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2.面倒になる、という予感ほど当たる



 周りから少し視線を感じつつ会場に着くと、式典担当のメイドに案内されるがままに移動する。僕が座らせられたのは王座から見て左側にある席で、実際の式典で勇者が通る真ん中の通路に一番近い席だ。

 おそらく何か不測の事態があった時に僕が戦力として重要人物を護衛しやすいようこの位置なのだろう。

 まぁこの国の貴族はわりと武闘派も多いので、戦えない貴族の避難誘導が主な仕事になる気もするが。

 会場は数百人が座れるほど広く、このような式典のほか国の方針を左右するほど重要な会議などにも使われる。また、椅子を取り払ってパーティーに使われることもあったりするなど、なんだかんだで使われることが多い重要な部屋なのだ。

 研究途中の魔法についてしばらく考えていると、いつの間にか席はほぼすべてが人で埋まり、あとは式典が始まるのを待つだけとなった。


 ざわざわと会話する声が聞こえる中、風属性初級魔法【拡声】で声を大きくした司会の声が響く。


『勇者様御一行の入場です!』


 壮大な管楽器とドラムの音が鳴り響き会場全体が拍手に包まれる中、大きな入口のドアが開き鎧を着たままの勇者と勇者パーティーの面々が入場してきた。

 彼らは左右の観客たちに頭を下げながら入場していったが、僕の前で頭を下げた魔法使いの少女が何故か動きを止めてジィっと僕を見る。

 何があったのかと疑問に思った勇者が魔法使いに近づき、何か二人で会話をしたようだ。僕のほうをチラチラ見て話していたが、何かに納得したのかうんうんと頷くと、また王座の方へと行進を続けた。

 一体何だったのだろうかと疑問に思うが、近くの席に仲のいい相手がいないので相談することもできずに、勇者一行は所定の位置に着いてしまう。

 続いて『王の入場です』とアナウンスが流れると会場は静かになり、一気に厳粛な空気へと一変する。

 王座の横から登場した王に全員で頭を下げて待っていると、「楽に」と声がしたので頭を上げた。


『勇者ワタルと、それとともに戦闘に加わった者たちよ。そなたたちの魔族を討ち占領された街を解放した行いは大儀であった。

 それぞれに褒美を与えようと思う』


 若い王は威厳たっぷりにそう言うと、勇者たち一人一人をじっくりと見ていく。


『ではそれぞれに褒美を与えます。まず勇者ワタル・ムラオカ様、前へ』


 何の大臣だったかは忘れたが、何かの大臣である初老の男性はそう言うと大きな紙を開いてそれを読み上げる。


『勇者ワタル・ムラオカには子爵の地位と貴族街に屋敷、さらに領地を与える。屋敷の詳細な場所は追って知らせる。

 また、名誉近衛騎士の職を与えることとする』


 大臣の読み上げたその文に、会場がざわめく。

 基本的に新たに爵位を与えられるものはどれだけ貢献しても男爵から、というのがこの国の常識である。それは、子爵以上の貴族にはそれ以下の者よりもかなり大きな権限が与えられるからだ。

 だからこそいきなり子爵の爵位を与えることは少ないのだが、今回はそのような常識など気にもせずに爵位を与えたことに皆驚いているようなのだが――僕としては当然だという思いしかない。

 よくわかっていない者も多いのだが、勇者というのは絶対に逃してはいけないほど強大な力を持つ戦力だ。個の力が量を凌駕するこの世界において、強大な一人が戦局を変えるなんてことは決して珍しくない。かつての魔族との戦争も数人の魔法使いが戦線を支えたとまで言われるほどだ。

 だから、今回の爵位は決して過剰ではないし、むしろもっと上の爵位ですらいいと思う。まぁあまり高い爵位を与えると反感を買うので子爵に抑えたのだろうが。


「ありがたき幸せ。しかしながら私には領土を管理する能力も優秀な部下の思い当たりもございません。なので領地に関しては辞退させていただきます。代わりに王立研究所に入る許可を頂きたく存じます」

『あいわかったそのようにする。

 では次にデュイル・オウグ準男爵、前へ。オウグ準男爵は爵位を準男爵から男爵へ陞爵(しょうしゃく)とする。また新たな領土を与える』

「ありがたき幸せ」


 フルプレートアーマーに身を包んだ筋骨隆々の男は跪きながらそう言う。

 続いて教会から派遣された回復術師の女性が褒美を受け取り、さらに斥候の騎士も受け取った。

 そして、最後に残るのは先程僕の前で固まっていたあの魔法使いの少女だ。


『では最後にヨナ・ウェストリン、前へ。新たに準男爵の爵位と領土、さらに王立ララド魔法学園教授、名誉騎士の称号を与える』


 僕と同じくらい――おそらく16歳とか17歳とかそのあたりだろう――の少女に与えるには過大な気もするが、勇者パーティーの一員と考えると妥当ではあるだろう。そもそも実力があるから勇者パーティーに選抜されているわけだし。


「ありがたき幸せ。ですが、それらは若輩者のわたくしには荷が勝ちすぎます。その代わり……」


 魔法使いの少女はそこまで言うと言葉を切り、何故かちらっとこちらを見てくる――というか、ばっちり僕と目が合った。

 ゾクッと悪い予感がしたものの、気のせいだと思って何も感じなかったことにする。しかし、とても残念なことに、僕は昔から勘がいいのだ。


「その代わり、キノア・フォルクス様と一緒に仕事をさせてはくれないでしょうか」




「……は?」



 何か面倒になる予感はしていた。だが、あまりにもこれは――


「はぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!??」


 ――訳が分からないと言わざるを得ない。



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