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24.教会にお邪魔します



 シファ様の用意した馬車に乗って揺られること数十分。僕らが辿り着いたのは少し古びた様子の教会だった。

 このあたりの国家で最も信仰者数が多いグラオベン教は、この国の国教にもなっていて政治と密接な関係がある。僕自身特に信仰しているわけではないが、だからといって信仰してる人に対して何か思うところがあるわけではなく、どちらかというと無関心という感じだ。

 ちなみにドランツ王国と隣接する国家にグラオベン教国というのがあり、そこの首都がグラオベン教の聖地となっている。

 弱者の保護がグラオベンの教義の中で最も強調されているもので、そのためこの場所のように教会が孤児院を兼ねていることは決して珍しくない。


「今回の視察は、孤児院の運営が適切に行われているかの調査だわ」

「なるほど……でもどうしてシファ様がわざわざ? それこそ僕とかが行ってみてきてもいいと思うんですけど」

「国とは別に公爵家も金を出してるからよ」


 なるほど。つまり国から出てる金の使い道と公爵家からの金の使い道を同時に調査するというわけか。たしかに別々に視察しにくるよりもそのほうが手間がかからなくていいし、公爵家令嬢の調査結果ならば表立って疑う者も出ないので誰も文句を言えないだろう。

 ただ、わざわざ僕まで呼ばれたのは解せない。この前のあの不気味な魔物についての報告書のせいで神経質になっているのだろうか。

 王都内部なのだから大丈夫だと思うが――いくら文句を言っても今更だ。


 護衛の騎士が代わりに扉を叩き、暫くして「はーい!」というまだ声変わりしてない高めの声とともに扉が開けられる。

 そこから出てきたのは十歳くらいの男の子で、教会の前に並んでいる騎士と僕らを見てあからさまにぎょっとした顔をした。

 まぁ当然だろう。扉を開けたらそこに鎧を着こんだ男たちが立ってたら大人でもびっくりするし、むしろ泣き出さなかっただけえらい。


「えっと……」


 何の用で来たかわからないのだろう。どうするべきかわからない様子で、子どもは様々なところに視線を向ける。

 すると先程ノックした騎士が男の子に向かって、威圧感たっぷりに告げた。


「我々は本日視察に来た――」


 そこで騎士は後ろから頭を叩かれて言葉を途切れさせる。

 叩いたのは他でもないシファ様で、鋭い目で騎士を見ることで黙らせると、表情を一転させて優しい笑みを浮かべて子どもに語り掛けた。


「怖がらせてごめんなさい。わたしはここの視察――ええと、見学にきたんだけど、大人の方呼んできてくれませんか?」


 普段からは想像もつかないような優しい話し方に、僕もヨナも驚愕の表情を隠せない。

 普段はツンツンした感じを隠しもしないので、そのギャップに風邪をひいてしまいそうになる。

 しかし普段と違うそれは子どもにとっては安心できるものだったようで、「は、はい」と言うとパタパタと足音を立てながら奥に駆けていく。

 駆けた先には礼拝堂があり、男の子はそこで他の子どもたちと話をしていた一人の女性に話しかけるのが見えた。

 女性は男の子の頭を撫でてから立ち上がり、こちらに歩いてくる。


「こんにちは、本日はどのような……?」


 見た目から騎士だとわかるはずなのだが、急に大勢が押しかけてきて驚いているのだろう。警戒を滲ませて女性はそう言う。


「はじめまして。抜き打ちの視察に来たクレン・シファです。お時間よろしいでしょうか?」

「え、ええ。今他の者は買い出しや仕事で外していて私しかいませんが――」

「かまいません」

「ではどうぞ。ですがさすがに全員というのは……」


 騎士を見渡して言葉を濁す女性。それも当然だろう。何の準備もない状態でこの大人数に押し掛けられたら対応に困る。

 抜き打ちでないと視察の意味が薄れるので事前に連絡できなかったのは仕方のないことだが、対応できるかは別問題だろう。

 それをわかっているのか、シファ様はうんと一つ頷く。


「ええ、わかっていますわ。中に入るのはわたくし含めて四人にさせていただきます。他の者は外で待たせますわ」

「配慮いただきありがとうございます……では、こちらへどうぞ」

「お邪魔しますわ。

 行きますわよ、キノア様、ジデン、あと――」


 僕と護衛隊長の名前を呼んだあと、ヨナのことを見て言葉を濁したシファ様は、そのまま扉をくぐっていく。

 名前を呼ばれなかったヨナは肩をすくめたあと、シファ様に続いて中に入る。

 続いて僕と護衛隊長も中に入ると、女性に礼拝堂の奥にある部屋に招かれる――が、そこでローブの裾を何者かに掴まれた。




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