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6.式典は面倒だ……と思っていた



「あーあ、式典ってホントめんどうだよな」


 黒い髪を揺らしながら勇者はそう言うと高級そうなソファーに深く腰掛ける。


「王国としても式典はしなければならないのでしょうが……式典の時まで報酬は秘密、だなんて困りますよ」

「ほんとそれな。イメトレもできないしよ」


 困ったように頭を振るフィモヘに、勇者はうんうんと頷いて同意を示す。

 その意見にはわたしも同意しかない。ただ仕事をしただけで式典なんて面倒なだけだし、晒し物にされるの何てまっぴらごめんだ。

 ただでさえ貴族とかから結婚の打診が来たりして面倒なことになっているのに、式典に出席なんてすればさらに面倒が増える。猫の獣人であることを隠しているわたしはなおさらだ。

 基本的に獣人は魔力が少なく魔法使いに向かないので、魔法使いを名乗る獣人の待遇は人族のそれに比べて良くない。わたしは獣人の中では珍しく魔力があるほうだが、『獣人は魔法が弱い』と決めつけて見下してくる面倒な輩もいるので獣人であることを隠している。まぁ勇者パーティーにはばれてしまったのだけれど。


 勇者たちがガヤガヤと仲良く会話しているところ、式典の担当者が来て詳しい説明を始めた。

 面倒なので中身はほとんど聞いていなかったが、とりあえず入場の時には周りに頭を下げて、そこからは流れに任せればいいようだ。

 そこからさらに十分ほど待ったところ、準備が終わったらしくわたしたち勇者パーティーの入場が始まる。

 煩い声に辟易としつつも左右に並ぶ貴族や騎士たちに頭を下げて歩く。すると、偶然その中に出席者の中でも異様に若い一人の男――少年といったほうが適切かもしれない――が最前列に腰掛けているのを見つけた。

 もしその人がただの貴族の子息ならわたしも気にしなかったかもしれない。だが、その特徴的な翡翠の色のメッシュが入った黒髪とこちらを惹きつける黒い目、そしてその整った顔立ちは、幼き日に会ったわたしにとって決して忘れられない『彼』そのものだった。

 口から出そうなほど激しくなる心臓の鼓動が自分の中の冷静さを奪わんとする。様々な疑問が頭に浮かんでは消えていって、どうも思考がまとまらない。

 そうしていると、わたしの様子がおかしいことに気が付いた勇者がわたしに小声で話しかけてきた。


「どうした? 何かあったのか?」

「いや……あの黒髪の人が気になって」

「黒髪……? お、キノアじゃないか」

「キノア……?」


 どこかで聞き覚えのある名前を反芻してみると、勇者が「オレに魔法を教えてくれた師匠だ」と正解を教えてくれた。

 なるほど、それで思い出した。それは聞き覚えがあるわけだ。たしかフルネームはキノア・フォルクス。何回もその話は勇者にされているし、わたしもそれほどの魔法使いならば一度会ってみたいとは思っていた。しかし、身体的な特徴を聞いていなかったからそれが記憶の中の『彼』と一致することがなかったのだ。


「それで、キノアがどうしたんだ?」

「……とても、彼に興味がある。どうにかして近づきたい――というか、仲良くしたい」


 それは、他人への関心が薄いわたしは口にしたことがないであろう欲求。

 わたしの性格を知っているであろう勇者はそれに何かを感じたのか少し考えた後、口を開く。


「なら『キノアと一緒に働く』を報酬にしてもらえばいいんじゃないか?」

「え? でも、報酬を変えるなんてそんなの……」

「じゃあオレが先に流れを作るからヨナはそれに乗っかればいい。大丈夫、オレは勇者だからそれくらいの権限はあるさ」


 勇者は「じゃ、ずっと止まってるわけにもいかないし行くぞ」と言って歩き始めてしまう。

 わたしは最後に一度彼の――キノアの顔をしっかり見返して記憶の中の『彼』と一致することを再確認した後、にやけそうな顔を頑張って抑えながら勇者たちに続く。




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