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砂塵の傭兵、異世界にて刃を振るう  作者: 椋太(むくふとし)
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第5話 手に入れたいもの

朝起きたラフィーアは昨日の宴の事を思い出していた。

自らの家のこと、旅の目的、夢への想い……

自らの抱くものを団長エドワードとその秘書リゲータに伝えた中で

ラフィーアが決めた事は……

カドゥーケの朝は大体早い。

ヌースの1(朝7時)には全員が起床し、30分程で食事や着換えを

終えて仕事の準備に取り掛かる。

普段からしっかりと行動する者もぐうたらそうな者も

この時だけはかなりテキパキと支度をするのは

見ていてなかなか壮観に見える位だ。

この早起きというのは王族として育った

ラフィーアの育ちからすればそれなりにキツいものがある。


「ふぁ……あ……」


寝ぼけまなこをくしくしと擦りながら

ラフィーアは古い寝台を降りた。

宿屋の女将は仕事熱心なようで、古い布団であっても

ほつれも破けも修繕されている。

それのお陰か、はたまた宴の疲れかは分からないが

昨晩はよく眠れた。

年季のあるくすんだ窓には太陽が

採れたての赤茄子(トモドーロ)の様に輝いている。

その射光の輝きは地上の大体の人間へと供給されているが

眠気の残る頭には少々刺激が強いようだった。


(アーシマはもう出たようね……)


昨日の夜、アーシマと一つ決め事をした。

カドゥーケでは自分の事は自分でする事だ。

アーシマ以外の人間と対等に接するために考えたものだ。

軋轢を生まないための予防策。


(……"王族の唯一買えないもの"……ね……)


縁が所々かけた石造りの階段を降りながら思い出していた。

昨日、エドワード団長に話した事を。



──────



「単刀直入に聞かせて貰いたいのですが……」


エドワードの隣に座る秘書らしき女性

リゲータがラフィーアをすっと見つめて

切り出した。


「どういう目的で旅をしていたのですか?」


黒縁の眼鏡の奥に見える目は

目元が細くなっているからか若干キツイ印象を与える。

まるで猛禽のようだ。


「……私としてもそこは気になっております。

 聞けばサクル君はつい最近合流しただけで

 長く二人で旅をしていたそうですね。

 ……いくらなんでも戦闘(ロール)なしでの

 砂漠のふたり旅は自殺行為……

 余程のことがない限り普通はしません……

 差し支えなければ理由を教えてもらいたいので

 ございます。」


手を組みながらエドワードが前のめりに言った。

太腕から伝わる重量で机がしなっているように錯覚した。

老人ながら腕周りは後方職の

死霊術師(ネクロマンサー)とは思えないほど逞しく

傷痕も多いからだろうか。


「……一つ、約束してください……」


「誰にも話さない、でしょう?」


「!……なら、話は早いですね……団長さん」


この部屋は4人入りの個室だ。

はめ込みの窓と木製のドア、換気用の空気穴は

隣の団員達の宴会場に繋がっている。

この部屋の話を聞き取るのは宴会の喧しさも相まって

殆ど不可能に近い。

()()()()()()()()をするのには

持って来いの場所なのだ。


「……ご存知の通り、私はヴィリアント家……

 ヴィリアニア王国を治める王族の内の一人です。

 私が生まれたのは、そんな王族の中の傍系の一つ……アガールタ家です。」


「アガールタ……農水産物の流通で知られた名家ですな……」


「……昔はそうですね……今はコンサドールに業績を越されました……」


ヴィリアント家にはいくつもの傍系が名を連ねている。

様々な分野で国務を取り仕切っているが、業務成績の中には当然優劣がつくものもある。

アガールタ家はその中でも下層の方だ。


「お父様が居た頃は仕事が多くあったのですが……

 今では少しの仕事を回される程度になってしまって……」


「……王族とは言っても、実際は世知辛いものなんですね」


「それでも、家に仕える方々の仕事を見ているだけで

 私は幸せでした。

 でも…………噂を聞いたんです……」


リゲータが黒縁メガネの弦をつまんだ。

ラフィーアは淡々と話し続けた。


「……ゴライアス王が……王族を半分に減らす、と」


リゲータは眉をひそめた。

エドワードの姿勢が後ろに下がり、口がうーんと唸る。


「それは中々大胆な事をする方でございますなぁ。」


「それだと仕事を管理する人がいなくならないのでしょうか……」


「あくまで王族で無くなるだけで仕事は行えます。

 ……ただ……王族であるという強みが無くなります。」


王族というブランドの力は多大だ。

だが、業績が悪ければそれだけ王族の中で

発言権はなくなっていく。

そしてそれは、他の者からの待遇にも繋がっていく。

おまけに国からの支援も受けられない。

王族でなくなった傍系には、以前のような力はなくなるのだ。


「……だから、決めたんです。」


だが、逆に言えば業績さえ上げれば権力を持てるようになる。

そうすれば()()()()


「流通で業績を伸ばして、傍系の中で力を付けることで

 王族の立場を保持する事……そして。」


ラフィーアの夢、それは。



「私がヴィリアニア王国の王女になる事。」



──────



「そのために、様々な職種の人間を雇って

 飛び地となる土地に大きな港を建設したいと

 ゴライアス王に伝えて、アーシマと二人で

 下賜された荷引竜(スファドラ)に乗って

 街から街へとさまよっていたんです。」


バカ騒ぎの隣の個室で、滔々とこれまでの経緯を語った。

王からの心配。

アーシマや屋敷に待たせている側近達。

砂漠への恐れが不足していた事。


「なんて無茶を……」


(……自分の事ながらとんでもなく無謀な事ね。)


頭の中で反省していた時だった。


「……ラフィーア様

 "王族の唯一買えないもの"とはなんだと思いますか?」


エドワードが姿勢を崩さずにポツリと言った。


「……さあ、才能でしょうか?」


「それもあるかもしれませんな……

 ですが私が思うにそれは……」


リゲータが飲んでいた酒の入ったコップを静かに置いた。

それと同じくらい静かにエドワードは


「"自由"……ではないかと。」


そう言った。


「……確かに今は自由でしょう……

 ですが、もし港を作ってアガールタ家の

 地位が向上したら……自由は無くなって

 今のような生活は出来なくなるでしょう……

 それでも……私達に協力を仰ぎますか?」


王族は、色々なモノに縛られる。

格式。

民衆。

他国。

挙げ句同じ王族も縛ってくる。

結婚相手も、交友関係も、衣食住も、何もかも

この王族という立場は選ぶことを許さない。

例え王族の中でヒエラルキーが下だとしても。

それらはラフィーアを容赦なく縛ってくる。

王国が亡くならない限り、逃れる事は出来ないだろう。


「……覚悟なら、とっくにしてます……!」


だからなんだ。


ラフィーアは既に決意していた。


例えアーシマや側近の皆と別れても。


例え望んだ生を生きれずとも。


例え、死んだとしても。


「私は港を作って家の地位を上げる!

 例え何年かかったとしても!

 私は!!絶対に王女になる(自由を捨てる)!!!」


幼い頃から思い描いていた。

自分が治める国を。

自分の発案した政策で栄える国を。

どんな国にも負けない国を。

リゲータは静かに見つめていた。


「……これは……ふふ……愚問でしたな!

 失礼致しました。ラフィーア様……」


帽子を取って頭を下げるエドワードのさまは

さながら賢人のように見えた。


──────


朝食の少し水分の抜けた蒸し芋と、粒粒とした食感の

高黍(ソルガム)を混ぜたパンを口に詰め込み

さっぱりとした味わいのチャダ豆とサボテンのスープで

胃の中に流し込む。

喉につっかえそうになるが、温かいスープのおかげで

少し元気が出てくる。


「成程……茶葉の類は日に当たらない位置に置く……と。」


「あァ、高ク売れる分質が大事ニなってくるカらな。

 特に気ヲ付けて欲しイ。」


力が湧いた体で宿を出ると、先に部屋を出ていた

アーシマが居た。

壮年らしい大柄の鉱人(ミネル)の男性に

仕事の内容を教えて貰っているようだ。


「あぁ、ラフィーア様!おはようございます!」


「おはよう、アーシマ。仕事を教わってたのね?」


「はい。積荷管理の仕事を

 トランチャローさんに教えてもらってまして。」


隣に立つトランチャローは無機質な表情で会話を聞いていた。

トロルの棍棒のような両腕を腰に添えている

彼の頭頂部には、黒い岩が髪の毛のように生えている。

寡黙で硬派な者の多い鉱人(ミネル)らしい特徴だ。


「ふふ、入団したんですもの。

 頑張らないといけないものね。」


「そうですね~。

 早く仕事を覚えてトランチャローさんより

 お賃金貰いたいですよ。」


「ハっハッハ!!昨日暴れテイたとは思えんナ!!

 コリャあまり丁寧に教えなイようにしないとイケんな!」


知り合って日の浅い者と軽口を叩き合っていると

なんとなく集団の中に溶け込めているような感覚になる。

王宮にいた頃に比べて打算がないせいか

話していて気が楽だ。

ラフィーアは、なんだか嬉しい気分になった。


「……そう言えばサクルは?

 起きてきた?」


「あぁ、彼ならジャマルさんやカクトさんと

 一緒に朝ご飯を食べていましたよ。

 今どこに居るかは……」


「あの小僧ならミヤモト(ミヤさん)の所に居るハずダ。

 なかナカ張り切ッていたゾ?気合い十分という感じダッた。」


「?……!フフフ

 そうね。そうだったわ。役職(ロール)を決める試験ね?」


成程、それなら気合も入るだろう。

役職(ロール)によって本人に足される力は変化する。

自分の適性を見極め、それに合致した役職(ロール)に就けば

戦力は大きく上昇されるのだ。


(まぁ、サクルなら戦闘が得意な役職(ロール)になるでしょうね……)


ドルレオとの戦闘から考えても、彼の近接格闘能力は

著しく高い事は分かっている。

少なくとも職なしになることはないだろう。

そう確信しながらラフィーアは

仕事を貰いにエドワードの下に向かった。


──────


その頃、テツヲの下でサクルは


「君に紹介出来る役職(ロール)は、ない。」


「…………え?」


無職(プー)になりかけていた。



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