示を出す。

 「報告感謝します。ジェイルさん、その五名には後で私が直接指示を出します。ですので、それまで待機するように伝えておいてください」

 「承知しました」

 指示を受けたジェイルはコクリと小さく頷き、すぐさま天幕の扉へ向かって行く。

 そんな彼の背をミサリが軽く視線で追っていると――ふと(・・)、心配そうな声で女が呟いた。

 「……あの子、大丈夫なんでしょうか?」

 その呟きを聞き入れたミサリは、該当するであろう少年の名を口にした。

 「叢真くんのこと?」

 「はい」

 ミサリの言葉にほんのり俯きながら同意する。

 重そうな資材を持ち上げたまま、ミサリの助手である波瀬(はせ)は彼女に問い掛けるように言葉を紡ぐ。

 「彼は間違いなく……一般人です。それは彼の様子を見ればすぐにわかります」

 「…………」

 「そんな彼を戦場へ……竜の下へ向かわせても、良かったのでしょうか?」

 その問いに対し数秒程の間を空け、彼女は真剣な面持ちで言葉を返す。

 「……波瀬、あなたはどう思っているの?」

 「私は……――間違っていると思います」

 少し躊躇いを孕みながらも、強い眼差しを向けて彼女は言い放つ。

 普段あまり意見しない彼女が珍しく強く意思を示すその様子に、ミサリは少し驚いた様子を見せる。だが、すぐさま表情を戻し、自身に向けられた懐疑の感情を真摯に受け止める。

 向けられた強い眼差しを正面から見つめ返し、質疑応答する。

 「一般人である彼では、向ったその先に待ち受ける困難に太刀打ちできるとは思えません。危険だと知っていながら、見す見す死地を向かわせるのはどうかと」

 「本人が構わないと言っていても?」

 「はい」

 「その行為が善であっても?」

 コクリと頷き彼女は言った。

 「それが善行であっても、死に向うとしていることに変わりはありません。いくら本人が良しとしても、自殺行為に等しいその選択を後押しすることが――人として(・・・・)正しい事だとは思いません」

 「――――」

 迷いなくそう言い切る彼女の言葉に、思わず言葉を止めるミサリ。

 どんな理由があれ、少年のしようとしていることは自殺行為に他ならない。


 少年は――異理者ではない。


 どんなに重い過去を持っていても、後悔に生きた者であろうと、彼はただの少年だ。超常の(ことわり)とは、関わりの薄い人生を送っている。

 ただの少年に、そんな運命を背負わせるべきではない。

 たとえ、その身に全てを覆す天壊の力が宿っていようと、彼はただの少年に過ぎない。

 一大人として、少年の行いは止めるべきなのだろう。

 「……――確かに、そうかもしれないわね」

 間を空け、ほんのり笑みを浮かべてそう呟いた。

 波瀬の言葉を肯定するような呟きには、自身の選択に対しての迷いを感じる。

 が、

 「けど――」

 そう口にしてスッと鋭い視線を波瀬へ向け、彼女は言った。


 「私はこの選択に、後悔はありませんよ」


 「っ――」

 寸分の迷い無く彼女は言い放ち、波瀬はその言葉に驚愕の表情を見せる。

 先程感じた迷いのようなモノは少しも感じられない。

 真っ直ぐと、彼女はただその選択を信じる。

 「確かに正しさ(・・・)という意味で私の選択は、正しいと言えるものではないと思います。……波瀬、あなたの言うように私の行いは正しくないのでしょう」

 「なら、どうして――」

 困惑した様子の彼女を見て、微笑みを零しながらミサリは答える。

 「彼は、私に――〝覚悟〟と〝資格〟を示しました」

 少し前に交わした少年との会話を追憶しながら言葉を紡いだ。

 「〝折れず曲がらずの鉄心を宿した意思〟」

 「…………」

 「己がどれだけ愚かであろうと、間違っていようと……そう在ろうとする彼の――その意思(・・)。それは正しさで測れるようなモノではないですよ」

 そう、その選択は正しさを決めるものではない。

 これは人を救いたいと願い、そのために行動する少年のエゴに過ぎない。そんなモノに正しさなんてあるわけがなく、それはただ己を果たすための必実だ。

 故、この選択は彼が彼で在るためだけのモノである。

 よって――その結末における生死は価値を失っている。

 それは判断材料に成り得なぬ要素だ。

 「波瀬。私はね、それを――()()()()()()()

 その言葉を聞き、彼女は驚愕に目を見開いた。

 「根底にあるモノが歪で、正しいものでないとしても……それを突き通し、人を助けたいと願う彼のその(在り方)を、私はよく――知っています」

 記憶の象形をなぞるように、決して忘れることのないその姿を思い返す。

 心に残る形を胸に力強く瞳を見開き言った。

 「だから、私は――()()()()()()()、とそう思ってしまったんですよ」

 「――――」

 それは少年の願いに(ことづ)けた歪んだ願望なのかもしれない。

 果てに多くの救いがあっても、同様に救われぬ者を生むだろう。

 ――でも。

 彼女はそうしたいと思ってしまった。

 少年の選択を尊重したいと――少年の人を救いたいというその願いの先(・・・・)を、見てみたいと思った。

 「――であれば、私にできることは一つだけです」

 真っ直ぐ迷いのない眼差しが波瀬へ向けられる。

 思い、選んでしまった以上、ミサリという人間はもう止まらない。

 「私は最大限、彼の意思を尊重する。

 その道が例え――終末を辿るモノだったとしても、彼がその道を望むのであれば、



 私はその道に立ちはだかることをしません」



 迷いなど一寸も含まれない純粋な(まなこ)を受け、波瀬はただ黙ることしかできなかった。

 選択に対する敬意。

 彼女は最善のを尽くす為、全霊を懸けて己が役割を果たすだろう。

 ――よく理解している。

 波瀬は彼女に救われたその日から、この場にいる誰より彼女のことを見てきた。だからこそ、彼女がそういう性格であることはよく分かっていた。

 善悪なんてものどうでもよくて、ただ――その果てに広がる世界がどうなっているのか、ですか……。

 結果論の極地。

 過程における手段に頓着はない。ただ物事がどのような終局を迎えるのか。


 ふと――波瀬は、ミサリが少年へ向けて言った言葉を思い出した。

 『異常者(・・・)

 彼女は少年をそう評した。

 確かに、信念のためだけに死地へ向かうその姿勢は、健常者とはとても言えない。

 少年がある種の異常者であることは確かだ。それほどまでに、少年の行動、選択は非常識である。

 だが――


 そのような評価を下す彼女自身もまた――

 ――――紛れもなく〝異常者〟なのだろう。



 「…………」

 満面な笑みを浮かべるミサリを前に、そんなことを思いながら表情を引き攣らせた。

 「……あの、何の話なんでしょうか?」

 そう疑問の声を上げるのは、先程天幕を抜けて指示の伝達に向った筈のジェイルだった。

 眼鏡をクイッと押し、疑問そうな表情を見せる彼。そんな彼に波瀬が説明をしようとすると、ミサリがそんな彼女を遮って答える。

 「いえ――この場に現れた〝想定内の想定外〟のことですよ」

 「?」

 彼女の言っている意味が解らず、ジェイルただ首を傾げる。

 「ジェイルさん、ミサリさんの話はあまり真に受けない方がいいですよ。この人、いつもこうですから」

 呆れた面持ちで波瀬がそう言うと、なるほど、と納得したような表情で苦笑いを零した。

 そんな二人を見て笑みを浮かべてミサリが言う。

 「これは受け売りですよ」

 「……一々言葉をややこしくすることがですか?」

 コクリ、と小さく頷きながら彼女は話す。

 「言葉というのは人と人が繋がるためのモノ。話せば話すほど、相手と深く繋がることができる――でも同時に、言葉は紡げば紡ぐほどに軽く軽く、矮小なモノに堕ちる」

 「「…………」」

 「ですから、言葉の全てを理解する必要なんてないんですよ。なぜなら、言葉のほとんどは無意味と無駄、意味ない遠回りな言い訳が大半を占めているんですから」

 そっと二人に瞳を向ける。

 「重要なのは、そんな言葉からいかに必要で、()()()()()()()を見出せるか……ですよ」

 彼女はニッコリと再度、満面な笑みを浮かべた。

 そんな表情に二人は思わず背筋を震わせる。底知れないモノを漂わせる彼女に、強い畏敬の念を抱かせられる。

 こういうところが、彼女がこの組織の重役に着いている由縁なのだろうとジェイルは生唾を呑みながら思う。

 「ああ。それに――」

 何かを思い出したように彼女は二人を見て言葉を紡ぐ。


 「いくら理解できようと

     理解できなかろうと


  遠に走り出してしまったモノにとって、

  意味も、因果も、運命も――関係はないですよ。

                  なぜなら――――



   もう止まれるわけがありませんから


                      」


 動き出してしまった歯車はもう止まらない。

 動き出してしまった列車はもう止められない。

 ――全て手遅れだ。

 あとはただ全てが終わるまで、幕が下りるその時まで、ただ物語を見守るしかない。

 「なんにせよ。選択は慎重に、後悔のないように――です」

 意味不明という表情を浮かべる彼を無視して、不敵な笑みを零してそう言葉を口にする。

 「ああ、いえ。……――選択は遠の昔に、――後悔など振り切れ、壊れ切っている――でしょうか」

 ほんのり物悲しそうに彼女は言う。

 「不憫といえば不憫ですが――そう在ろうと選んだのは、自分自身である以上――その言葉を贈るのは不適切と言えますね。なんにせよ――私達にとってはどうでもいいことですね」

 フフ、と小さく笑みを零し彼女は言った。

 意味深なミサリの様子に頭を悩ませる波瀬とジェイルだったが、考えても何もわからないという結論に辿り着き、二人は言葉の意味を理解するのを止めた。

 「……ところでジェイルさんはどうしてここに? 指示の伝達に行ったのでは?」

 そう疑問を呈する波瀬に対しジェイルはすぐに回答を出す。

 「ええ。実は彼ら、テントのすぐ外に待機していたので」

 「ああ、なるほど」

 納得したような表情を見せる。

 チラリと天幕の外へ視線を向けると、そこには確かに彼女の見覚えのある者が数人立っていた。

 「さて――私もそろそろ出撃の準備をしましょうか」

 ミサリはそう話を切り上げ、手に持った資料を机に置く

 「波瀬、出動の準備を」

 「はい、了解しました」

 そう指令を受けそそくさと準備に取り掛かる波瀬。

 「橘さん、現場監督はよろしくお願いします」

 「了解です」

 「逐一、無線で指示は出しますが、諸々は全てあなたにお任せします」

 圭介にそう指示を出す彼女は、天幕の外で作業を進める団員達に軽く視線を向ける。

 準備は着々と進んでいますね……。

 そんなことを思いながら彼女は、ふと、天幕の隙間から見える夜空の星月に架かる叢雲へ視線を向けた。

 「さて――結末はどうなることやら……願わくば、多くのものにとっての最良の終わりであることを望みます」

 誰に言うでもなく、彼女は一人呟いた。

 「そして何より、その結末があなたの望むモノであるように――」

 星に願い事をするように小さく祈る。

 しかし、

 「…………フフ。いえ、関係ないですよね」

 自嘲的な苦笑。自身を嘲るような笑みを零した。


 「どんな結末を辿るにせよ――成すべきことを成せ、ですね」


 胸元に手を寄せ、軽く拳を握る。

 「至る先は自分で決める――あなたは誰にも祈らない。……ええ、もちろん解っていますよ。全て、あなたの赴くままに」

 繋がりを持たぬ叢雲が星月を隠す。

 広大に果てなく広がる空すらも、叢雲は覆ってしまう。

 (くろ)い空――

 少女は恍惚とした笑みを零し、暗夜はただ黒く星月を()した。



 「さて――君は一体、

     どんな幕引きを見せてくれるのでしょう?」



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