うららかな午後を幼なじみが邪魔してくる
初めまして。
お楽しみいただけると幸いです。
「エリザベス!俺の虫除けになってくれ!」
久々の休日。うららかな春の日差しが降り注ぐ昼下がり。
庭での妹とのティータイムは、突如現れた無粋な声に邪魔された。
「嫌ですけど?」
いや黙るなよ。
なんで、断られると思ってなかった…って顔してるんだよ。
絶句したいのはこっちだわ。
それから、「まあ!」と言ったきり口元に手を当ててお上品に驚いている妹よ。
申し訳ないが、あなたの思い描いているような薔薇の花咲き乱れる関係ではないんだ。
安心しろ、こんな奴は姉ちゃんが追い払ってやる。
「休日になんの御用でしょうか?なるほど、ストーカーとして領主様に裁いて欲しい!であるならば、今から城に向かいましょうか!」
妹を意識したお嬢様口調で、ポンと手を打って立ち上がると、目の前の男はスッと後退りした。
「ス、ストーカー!?休日にお隣さんに来ちゃダメなのかよ!」
いや、ダメっていうか邪魔だもん。
休日にまでわざわざあんたの顔なんか見たくもないわ。
思ったことを口にすると、目の前の男は、なんだか傷ついた顔で見てくる。
クリストファー・ブラウン。18才。
捨てられた子犬のような目で見られると、なるほど世の女性はこれにコロリと行くんだろうなと納得できる。
が。
「どうせあれでしょ、5股くらいかけて怒られて、にっちもさっちも行かなくなったから新たな女を登場させて誤魔化そうって魂胆でしょ。1人でやってろ。巻き込むな。」
「い、いや、違うんだって!ちゃんと1人1人とは真面目に付き合ってたんだよ!でも、ちゃんと別れてるのに、相手が別れてないと思ってて、逆上して包丁持って追いかけられてきて…」
下らない。気持ち悪い。
付き合っただの、別れただの、別れたと思いきや別れられてなかっただの。
俗な小説に書いてあるようなことを実際にやっている人間がいて、それが隣の家に住む同い年の幼なじみだという事実に吐き気がする。
「あのぉ、あんまりそういう話をお姉様の耳に入れるのは…」
やや困った顔で妹が助け舟を出してくれる。
騎士という少し変わった道を選んだ私のことを陰日向になって助けてくれる、よくできた妹だ。
女だてらに騎士なんて、女性らしく細やかな気遣いができて。
そんな”女”という言葉で私たちをしたり顔で分析してくる人たちに腹が立つあたり、実は性格も似ているのかもしれない。
「あ、いや、そう。追いかけられた話はどうでも良くてだな。あのー、なんというか、虫除けにするならエリザベスしかいないと思って、この思いを伝えたくて、」
「出てけ」
不愉快でたまらない。
話を遮って睨みつけると、失言した自覚はあるのだろう。クリストファーも流石に焦っている。
”虫除けにするならお前しかいない”
付き合おうとは思わないけれど、他人を追い払うのには打って付けということか。
人を馬鹿にするのも良い加減にしろ。
イライラしながらお茶を飲み干すと、肩を落とし、しょぼくれた感じのクリストファーが我が家の庭を出ていくのが視界の端に入る。
向かいで妹が小さくため息をついた。