57話 負け主張
いつもありがとうございます。
番外編1話目はいつものです。
男子騎馬戦を終えた僕たちは、全団が列になったまま合流し、入場ゲートの方へ小走りで向かう。
「してやられたな、めちゃめちゃ悔しいけど」
対戦相手である青団と合流すると、勝利が言い渡されたにも関わらず自ら馬を下りた愚か者、青八木雨竜が声をかけてきた。
何だコイツ、悔しいとか言いながらニヤニヤしやがって。敗北者である僕を笑いにきたってか。
「あのな、僕はお前の軽口に付き合ってる余裕はないぞ。ここが自室なら枕に向かってどれだけ叫んでいることか」
あれだけポーズを決めて勝利宣言しておきながら、その後に教師陣にあっさりチャラにされたんだぞ。豪林寺先輩たちがどれだけ僕を慰めてくれたことか、申し訳なさ過ぎて三途の川に飛び込んでバタフライで暴れ散らかしたい。
「なんでだよ、勝者のくせして愚痴の1つも聞いてくれないのか」
「勝者ぁ? 一体誰が?」
「お前以外のどこに居るんだよ」
はいぷっつんきました。コイツ、今もっともデリケートな話題を容赦なく突っ込みやがって。そこまで戦争したいというなら受けて立つ、第一次校庭戦争じゃあああ!!
「ふざけんなアホンダラ! 僕のどこが勝者だってんだ!」
「いやいや、俺の鉢巻奪ったじゃねえか」
「その鉢巻もすぐお前の頭に帰っていったよ! 僕の負けだからな!」
「あんなの先生が勝手に言ってるだけだろ、俺たちも会場もお前が負けただなんて思ってねえよ」
「生徒の分際で教師の言葉に逆らうんじゃねえよ!」
「それお前に1番言われたくない言葉だよ!」
「何言ってやがる! 僕がナメてるのは長谷川先生だけだ!」
「2年も担任やってる先生に言う言葉じゃないだろ!」
「ウチの担任は出雲みたいなもんだろ!」
「絶妙に返しづらいこと言うんじゃねえ!」
いつの間にか標的が長谷川先生になっているが、こんな話をしたいのではない。騎馬戦は僕の負けであることを主張したいのだ。
「アホなお前のために言ってやるがな、学校というのはルールがあってその中で自由が許されてるんだ! そのルールから逸脱した僕が勝利を享受できると思うな!」
「なんでそんなに負けに拘るんだよ!? だいたいお前、学校のルール普段全然守ってねえじゃねえか!」
「じゃあかしい! 今回の騎馬戦、僕はルールの中で勝つって決めてたんだ! それがダメだと判断された以上負けなんだよ!」
「元々なかったルールを急遽付け足しただけだろ! 俺が鉢巻取られたときはルールの内側、だから俺の負けなんだよ!」
「ぬくぬく育った坊ちゃんめ! 世の中は危険なものほど禁止される風潮にあるんだ! サンダーボルトを知らんのか!?」
「サンダーボルトは環境に復帰したから禁止されてねえだろ!?」
「なんでそんなこと知ってんだよ! いい加減にしろやその謎知識! というかそういう話がしたいんじゃねえんだこっちは!」
「お前から先に振ってきたけどな!」
「言いたいことはただ1つ! 僕のジャンピングスクリュースナイプが危険行為に認定された、つまり僕がサンダーボルトだ!!」
「どこから突っ込めばいいんだよ!!」
その後、入場ゲートに着くや否や人に囲まれ、騎馬戦でどちらが負けたか決着がつかないまま戦争は終戦を迎えてしまった。
サンダーボルトで全員吹き飛べ。