君がファンサをくれた日に~クリスマスの天使~
「待ちたまえ、半目になってる。」
「マオリ!今ちょっとずれてシャッター押したでしょ!」
「んーうう?」
「ボクもやりたいなー。」
「ケコア・・・もっと機械音痴・・・。」
定例になったクリスマスのプロマイド撮影。自分たちで思い思いに撮るためカメラマンもメイクさんもいない。ユニットを組み始めた頃からの毎年の楽しみだった。
・・・今年を除いては。
「ノア。浮かない顔してるね。」
「ヒロ。いやまあ・・・。」
「クリスマス誘うんじゃないの?さくらちゃん。」
「そうなんだけ・・・何で知ってるんだ。」
「ふふふ、お兄ちゃんは何でも知っているのさ。」
撮影を終えたヒロがホットティーを差し出しながら言ってくる。さすがリーダー、と言ったところか。俺の悩みを一瞬で見抜いた。いやそもそも何で知ってるんだって話なんだけどきっと聞いてもはぐらかされそうだから、ため息とともにあきらめを吐き出した。
さくらを、クリスマスデートに誘いたい。
何度もメッセージを開いては閉じ、開いては閉じしている。
1人のファンを特別視するのはよくないんだけど、どうしても彼女は俺の中で特別だった。ファンが1桁しかいなかったあの頃からずっと、彼女は俺のことを推してくれていた。恋とか愛とか、付き合いたいとかそういうんじゃないけど、なんかこう特別なんだ。
「後悔するなよ。」
ヒロの低い声が重く響く。驚いて顔を上げると悲しそうな顔をしていた。
「後悔って。」
「そのまんまだよ。オレたちができるファンサにはどうしても限界がある。相手もいつまでも推してくれるとは限らない。ファンがいなくなるってこと考えたことあるか?」
「ファンが・・・いなくなる・・・。」
今の俺たちがいるのはファンのおかげだ。ここまで応援してくれたみんなのおかげだ。そのみんながいなくなる。
考えただけでゾッとした。
「脅しみたいになっちゃったかな。でも噓は言って無い。いなくなる奴は簡単にいなくなる。」
「ヒロ・・・。」
その言葉の意味を、その言葉の重みを知っているからこそ言葉を失う。
そんな俺にヒロは俺の頭を撫でると、ごめんなと笑った。
【クリスマス、俺と過ごさないか?】
結局、簡単なメッセージを送ることにした。
それは俺にとって勇気のいる言葉で、それでも彼女に伝えたい言葉で。
送って数分、彼女から嬉しそうな返事が返ってきた。
【ノアくんと?本当に?】
【うん。俺はさくらと過ごしたい。】
【嬉しい。】
いつもと同じ連絡手段なのにスマホを握る手が震える。それでも言葉を紡ぐ。
【25日20時に、いつもの公園で待ってる。】
プロマイドの撮影も無事終わり、25日。クリスマスの日はあっという間にやってきた。
アンブレラのメンバーでディナーを取った後、いつもさくらと会う公園に足を運んでいた。
時計は19時55分を指している。
日が暮れて冷たい北風がコートの隙間から入ってくる。
「さぶ。」
いつも待ち合わせの前に来る彼女が来ないことを不審に思いながらスマホを眺める。メッセージは来ていない。
もしかして、と不安になる。
また倒れたりしてるんじゃないかと。
すぐに迎えに行かなきゃと思って、一歩、踏み出して思いとどまる。
すれ違いになったら?別の何かに巻き込まれているとか?そもそも。
「俺に、会いたくなくなっちゃった・・・とか。」
不安が溢れる。目から涙がこぼれる。
俺は、俺はいつからこんなに弱くなった?
すると、そっとその涙を拭う人がいた。
「大丈夫?寒すぎて涙出てきたの?待たせてごめん。」
紫色のネクタイが視界に入って、顔を上げる。
真っ白なマフラーとニット帽にくるまれたその姿は。
「天使だ。」
「相変わらず口説き方がチャラいね。」
さくらが、そこにはいた。
彼女は、大きめの紙袋から紫色の何かを取り出すと俺の首に丁寧に巻いた。
「マフラー?」
「そ、かっこつけて寒い格好してる人がいるから編んだの。初めてだから不格好なのは許してよね。」
「俺のために?」
「・・・うん。」
照れた彼女がそっぽを向く。マフラーはよく見るとガタガタしている部分があったりして、それを見て俺はくすっと笑った。
もう、不安はなかった。
「さくら。」
「なあに、ノアくん。」
傍から見たら男二人で何してるんだろうって思われるんだろうけど、今はそれでよかった。
彼女の手を取る。
今日は君だけのサンタクロースになりたい。そんなわがままを添えながら。
「メリークリスマス。」
天使の羽にキスをした。