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38「私たちの遅すぎた青春」

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 携帯は機械室の中に隠されていたが例外なくハンマーで粉砕されており、救助を呼ぶことは叶わなかった。まあ遅くとも三日後には、外部から検知されるだろう。

 解決編の後、しばらくは鬱々としたムードとなっていたが、陽が沈むと、文丈がこれではつらいだけだと云ってキャンプファイヤーを提案した。相変わらず突拍子もないけれど、反対する者はいなかった。

 屋敷の外に井桁を組み、そこから満天の夜空に向かって燃え(さか)る炎。周りにはバーベキュー用のコンロを置き、肉や野菜を焼いて食べた。酒も入って文丈は「肉だ肉だあ!」と変なテンションになり、食べきれないほどの肉やホルモンなんかを持ってきた。

 みなの沈鬱な面持ちも、次第に明るくなっていった。底抜けに明るくというのは無理だったけれど、開放的な気分になったのは事実だ。

 途中、僕は香久耶に、交際を取りやめると伝えた。彼女が殺人の隠蔽に手を貸していたことは関係なくて、僕は千鶴が好きなのだという理由を説明し、軽率に誘いを受けたことを心から詫びた。彼女は「そういうことなら、全然いいわよ」と笑ってくれた。

「もとからみんな、嘘みたいな時間だったんだから」

「嘘みたいな時間か……」と、僕も噛み締めるように呟く。

「そう。あたしがアリバイ工作に協力した理由、もうひとつあったの。こっちはただの、あたしの我儘なんだけどね。この時間が終わって欲しくなかったのよ」

 すると文丈が盗み聞きしていて、「分かるぞお、香久耶あ」と赤ら顔で絡んできた。

「なんつーか、此処での数日間は、青春を取り戻していくみたいな感覚があったよなあ。監督様から見ていても、よく分かったぞお。テコ入れを重ねたからだあ。アドリブが増えていくにつれてなあ、みなが演技じゃない、本当の自分ってやつと向き合ったんだよお」

「交くん、ちょっとくさっ。酔い過ぎよ」

「いいじゃないかあ。おう浦羽え、お前もイルカの肉を食ええ」

 この人は心配なさそうだ。

 沢子はと云うと、やはり彼女はあまり盛り上がる気分にはなれない様子だったが、落ち込んでいるばかりでもなかった。「浦羽さん」と話し掛けてくると、宣言をしてくれた。

「うち、罪を償ったら、ラッパーになります。いつか絶対に大きなアリーナとかでライブするようになって、そうしたら浦羽さんのこと呼びますから」

「うん。楽しみにしてるよ」

 確固とした意志を感じさせる眼差しと口調だった。

 そうして夜は更けていき、片付けまで終えて風呂に入って客室に戻ったころには、もうじき朝方という時刻になっていた。例によって風呂は女性陣が先だったが、千鶴はまだベッドの上で起きていた。

「道雄、ずっと浮かない顔してるね」

「そうか? 別にそんなこともないけど」

 僕もたくさん酒を飲んでしまった。その気持ち悪さと、あと眠気はある。

「まあ……少し責任は感じているよ」と、ソファーに倒れ込んでから答えた。

「なんの責任?」

「えーっと、緩やかに落涙が殺された……あの殺人は、僕にも原因があると思うんだ。ほら、僕がはじめに脚本の流れを変えてしまったから……」

「なあんだ。つまんないことを気にしてるね」

「つまんないって……」

 そんな云い方をしなくたっていいだろう。

「ねえ道雄、共犯関係って素敵だと思わない?」

「うん? 共犯関係?」

「罪を共有することが、二人を死ぬまで繋ぎ止めるの。それって口先だけの約束とは違うよね。むしろ口にすることができない秘密で。指輪なんかよりも特別な呪いだよね」

「ごめん、なんの話……?」

 もう頭が回らない。まぶたが下りてくる。

「大丈夫。道雄も気付かされることになるよ」

 千鶴の、えらく穏やかな声だけが暗闇の中に響いている。

「気付くんじゃなくて、気付かされるの。真の絆のためにそうなっているの。そして受け入れるなら、道雄はそのことを絶対に口にしたら駄目だよ。受け入れるならね」

 なにを、云っているんだ?

 駄目だ。起きていられない……。

「おやすみ、道雄」

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