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天下界の無信仰者(イレギュラー)  作者: 奏 せいや
第1部 慈愛連立編
58/428

ミカエル

 明るく、しかしどこか嫌味な口調が部屋に広がった。

 瞬間、

「げ」

 恵瑠(える)は落ち込み、

 ラファエルは額に手を当て、

 ガブリエルは目を閉じた。

 いったいなんだ?

 俺は振り返り入ってきた人物を見る。


 入ってきたのは金髪の二十代半ば頃の男だった。それに美形だ。一目見ただけでそう思わせる。黄金の髪は輝き背は高い。白のロングコートが様になっている。モデルでも違和感がないほどだ。

 男は愉快そうな表情で、笑顔のままテーブルの奥へと歩いていく。

「今日は記念すべき日だ。私たちがこうして一堂に会すなどそうそうあるものじゃない。だろう? まあ、残念なことに私は会いたいと思ったことは一度もないがね」

 ん? なんか今へんなこと言わなかったか?


 なんだか見た目に反して引っ掛かる物言いだ。最後の一言いるか?

 男はテーブルの一番奥の席に座った。足を組み人を馬鹿にしたような笑みを浮かべていた。

「お久しぶり諸君、忙しい中わざわざ来るほどには暇な君たちと再会できて、嬉しいよ?」

 なんだこいつぅうう!

 見た目はきれいだが中身最悪じゃねえか!

 俺はこの男が誰だか分かった。恵瑠(える)たちの反応を見て分かる。

 この男が神官長ミカエルだ。間違いない。こんなん一発で嫌われるわ!

「なあ恵瑠(える)、まさかと思うが」

「はい」


 隣の恵瑠(える)に念のため聞いてみるが、見るからに嫌そうな顔をしていた。

「彼が神官長ミカエル。全省庁のトップ、ここにいる誰よりも偉い人です」

 やっぱりか。てかマジか!?

 まだ会って十秒も経っていないのに恵瑠(える)はげっそりだ、三日も下痢みたいな顔してる。

「まったく、相変わらずねあなたは」

 再会早々嫌味を言ってくるミカエルにラファエルは顔をしかめながら反撃する。

「いや~、君は相変わらずきれいだねぇラファエル。その黒い髪と腹を見ると君だとすぐに分かるよ」

「ふっふっふ、言ってくれるわね……!」

 ラファエルは悔しそうに眉を曲げている。


「止めろミカエル、いたずらに場を乱すな」

「これは申し訳ないガブリエル。私は正直だからさ、真実に傷ついてしまったのなら謝るよ、残念だったねえ?」

「くだらん」

 ガブリエルは席をミカエルに背を向ける形で整えた。

「止めてくださいよミカエル、二人とも嫌がっているじゃないですか!」

「ああ、君か」


 すると恵瑠(える)が注意したことによりミカエルが恵瑠(える)を見てきた。その目が冷たく見下ろしている。

「残念だけど今は神官長ミカエルなんだよ。ただの学生でしかない君とは地位が違うんだ、馴れ馴れしいぞ。それかそんなことすら君には分からないのかな。まったく残念残念」

「フンだ! そんなのボクには関係ないもんね! どうだ、まいったか!」

「ああ、降参降参。君の残念具合にはお手上げだよ、ハッハッハッハッ!」

 うぜえ。見てるだけでうざいぞこいつ!


「君は相変わらず残念だねえ。それに部外者も一緒とは。これは残念な君の残念な判断かい?」

 するとミカエルが俺たちに視線を向けてきた。その目に身構えてしまう。

「ボクの友達です。助けてくれたんです」

「ほお」

 恵瑠(える)がはっきりと、俺たちを庇うようにそう言ってくれた。それでミカエルも声を漏らす。

「なるほど、残念なことに巻き込まれたと。しかし本人も残念だろうが私だって残念だ。なにが悲しくてどこの馬の骨とも知れない者たちと同じ場所にいなければならないんだ」

 こ、い、つ!


「おい、さっきから黙って聞いてればなに言いたい放題言ってんだお前」

「主、落ち着いてくださいッ」

「神愛駄目よ」

「うるせえ、なんで初対面でこんなこと言われなきゃならないんだ!」

 俺を宥めてくるミルフィアと加豪(かごう)を無視してミカエルに叫ぶ。そりゃこいつは慈愛連立(じあいれんりつ)の神官長という立場だろうさ。だからってなんでもかんでも許されるってわけじゃねえぞ!

「おやおや仲間割れかい? 残念残念」

「誰のせいだ!」

 お前のせいだろうが! 偉い役職だからっていい加減にしろよ!


「お前が神官長だろうが恵瑠(える)が学生だろうが同じ人間だろうが。てか、お前慈愛連立(じあいれんりつ)なのになんだその言い方は!? お前ほんとに神官長!?」

「おいおい、なんだ今の一言? お前ほんとに神官長、だって? さっきからそう言っているのに理解できないとか、残念残念」

「理解できるわ! その上で言ったんだよ!」

「理解できてるのに質問してくるとか残念な頭だねえ」

「んだとゴラァアアアア!」

「落ち着いてください主!」

「駄目よ神愛抑えて! 殴ったら国際問題よ!」

「知るか、放せ! こいつを殴らせろぉおおお!」


 殴りに行こうとする俺をミルフィアと加豪(かごう)が後ろから抱きつき止めてきた。

「まったく、理解できているならまずは尊敬してもらおうか。でも残念な君には無理だったかな?」

「くそおおおおおお!」


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