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星架の望み《ステラデイズ》・星  作者: 零元天馬
竜殺し編・焔喰らう竜
25/34

第八話・「百花繚乱:混雑」

 稼働した災害により崩された街並み。

 割れる大地。

 震える大気。

 ――形を成すあれこれは倒壊し、その形を失う。

 これら全ては、ただ一匹の生命体によって引き起こされた()である。

 落ち星の破片より再誕した災厄。

 その鼓動は盤石の大地を揺らし、その吐息は全てを焦がして風に飛ばした。そして、その身より落ちた残骸(ウロコ)は暴食の限りを尽くす怪物へ新生する。


 視界を覆い尽くすは――この世に塗られた地獄絵だ。


 未だに、静止を続けるその身より引き起こされたとは思えぬ光景(モノ)が、そこには広がっていた。

 崩れた日常は跡形もなく。

 壊れた生命は舞い散った。

 残るのは無数の〝残骸〟と〝後悔〟――

 崩壊後には、『日常を尊んだ思い出』が何の意味もなく胸の残るだけ。そんなモノに意味なんて無くて、壊れた後のその記憶はただの苦痛に成り下がる。

 燃え盛り、崩れ去り――その機能/意味(カタチ)を失いつつある都市。

 平和だった時の面影を微かに残した都市は、まるで崩壊都市(・・・・)というべき姿を見せる。

 こんな悲惨な状況を生み出した生命体。

 それは――()


 まさにこれは――〝竜災〟である。


 人類はおろか、地球上にいる数多の生命を滅ぼす最悪の存在。

 生命体としての基礎性能(スペック)がまるで違う。(ゆえ)、生存のための行動全てが周囲へ多大な負荷を掛ける。

 それはまるで人間が小さな虫を踏み潰し――〝殺す〟ように、その行動に意味や理由があるわけではない。ただ生きるために行動しているだけである。

 だが、その歩みが多くの悲劇を生み出す。

 存在そのものが災害なるモノ。


 それが――(ドラゴン)である。


 「フン……まったく、どうかしているな」

 地獄絵を眺める男は呆れたように呟く。

 キッカリと着こなされたスーツの上に、深い藍色のコートを身に纏った男。

 紅碧(べにみどり)色の腰まで伸びた長髪を風に靡かせる。冷たく鋭い藍色の瞳の奥には、異様なまでの執念を宿している。

 腕を組み尊大な態度を見せる男は、焔に焼かれる街を力強い眼差しで覗いていた。

 彼の名は、ヴァーリ・アーテウス――星十字団所属の魔術師だ。

 「何がです……?」

 荒々しく冷たな雰囲気を漂わせるヴァーリの背後にいた青年が、疑問の表情を浮かべて問い掛けた。

 「……態々(わざわざ)聞くことか?」

 「いえ、聞いてみただけですよ」

 ヴァーリの言葉にニッコリと胡散臭い笑みを浮かべて答える。

 そんな彼の様子を見たヴァーリは、やれやれ、と少し疲れた風な呆れ顔を見せた。

 牧師の恰好をした金髪の青年。

 何を考えているのかわからない笑みを張り付かせた表情。ほとんど瞳を開かない糸目。穏やかだが、どこか不穏な雰囲気を漂わせる姿。

 それらの要素が相まって、そこはかとない胡散臭さを感じさせる青年。

 ――ローシュム・リュドミラード。ヴァーリ同様、星十字団に所属する者である。

 ニコニコと張り付いた笑みを彼へ向ける。

 「まったく……」

 彼の虚言めいた様子に呆れるヴァーリはその藍色の瞳を軽く閉じた後、少しして後方で竜戦へ備え、準備に取り掛かっている星十字団の隊員達へ向けられる。

 そんな彼らの様子を覗き、失望と呆れの表情を零した。 

 「まあ……お気持ちは理解できますよ」

 「…………」

 「我々の相手は、人知など軽く超越した存在――〝竜〟です。そんなモノに対して、この程度の()()の雑兵……ハッキリ言って上の頭を疑いますよ」

 そういいローシュムは笑みを浮かべた後、はぁ、と小さくため息を吐いて割と本気で困った表情を見せた。

 「フン……、まったくだな」

 彼の様子にヴァーリは同意するようにそう言葉を口にした。

 お伽話、与太話で聞いただけの存在だったとしても、魔の術を学び、その知識を有しているのであれば〝竜〟という存在の脅威を十分に理解できる。

 ――にも関わらず、超常に触れたばかりの魔術使い(ビギナー)のような浅い考え。

 数十、あるは数百もの時を超常と触れてきた者とは思えない判断。そんな上のことを考えれば、彼らの様子にも納得いくだろう。

 ヒュゥー、と少し熱の籠った夜風に吹かれる二人は竜のいる街へ視線を向ける。

 そんな中、ふと――ヴァーリはあることに気付く。

 瞬間、嘲笑うような笑みを零れる。

 口元を軽く手で押さえて笑いを堪えようとするが、押さえきれない笑いは簡単に口から漏れる。

 「フハ、フハハ……」

 「……なんですか、その笑いは」

 彼の様子にローシュムは少し不満そうに問う。

 「いや、すこしな」

 笑いを押さえながら彼は答える。

 「……奇跡の〝秘匿〟と〝独占〟を旨とする教会の人間(貴様ら)が、これほどの奇跡を前にして代行者の一人も寄こさないとはな」

 「――――」

 「こちら側としても言えたことじゃないかもしれんが――そもそもとしてだ」

 どこかバカにするような笑みを浮かべ言葉を続ける。

 「我々魔術師は事態の収拾に精を出すほど、世のため人のため、なんていう義で動く組織ではない。己が目的のために全てを懸ける酔狂者の集まりだ……()()()()()()()()などそうはいない」

 冷淡にヴァーリはそう言い放つ。

 そんな彼の言葉を受け、ローシュムは悲哀の眼差しを彼へ向けた。

 「……まあ、そうですね。あなたの言葉、否定はしませんよ。このような状況に置かれていながら、人員を出し惜しみする上の考えが理解できないのは事実ですから」

 ローシュムは同意するようにそう口にした。

 が――次に、少し言葉を強くして異を唱える。

 「ですが、一つだけ反論させてもらいます――」

 スッと視線をヴァーリに向けつつ彼は言う。

 「奇跡の〝秘匿〟と〝独占〟については同意しかねます」

 「フン、そんなことか」

 鼻で笑い彼は続ける。

 「貴様らは(てい)のいい論を述べているだけだろう」

 「いえ、私達はただ――しゅに認められた者だけが奇蹟を行使できるようにしているだけです」

 「……尚更(なおさら)タチが悪い」

 忌々しいという風に表情を作り、彼はそう言葉を口にした。

 「なに、人の世の秩序を守るためには、これくらい徹底しなければならないんですよ」

 言葉の不穏さに反してニッコリと屈託のない笑みが見せる。

 「それに咎人による神秘の乱用……神秘の貴重性を落とす行為はあなた方だって困るでしょう?」

 「否定はしないが、我々は真理の探究という枢軸(すうじく)の過程であり、それ自体を目的とはしていない。前提を違えている」

 「確かにそれもそうですね」

 「…………」

 ローシュムの言葉に疲れと呆れの混じった表情を向ける。

 同時――〝秩序の寡占者(かせんしゃ)〟と呼ばれ恐れられている彼が本来所属する組織の異名を思い出し、その独善的な在り方に思わず苦笑を零して見せる。

 フン、まったく――気色の悪い連中だ。

 方向性の全く違う組織、故の齟齬(そご)。互いに目指そうとしている未来図の乖離。

 本来、相容れぬ組織の人間を〝人類の敵を殲滅する〟という共通目的を理由に、無理やり味方同士にして戦わせている。ある種、星十字団という組織の歪さの象徴。

 「ヴァーリ。先行く」

 「――っ」

 突如として聞こえた声に、ヴァーリが微かに驚いた反応を見せる。

 ひょこり、と彼の横から赤紫髪の男が前に出た。

 「……クガク、貴様か」

 「ブイブイ」

 赤紫髪の男は両手でピースを作りそう言う。

 星十字団所属。ヴァーリ・アーテウス同様の魔術師――須白(ましら)九嶽(くがく)

 特徴的な赤紫髪と鋭いツリ目。小柄且つ童顔であるため幼い印象を抱くが、れっきとした高校一年生である。

 「早いですね、マシラ君」

 「他のが遅いだけ――」

 ローシュムの言葉に対し、サラッとそう返す九嶽にヴァーリが小さく笑みを浮かべる。

 「……相変わらずだな、貴様は」

 自分本意なその言動は実に魔術師的だ。

 真理の探究の為、禁忌を犯すことを(いと)わない異端者。届かぬと理解してもそれでも探究を続ける酔狂者らしいという意味において、彼はとても魔術師らしいと言える。

 「二人は行かないのか?」

 首を傾げ九嶽は問い掛ける。

 「そうですね、私達はもうしばらくしたら向いますよ」

 「そっか」

 小さく納得の言葉を口にしたその瞬間、ヴァーリの鋭い声が響く。


 「――()()()()()だろうがな」


 「「――――」」

 その言葉に一瞬驚きを見せる二人。だが、すぐに「それはそう」と同意するような表情を見せた。

 「あんなモノに一介の魔術師、執行者が敵うわけがない。たかが学園での上位層など、竜の前には無意味に過ぎんさ……アレは外位持ちのバケモノ共に任せる他ない」

 「まあ、あの方々でも勝利できるかは判りませんけどね」

 「勝てなきゃ、ジ・エンド。オシマイ」

 「ハハハ……、厳しい現実ですね」

 困った表情で笑うローシュム。

 焔に燃える夜に響く笑い声。その主に対してヴァーリと九嶽の二人は笑い事じゃないという視線をぶつける。

 「まあいいや……」

 ローシュムへの視線を外し、前へ出る九嶽は背後のヴァーリへ視線を向けて言う。

 「とりあえずオレは行く」

 「そうか」

 コクリと頷き言葉を続ける。

 「ある程度、働いて死にそうになったらさっさと逃げる」

 潔く胸を張ってそういう九嶽。

 そんな彼にローシュムは笑みを見せ、ヴァーリは――

 「――貴様は本当に変わらんな」

 言葉を送り口元に小さく笑みを浮かべた。

 「ま、死にたくはないからな」

 指で口角を無理やり上げ、笑みを作って見せる。

 「()()()()()()()――エスケープ・アンド・エスケープ」

 そう言葉を残して九嶽は全身の回路を起動させる。

 バチバチ、と黄緑色の光をスパークさせ、全身に這う魔術回路から魔力を捻出して身体強化を発動。

 瞬間、常人が出せる速力を軽く超えた速さで走り出す。トントントン、と軽やかに地面を蹴り進むその姿はすぐさま焔の覆う市街地へ消えて行った。

 死ぬな、か……。

 ヴァーリは去り際に受けた言葉を思い返しながら、拳を固く握り締めた。

 「フ~、フ~ん。フフン♪」

 走り去った九嶽の背をぼんやりと眺めていた二人の近く、突如として陽気な鼻歌が聞こえる。

 二人の視線は後方数メートル先に向けられた。

 彼らが視線を向けた先には、緊迫した状況に反して上機嫌に鼻歌を鳴らす、黒髪長髪の白面を付けた人物とその背後に、長髪の人物と似た面を被る黒衣の二人がいた。

 そして――

 そんな彼らの背後には、めんどくさそうな様子で腕を組んだ青年が陰に隠れ佇んでいた。

 面を被った三人と一人。

 長髪の人物が被る面には、二重丸の目が描かれ右目には黒い線。一方、背後の二人には両目だけが描かれているという違いがあった。

 月明かりを受け不気味な雰囲気を醸しながらも、どこかルンルンと機嫌の良さそうな長髪の人物。そんな姿を見て不可思議そうな表情を向けるローシュム。

 ヴァーリは瞳を閉じ、一泊程の間を開けて口を開く。

 「――貴様らも出るのか?」

 キリッと鋭い視線を向けその場にいる者達へ問い掛ける。

 カツカツ、と小気味いい足音を鳴らしていた黒衣の三人がその言葉に足を止めた。

 「はぁーい、ヴァーリ」

 右手をパッと大げさに振って見せ、気味の悪い真っ白なお面が彼へ向けられる。

 そんな様子に怒気を孕んだ声で言う。

 「質問に答えろ」

 「まったく、君はせっかちですね」

 「黙れ――早く答えろ」

 鋭い眼光を向けると白面は肩を竦め仕方なさげに答える。

 「まあ、そうですね……任務ですし、一応は出るつもりですよ」

 つまらなそうな様相の白面。

 最初から素直に言え、とヴァーリは呆れた視線を白面へ向けた。

 「なんだか機嫌が良さそうですね、ソウカク」

 ローシュムが愛想のいい笑みを浮かべてそう尋ねる。

 「そう見えますか?」

 「ええ、いつもはもっと退屈そうですから」

 ニッコリと笑みを浮かべそう言うと、白面は少し不満そうな様子を見せる。

 「違いないので、否定しないですけど……――そこまでキッパリ言われてしまうと、ほんの少しムカついてしまいますね」

 ハハ、と小さく笑いを零しながら、白面の人物――喪愨(そうかく)は言った。

 「思ってもないことを口にするんじゃないんだな――()()()()()()が」

 鋭く敵意の籠った眼光を喪愨達へ向けるヴァーリ。そんな彼の様子に呆れたような表情を見せるローシュムだが、止めることなく静観を決め込む。

 一触即発――というわけではなく。

 そう言われた本人は大した反応は見せず、平静を保って言葉を返す。

 「――それもそうですね。人間、思ってもない事を口にして、自分を偽るのはよくないですよね。反省、反省」

 事もなげなくそう口にする。

 そんな喪愨に対してヴァーリは鋭い眼光をぶつけ続ける。

 「……えー、それで、どうして機嫌がいいんですか?」

 少し殺伐としてしまった雰囲気を変えるためか、ローシュムが先の質問について追求する。

 「いえ、大したことはありませんよ。ただ少し――異常(イレギュラー)に逢ったことに思わず、心躍らせているだけですから」

 「イレギュラー?」

 「はい。とっても素敵な異常(イレギュラー)です」

 面の上からでも分かる嬉々とした感情。

 そんな喪愨を見て、ローシュムは軽く目を見開きを驚いた。

 普段から鬱屈とした様子で、全てに対してつまらなそうにしている喪愨。そんな彼を知っているローシュムにとって、これほどまで彼を歓喜させる出来事があったという事実は驚きだった。

 ローシュムが驚いている中、ヴァーリが怪訝そうな表情で問い掛ける。

 「ところでソウカク、貴様……一体ソイツは何者だ(・・・)?」

 「?」

 そう質問を受けた喪愨は不思議そうに首を傾げた後、言葉の意味を理解したように声を出す。

 「ああ、彼ですか……彼は道中、出会った顔馴染みですよ」

 「顔馴染みだと?」

 「ええ、以前の任務で少しお話する機会があってですね。同族(・・)として、軽く協力を仰いで見たところ……(わず)かながら尽力して頂けるとのことで、この場まで付いて来てもらったんです」

 喪愨の言葉に疑いの眼差しを向けるヴァーリとローシュム。

 彼を知っている身からすれば、彼から協力要請という言葉は〝脅迫〟という単語を聞こえの良い言葉にしたに他ならない。特に浮かない表情をしているそこの青年を見ればそれがよく分かる。

 腕を組み、ヴァーリ達の会話を興味なさそうに聞いている青年。

 この竜伐を目的とした者達が集まる場所には不釣り合いな、竜への闘争心の無さ。おそらく喪愨に無理やり連れて来られただけの人物。

 ……なんだコイツは?

 しかし、ヴァーリは青年の不思議な雰囲気に強い違和感を覚えていた。

 軽く威圧を込めた視線を向け問う。


 「貴様――一体何者だ?」


 鋭く胸穿つ眼光と共に放たれる言葉。

 「――――」

 しかし、その質問と威圧に対して青年は反応は示さず、そのまま目を伏せ何も答えなかった。

 ヴァーリは青年の反応を見て軽く驚く。

 軽くとはいえ、自身の威圧を受けたのにも関わらず一切の動揺がない。喪愨の〝同族〟という発言があったとはいえ、その事実に些か驚かずにはいられなかった。

 「――……フン、まあいい」

 これ以上の追求は無駄と判断し、青年から視線を外す。

 「さて僕達も、もうそろそろ動くとしましょうかね」

 そういい喪愨は背後の二人を連れてヴァーリとローシュムの前に出る。

 「一応言っておく……――今の戦力じゃ、勝負にもならんぞ」

 「まあ、でしょうね」

 大して反応を見せずそう言った。

 「星十字団など所詮、寄せ集めのごった組織。勝率など無いに等しい」

 「キッパリ言い切りますね」

 「当たり前だ。多少でも竜を――いや、()()()()()()()()を知っているのなら、(タカ)が神秘を行使できる程度の人間が、それらに勝てないことくらい理解出来ない筈がない」

 ヴァーリがそう言い切るとローシュムも同意するような表情を見せた。


 「そんな怪物を殺すことができるのは、同じ怪物か――



 ――――()()()()()()()だけだ」



 鋭く強い眼光を喪愨へ向ける。

 その言葉を聞いた喪愨から――




 「――――――――」




 グゥワン、と音が鳴っているように錯覚するほどの、得体が知れない怖気を誘発するおぞましい殺気が発せられる。様々な感情が煮詰まった混沌としたモノが周りに広がる(侵す)

 ヴァーリすらも一歩後退させ、張り付いた笑みを見せていたローシュムにも冷や汗を掻かせる。

 喪愨はすぐに殺気を引っ込める。

 少し落ち着いたところでヴァーリが問う。

 「……貴様らが、上の命令は絶対というのは知っている。だが――組織への忠誠心というのは、絶死の地へ向うほどのモノなのか?」

 「…………」

 純粋な疑問。

 「――まあ、そうですね」

 数泊の間を開けた後、喪愨がそう口にすると胸元に右手を寄せ、礼儀正しくヴァーリ達に頭を下げて言う。

 「我々の命は全て組織のモノ――上の命令は絶対でございます」

 喪愨はどこか狂言めいた口調で慇懃無礼に言葉を並べる。

 次の瞬間――背後にさっきまでいなかった筈の黒衣の集団が現れる。

 そんな光景に二人は驚くことはせず、訝しんだ表情を向けた。だが、喪愨はそんな二人の様子に反応することなく、言葉を続けた。

 「死を恐れることも、

  生を望むことも致しません。

  我々の命は全て、道端に転がる石同然――この命に価値などありはしません。役割を全うして、往々(おうおう)に砕け散りましょう」

 面越しにも読み取れる不気味な笑み。

 ローシュムはそんな喪愨を理解できないものを見る目を向ける。そして、ヴァーリは呆れと困惑の混ざったような表情で呟いた。

 「どうかしているな」

 「はい、僕もそう思います」

 頭を上げ、胸に置いた手を下ろすと彼は素面で即答した。

 きっとその面の奥は、満面の笑みを浮かべているのだろう。それほどまでに彼の言葉には喜色が孕んでいた。

 「さて――散々、死地へ向かうような発言を取った後で言うのもなんですが……今回の目的は現状の把握のみですので、無意味に死ににいくつもりなのど毛頭ないんですけどね」

 「「…………」」

 ケロッとそう口にする喪愨に思わず呆れた表情を見せる二人。


 「とはいえです――」


 彼がそう言葉を口にした瞬間――周囲の空気が気味の悪いものへ変化する。

 ゾクッ、とその場にいる者達に悪寒が走る。

 「竜の脅威を知るためにも、この場の数名には投げ石になってもらうつもりですけどね?」

 その言葉を聞いてローシュムが忌々しいという表情を浮かべる。

 「――性格が、悪いですね」

 「これが我々のやり方ですから」

 平然とそう言ってのける喪愨の様子に嫌悪の視線を向ける。

 「それでは二人とも、生きていればまたいつか」

 そう言ってヴァーリとローシュムに頭を下げる。

 フン、と鼻を鳴らすヴァーリは、思ってもいないことを、という視線をぶつける。

 そんな彼の視線を受け、少し嬉しそうな様子の喪愨は次の瞬間――姿を消した。

 同時、その背後にいた黒衣の二人と集団も一瞬にして消え去っていた。

 「…………」

 ヴァーリは、ふと、先程いた青年の方へ視線を向けたが――

 その少年もまたいつの間にか消えていた。

 「……まったく。竜も厄介だが、人間も大概だな――」

 ポツリ、とそう呟くと同意するようにローシュムが微笑を零した。

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