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2.宮廷魔法師になった朝(1)



 いつもよりもだいぶ朝早くに目が覚めてしまった。

 あまりにも早すぎたのでもう一眠りしようかとも思ったのだが、寝つけなかったので諦めて起きることにする。

 階段を降りてリビングに行くと、まだ日も昇っていないというのにお母さんが起きていた。


「おはよう。何で起きてるの?」

「私まで緊張しちゃってね……あんたも似たような理由でしょ?」

「あはは……うん」

「やっぱり! そういうところ私そっくり!」

「そりゃあ緊張するさ。だってボクにとって初めての仕事なんだからね!」

「でも、ほんと急よね。あと半年後のはずだったのに……」

「うーん、たしかに急だったけど――あんなことがあったから仕方ないよ」


 あんなこと、とはつい先日起きた魔族による王城襲撃事件のことだ。

 騎士団と軍に甚大な被害をもたらしたそれは、宮廷魔法師たちと援軍に駆け付けた『夜霧』の活躍によってなんとか撃退された。

 ボクが宮廷魔法師として勤務するのが半年も早まったのは十中八九その影響だろう。

 まぁ、急に王城の人が家に着て、「貴女は宮廷魔法師として採用されることが決定しました。諸事情あり、今年は明後日から仕事を始めてもらいます。学園には話を通してありますので安心してください」とか言われたので、嬉しいのと唐突なことで混乱したのとで、その時は素直に喜べなかったのだが。

 でも、今は状況とか気持ちの整理とかもできて、仕事が始まるのが楽しみだ。

 ――話では、ボクの指導を担当してくれる宮廷魔法師の人が迎えに来てくれるそうだけど、一体誰のところになるのだろうか。

 脳内に異名を持った宮廷魔法師たちの名前が浮かんできて、思わずにやけてしまう。今日から、凄い人たちと一緒に仕事ができるんだ。

 そう思うと、わくわくが止まらなかった。ずっと憧れてきた仕事に就けるのだ。


「でも、本当にファリアも宮廷魔法師になれるなんてね。お父さんみたいになりたい! って言ってたけど、本当になっちゃうなんて――あの人もきっと喜んでるわ」

「お母さん!? 泣かないで!」

「ご、ごめんなさい。でも、娘が大きくなったって思うと、う、嬉しくて――」


 嬉し涙を流すお母さんに、ボクもつられて涙が出てくる。


 まぁ、まだ時間はあるし、暫く会えないかもしれないお母さんと一緒に泣くのも悪くないかな。




 お母さんの作ってくれた朝食を食べて、お父さんの形見のローブを羽織って、最後に髪を整えて、準備を終える。

 時間は九時少し前。後数分もすれば指導担当の人が来てくれるはずだ。


「ファリアの担当の人、いい人だといいわね」

「仮に悪かったとしても、どうにかなる! って、噂をすれば来たね」


 ノックの音が聞こえてきて、ボクは座っていたソファーを離れ、荷物を持って立ち上がる。

 お母さんとハグをしてから、玄関のほうへと向かう。


「じゃあ、行ってきます!」

「うん、行ってらっしゃい! 元気にするのよ?」

「落ち着いたら帰ってくるから心配しないで! 王城そんな遠くないし」

「でもファリア、仕事楽しかったら帰ってくるの忘れちゃってそうで――」

「……善処するよ」


 うん、我ながら否定できない。

 本当はもっと話をしたかったのだが、宮廷魔法師の人を待たせるわけにもいかない。

 ボクは名残惜しくも母としばしの別れを告げ、玄関を開けた。


 そこに経っていたのは、一人の少女。

 ボクはその美形の子に見覚えがあった。

 学園始まって以来の天才。飛び級で卒業し、勇者パーティーの一員になった後宮廷魔法師になった、ヨナだ。


「初めまして――じゃないけど、一応自己紹介。ヨナ・ウェストリン。今日から貴女と一緒に働くことになった」

「よ、よろしくお願いします! ボクはファリア・ソーレです!」

「うん、知ってる。よろしくね。あと、敬語はなくていいって言ってたから、もっと楽にして」

「は、はい――じゃなかった。うん。わかった。

 ボクの指導してくれるのって、ヨナなの?」

「わたしもそうだけど、主にキノアかな。準備あるとかで、迎えに来たのはわたしだけだけど」

「なるほど」

「なので――と、そちらはお母さん?」

「え?」


 首を傾げたヨナの視線を追うと、そこには扉を開けてこちらを除くお母さんの姿があった。

 お母さんはお茶目な顔をして「見つかっちゃったか~」というと、表に出てきてペコリと頭を下げる。


「初めまして。ファリアの母のノエです。娘を、よろしくお願いします」

「うん、任せておいてください。わたしはともかく、相方はすごく優秀なので」

「それはよかったです! ずっと心配で――」

「ちょ、お母さん!? ほら、早く行こう!」


 妙に恥ずかしくなってきたボクは、そう言ってヨナを急かすと、用意されていた豪華な馬車に乗り込んだ。

 それをお母さんは涙ぐんで目で見て――にこりと笑いかけた。


「じゃあ、今度こそ――いってきます!」

「行ってらっしゃい!」

「うん! じゃあ、馬車だしてもらってもいい?」


 ボクがそう言うと、御者を務めてくれている騎士団の人が鞭を馬に当てて、馬車を動かし始める。

 手を振ってくるお母さんに向かって母が見えなくなるまで手を振り返す。

 角を曲がって姿が見えなくなったところで、ヨナが言った。


「いいお母さんだね」

「うん。ボクの自慢のお母さん。ヨナが家を出るときとかは、どんな感じだったの?」

「んー……怒られた」

「えっ!?」

「勇者パーティーの一員になったの出発の日まで言わなくて、いざ出発って時に『勇者パーティーの一員になったから暫く帰ってこない』って言ったら、『もっと早く教えろ馬鹿!』って」

「そりゃ怒られるさ……」


 それはどう考えても親じゃなくてヨナの方に問題がある。

 ヨナが変わってるのは学園の頃からだから、あまり驚きはしないし納得してしまうけど。



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