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41.質問と答え


「知ってたけどこれは酷いね。軽く整理しようか」


 一つ腕を振るうだけで、部屋中に風が吹き荒れて、倒れていた本棚と散乱していた本が元の位置に戻り、壊れたソファーは小さく潰されて端に寄せられ、綺麗にされた床に部屋にあった寝袋が敷かれた。

 『夜霧』はそこにキノアを寝かせると、ローブを脱がせて、シャツのボタンをいくつか開ける。

 反射的に目を逸らすと、くす、と小さな笑い声が聞こえた気がした。


「さて、僕はしばらくキノアの様子を見るけど、君はどうする?」

「わたしもここにいていいですか?」

「もちろん」


 『夜霧』はそう言うと、寝袋に寝かせられたキノアの額に手を当てたり、体を触ったりなどをし始めた。

 暫くそれを黙って見ていたわたしだったが、どうしても訊きたいことがあって、それを口に出した。


「あの、『夜霧』さん……」

「メルでいいよ。そう呼ばれるのあんまり好きじゃないんだ」

「……では、メルさんで。

 キノアは、どれくらい寝てると思いますか?」

「いきなり難しい質問だなぁ。

 ……キノアは特殊な子でね。『夜霧』の副作用で体調不良とかはあっても、倒れるほどの副作用は普通でないんだよ。だから、ぶっちゃけ言うといつ目覚めるかはよくわからないんだけど――まぁ今日中には目覚めるんじゃないかな。

 魂の状態は安定しているし、魔力も落ち着いてきてる。体も大丈夫そうだしね。単純に今は疲れから眠ってるんじゃないかな。『夜霧』って疲れるんだよ」

「よかった……」


 そう聞いて、わたしは安堵の息を漏らす。

 もしかしたらずっとこのままなんじゃないかとか、そんな悪いことばかり考えていたから。特にキノアが今倒れているのはわたしのせいだと思うと、その安心具合は表現しきれないほどのものだ。

 もしキノアが二度と目覚めないとかだったら……自分で自分のことを……


「何か他に聞きたいことあればある程度は答えるよ。僕に質問できることなんて貴重だから何かあったらジャンジャン聞いてよ。年頃の女の子とどう話せばいいかわからないんだ」


 メルさんはそんな中年の男性のようなことを言う。

 ……パッと思いつく質問はいくつかある。

 でも、どれから聞いたものか、どれなら聞いてもいいのか。

 しばらく悩んで――口を開いた。


「メルさんは、本当にキノアの父親じゃないんですか?」


 メルさんは、顔を上げてにやりと笑ってこちらを見る。


「どうしてそう思ったの?」

「あまりにも似ているからです。メルさんと、エルナさんに」


 こうして正面から見てみるとよくわかる。キノアと似ているのだ。血がつながっていないと言うのは無理があるほど、似ている。

 顔のパーツや作り、髪質から色まで、その全てがメルさんかエルナさんのどちらかに似ているのだ。


「なるほど。まぁ、そう見えるよね」

「……キノアは自分に親はいないと言っていました。でも、どうしても信じられません」

「気持ちはわかるよ。でも、実際に僕らに血の繋がり()ないよ」


 メルさんのどこか含みのある言い方に、思わず怪訝な顔をしてしまう。

 血の繋がりはない。だがそれ以外の可能性を否定しないそれは、『何かある』と思わせるのには十分だった。


「じゃあ、二人はいったい――」

「世の中には知らないほうがいいタイミングってものがある」

「知るタイミングは今じゃないってこと……ですか?」


 遠回しに答えないと言われたのは分かったが、わたしは食い下がった。

 それに一瞬意外そうな顔をした後、メルさんは意地の悪い顔を浮かべる。


「うん、今じゃない。君に教えたらそれがキノアに伝わるかもしれない。ふとした拍子にどこで何が漏れるかわからないからね。君が漏らそうと思ってなくても、何気ない会話で情報は漏れるものだよ。

 もしキノアが知ったら――」


 チラリとキノアの方を見るメルさん。

 わたしもつられてそちらのほうを見ると、相変わらず意識を失っているようだった。


「――きっとキノアは自殺するだろうね」

「っ!?」


 衝撃的な発言に、弾かれたようにメルさんの方に目線が動く。

 キノアによく似た顔は真剣な表情で、冗談や嘘を言っているようには見えなかった。

 言葉を失っていると、メルさんは先程の真剣な顔が嘘のように、笑みを浮かべて、


「ほかに質問あればどうぞ?」


 と言った。

 遠回しにこれ以上は聞くなと言われている。そう気が付き、わたしは大人しく従うことにする。

 キノアが自殺するかも。そこまで言われては引き下がるしかない。

 だから、わたしは思いついた質問を投げかけた。


「じゃあ、キノアの使った――メルさんの二つ名にもなっている、『夜霧』って、なんなんですか? どういう魔法なんですか?」

「そうだな。君は、魔法をどのレベルまで扱える? 時空に干渉できる?」

「頑張って、自分の周りの時間を0.5倍から2倍の範囲で操作するくらいです。雷の方は十メートルと少しくらい届くくらい」


 属性魔法の頂点は、時空に干渉する魔法だ。中でもわたしの魔法適正は、水、氷、雷、回復の四つ。回復はあまり練習できていないから簡単な傷を治すくらいしかできないが、他の三つはそこそこ頑張っている。

 今自分が動いている世界の時間を1倍だとして、氷属性はそれをゆっくりにでき、水属性は逆に速めることができる。まだわたしは時間を完全に止めることができず、精々が周囲を半分にするくらいだし、速くする方も二倍がやっとだ。それでも宮廷魔法師の中ではできるほうなのだが、『紺色の霧』のメンバーでこれらに適性がある人はもっと倍率も範囲も高い。

 雷属性は時空を超えて情報や魔力を伝えることができるが――これが難しい。何よりイメージが掴めないのだ。辛うじてできたのが、十メートル先に魔力を伝える事だけ。

 そんな情報が夜霧となんの関係があるのかわからなかったが、わたしは正直に答えた。


「おお、思ったよりもできるんだ。

 でも、それがわかってるなら話は早い。

 君ができるみたいに時空に干渉するというのは、魔法における極致の一つと言える。それ以上になるともう世界とか次元とかわけわからないレベルになっちゃうからね。

 でも、身体強化は何処まで極めても時空には干渉できない。でも、だからといって極致がないわけではない」

「身体強化の極致が――『夜霧』?」



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