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星架の望み《ステラデイズ》・星  作者: 零元天馬
竜殺し編・焔喰らう竜
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第七話・「竜伐隊(4)」

 少し神妙な面持ちに変わったミサリさんが現状について話し始めた。

 「竜の稼働開始より約二時間。町の中心部に鎮座する竜には、未だ動きは確認されていません」

 二時間前……、俺が目を覚ましたあたりか。

 謎の夢から目覚め、窓の外に見えた緋色の風景を思い出す。記憶が正しければ、彼女の口にした時間は大体その頃の筈だ。

 「あれ? まだ動いてないの?」

 ルジュがそう呟き、答えるようにミサリさんがコクリと頷いた。

 すると、クレアが難しい顔で言った。

 「不自然(・・・)だ」

 「はい、私もそう思います」

 彼女の言葉にミサリさんも同意し、そのまま言葉を続ける。

 「稼働から二時間が経過しているにも関わらず、一切の動きが見られない。何らかの異常事態が発生しているのが妥当かと……いえ、そもそも、クリオスの演算結果より四時間も早い稼働の時点で異常でしたか」

 そういい彼女は、困った(・・・)、という表情を浮かべる。

 そんな彼女に対して、クレアはほんのり笑みを浮かべて言葉を返した。

 「アレは理論上の空想物を、無理やり現在の技術を詰め込んで生み出したモノ。いくら莫大な魔力リソースがあるとはいえ、あんなモノが真面(まとも)に動く方がおかしい。大体の稼働開始日を算出できただけで、十分上出来と言えるよ」

 「……それもそうですね。一応、二次予測のここ数日というのは当たっていましたし、そう卑下する案件でもないですね」

 少し残念そうであるものの、そんな気持ちを切って表情に笑みを戻した。

 そして次に、再び真剣さを孕んだ表情で彼女は言う。

 「なんにせよです。竜が動き出していない現状が不気味であることに変わりはありません」

 「ええ、なんだか嫌な予感がする事だし、早めに行動をしたいところだ」

 彼女の言葉に同意するようにクレアは口にする。

 ……確かに、嫌な予感(・・・・)はするな。

 俺も胸騒ぎがしている。

 今この状況は、非常マズイと〝何か〟が訴えかけて来る。焦燥にも似たこの感覚――一刻も早く行動しなければ大変な事になる、そんな気がした。

 不穏な現状に少し重い空気が流れる中、ルジュが楽観的な声を上げる。

 「うーん、まあでもいいんじゃない? 動かない分には、私達はゆっくりと竜の元へ行けるんだし」

 「……そうかもしれませんが、竜の稼働に伴う延焼と(フリーカー)の発生は、この町に甚大な被害を及ぼしています。いくら動かないとはいえ、悠長にしていられないのは変わりありませんよ」

 「あー、それもそっか」

 ミサリさんの返答に、少しどうでもよさげに応える彼女。

 わかってたけど……ルジュにとって竜による被害は、()()()()()()()なんだな。

 ほんのり残念な気持ちになる。

 だけど――別にその事実(コト)に〝呆れ〟や〝憤り〟はない。

 当たり前だ。誰も彼もが、人を救うために行動しなきゃいけないなんて思っていない。人を助けるという行為、それが根底にある人助けなんてものの方が珍しい。

 基本的に人が人を助ける理由は、他の要素が絡んでいる。

 無償の善意による人助け――そんなモノは稀有だ。

 だからこそ、彼女がこの場にいる理由が、本当にクレアと勝負することでも、その他の目的だったとしても、その事に負の感情を抱くことはない。


 俺は――善意のない人助けに、嫌悪も軽蔑もしない。


 それにクレアから聞いたが、魔術師というものは元来、真理の探究のためには手段を択ばない自己中心的な者達。過去には非人道的行為も躊躇いなく行い、多くの犠牲の上、今の魔術体系?を構築したとのこと。

 (ゆえ)に、この竜伐(りゅうばつ)に参加している魔術師の大半は、真理探究の一環としている者が大半らしい。であれば、魔術師という在り方において、目的を邁進するルジュは何も間違っていない。

 多くの者が、単に誰かを救いたいという気持ちでは動いていないんだ。

 ――と言っても、彼女曰く、真理探究を目的としているのは魔術師だけで、それ以外の人員は普通に人類の害となる竜を討伐するため、手伝ってくれていると聞いた。

 などと記憶を掘り返していると、ミサリさんが話の続きを口にした。

 「竜による被害、特に殻……あれらはその数を急速に増やし、被害域を拡大させています」

 ……そうか。殻が竜の(ウロコ)である以上、竜が生きている限り増え続けるのか。

 一体一体かなり強力な黒い相貌の怪物。

 脳裏には、大地を覆い尽くすほどの黒い怪物の絨毯(じゅうたん)想像(イメージ)出来てしまい、顔から血の気が引くのを感じた。

 「正直、これ以上竜への戦力が減るのは困るのですが……やはり、その大本である竜の討伐をしなければ、この問題もどうしようもないでしょうね」

 「だろうね……ところで学園の星位持ち生徒はもう出ているの?」

 「はい、半数ほどは既に事に当たっています。それぞれが市街地を進み竜の元に向いつつ、殻の殲滅を行ってもらっています」

 話を聞いたクレアは考え込むように腕を組み、右手を口元に添える。

 知識のない俺は、下手に意見を出すわけにもいかず(そもそも何も思い付いていない)、彼女達の繰り広げる会話を静観した。

 「じゃ、私達も同じように殻討伐しながら進む?」

 不意にルジュがそう提案する。

 しかし、その提案を拒否するようにクレアが首を横に振った。

 「いや……私達は殻の討伐は最小限に、最短で竜の元へ向かった方がいい」

 「そう?」

 少し疑問そうに首を傾げるルジュに、コクリと頷いてクレアが言った。

 「ハッキリ言って、今の人員で竜相手に傷を負わせられるのは、私とルジュだけ……なら、下手に殻の数を減らすより、竜討伐に全てを出し尽くした方がいい」

 彼女の意見に、なるほど、と納得した表情を見せる。

 同時、彼女の話を聞いたミサリさんが声を上げた。

 「私もクレアさんと同意見です。正直なところリリィさんのいない今、お二人以外にアレに損傷を負わせられる人材、星十字団(うち)にはいませんからね」

 「――え!」

 ミサリさんの言葉を聞き、思わず驚いた声が漏れる。

 この道中、散々彼女達の実力は見せられたが、話に聞く竜に通用する人物だったとは……確かに、それが事実であれば、竜の鱗である殻程度、余裕なのも納得できる。

 どうりで強いわけだ。

 二人を見て、再度その事実を噛み締め納得した。

 それにしても……クレアはわかるけど、ルジュにそんなイメージは全然抱かなかったな。

 ルジュに視線を向けそう思った。

 強いことは十分理解していたけど、諸々の要素が絡み合って〝強い〟という印象は薄れていた気がする。それより、強烈に(・・・)猛烈に(・・・)、めんどくさい人間という印象が大半を占めていた。

 やはり人は内面も大切なのだと、隣にいる(ガワ)だけ美人を見てそう思う。

 「ねえ、叢真? なんか失礼なこと考えなかった?」

 「…………、いや別に?」

 ルジュの問いに、スーッと視線を逸らしながらそう答えた。

 次の瞬間――ピキッ、と何かが切れる音が聞こえた。

 「……――やはり、お二人には最短距離で竜の元へ向かってもらいます」

 隣の少女による不当な暴力を受けていると、長考を終えたミサリさんが真剣な眼差しをルジュとクレアの二人に向け、そう言葉を口にした。

 二人はその指令にコクリと頷き、続発する言葉を待つ。

 「幸い星十字団の他にも、竜伐に協力してくれる組織はいくつかありますし、殻の方はこちらで何とかしてみます。お二人は竜を優先してください」

 「了解」「ええ、わかったわ」

 一切の迷いなく、ほぼ同時に了承の返事を返す二人。

 そんな二人を見てミサリさんは、今一度優しい笑みを見せた。

 そして、そのすぐ後――突如として彼女の視線が俺の方へ向き、鋭く射抜くような眼光が胸を刺した。

 「叢真くん。君は――()()()()()()()()んですか?」

 「え」

 突然の質問に呆けた声を漏らす。

 ――いや、突然ってわけでもないか……。

 数秒の合間(インターバル)でその問いが飛んで来ることが、当然であることを悟る。

 そうだ、当然の順序だ。

 「クレアさんとルジュさんは、この竜伐隊――星十字団(スターレイド)の構成員です。この場にいるのは、竜を殲滅するという目的があるからです」

 「…………」

 ――この問いは、必ず来る一つの選択。

 選ばない、なんてことはできない。


 「でも――君は違う(・・・・)


 …………、…………。

 「今一度問います。君はこれからどうするつもりなんですか?」

 決してこの問いから逃げられないようにと、問い詰めるように視線が向けられる。

 ……選択は今か。

 遅かれ早かれ、必ず訪れる選択――今はそれが来ているだけだ。

 ならば、俺はただ選択すればいい。

 選択、か……。

 目の前に差し出された選択に頭を強く悩ませる。

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