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モテすぎる悪友が鬱陶しいので、彼女を作らせて黙らせたい  作者: 梨本 和広
1章 桐田朱里と蘭童殿

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15話 憂い顔

桐田朱里から不当な仕打ちを受けた僕だったが、自慢の立ち直りを見せて会話に参加した。


茶道部に入った経緯だが、4月に行われる部活動紹介オリエンテーリングにて、和服姿の先輩たちに憧れたからだそうだ。実際は制服のまま部活をするため少しは落胆したようだが、今は気にせず楽しくやれているようだ。


「今年は出雲ちゃんが和服を着てすごく格好良かったんだよ、って廣瀬君も知ってると思うけど」

「そうだっけ? 忘れたな」

「……まだ1ヶ月経ってないんだけど」


そんな悲しそうな目で僕を見るのは止めてもらえるだろうか。

僕は僕でステージ側の手伝いに勤しんでいたんだから、見ていなくとも不思議はない。記憶にないから、準備してる間に茶道部の番が終わったのだろう。僕はまったく悪くないな。


「なら見せてあげようか? 部所有のビデオカメラで録画してるからさ」

「おい、なんで茶道部がビデオカメラを所持してるんだよ?」

「挙動がおかしくないかチェックするために回してるんだよ、口頭で言われるだけじゃ癖って直らないからね」


うわあ、物凄いこじつけ感が出ているのは気のせいだろうか。まあ桐田朱里も焦っている様子はないし、本気でそう思って使ってはいるんだろうが。というか学校よ、よくお金を出したな。


「後は茶道部で合宿があるから記録を残すために使ってるよ。部内の交流を後輩たちへ残さないとね」


こっちがメインですね、分かります。

なんだか茶道部の見たくない一面を知ってしまい心に穴が空くようだが、桐田朱里が話をこちらへ振ってくる。


「そういえば、廣瀬君って部活は何をやってるの?」

「何もしてないが」

「えっ、でもうちの学校で何か部活には入らないといけないんじゃ」

「在籍はしてるが何もしてない、幽霊部員という奴だな」

「どこの部活?」

「教えてやらん」

「なんで?」

「そこなら幽霊部員でもいいと思われては困る」

「そんなつもりないけど、困るってなんか廣瀬君らしくないね」


指摘を受けて、確かに自分らしくないと思った。

だが実際、困らせたくないと思っているのも事実だ。僕を除いたたった1人の部員をぬか喜びさせるわけにはいかないのだから。


その後、駅から少し離れた大学やら車が通れなさそうな細い道やらを通って会話を弾ませる。

どうやら桐田朱里は、公園や開けた場所で行う散歩が好きなわけでなく、街中を歩き回って前と異なっているところを探すのが好きなようだ。それを見つける度に嬉々として伝えてくる桐田朱里が印象的だった。


僕も僕なりに話が途切れないよう言葉を紡いでいた。雨竜講座の通りであるなら、女子が話したそうにしているときは相槌だけでもいいから続きを促してやるのが良いようだ。もちろんつまらなそうにすれば相手の気力も失せるため、その辺りの塩梅は受け手次第だという。今思うとあいつ何様なんだ。


「ここ、入っていいかな?」


クルッと髪を靡かせてこちらを向くと、桐田朱里は瞳を煌めかせながら店を指差す。

看板が少し汚れているのが老舗という雰囲気を醸し出している。どうやら和菓子を出す店のようだ。


「ここって物販店じゃないのか?」

「2階でやってるんだよ」

「そうなのか、じゃあ入ろう」

「うん!」


桐田朱里は嬉しそうに店に入ると、レジに佇む女性に軽く頭を下げてから階段を上がっていく。

2階に出ると、店員に空いている席へどうぞと言われたので適当に座る。中には50代くらいの女性が6人居て、会話に華を咲かせていた。


「廣瀬君、何にする?」


メニュー表を渡されたのでざっと目を通す。飲み物だけを頼むつもりだったが、せっかく来たんだし甘味も何か頂戴するか。


「君は決まってるのか?」

「うん、ここにきたら同じもの頼んでるから」


どうやら桐田朱里はここの常連のようだ。内装も落ち着いて確かに過ごしやすいのかもしれない、おばちゃんたちの声が少しうるさくはあるが。


その後店員を呼んで、僕は抹茶セットを頼み、桐田朱里はいちごが乗ったかき氷を頼んでいた。

えっ、抹茶じゃないの? 茶道部だからここ紹介したとかじゃなくて?

それを指摘すると、「茶道部だから抹茶はいいの!」と弁解された。それもそうだなと思った、好きだからって四六時中飲むものでもないしな。


各々のメニューが運ばれてきて、早速僕は抹茶を飲んだ。うーん、美味。この舌に残る味わいと苦みこそが抹茶だよな、よきかなよきかな。

対して桐田朱里は、幸せそうにいちごのかき氷を堪能していた。顔が緩みっぱなしで隙がありまくり、非常にだらしなく思えてくるが、今日の趣旨を考えるとかなり前進したように感じられた。


「これなら大丈夫なんじゃないか?」


セットでついてきたぜんざいを頬張りながら質問すると、桐田朱里は軽く首を傾げた。


「何の話?」

「雨竜とのデートだよ、今日の感じなら問題ないだろ」


初めこそ多少たどたどしさを見せていた桐田朱里だが、時間が経つにつれて緊張は取れていったように思う。会話も弾んでいたし笑顔も多かった、自分のことについても話せていた。異性と普通に話すというのが今日のミッションだとするなら、95点は与えていい。


だからこそ、太鼓判を押せると思った。

雨竜とのデートも上手くいくものだと思っていたのだが。



「……そうなのかな」



当の本人からは、先程までの笑顔が消えていた。



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