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天下界の無信仰者(イレギュラー)  作者: 奏 せいや
第1部 慈愛連立編
55/428

救済


 それは救済だった。人類に対する救済だ。そこに差別などありはしない。

 男も女も。子供も老人も。富める者も貧しい者も。

 すべて、そう、すべて。

 炎に抱かれて死んでいく。

 地上を覆う炎の中で、多くの悲鳴と多くの魂が消えていく。

 ある者は言う。それは救済だと。

 ある者はいう。それは惨劇だと。


 二千年前のその日、人類史に刻まれた運命の日。

 神の愛と神の意思を人に示すため。

 救済という名の殺戮を行なった者たち。

 その中で、最も苛烈に、最も激しく、誰よりも人を裁いた者がいた。

 多くの同胞に尊敬されて、多くの人に恐れられた者。

 その者は裁き続けた、それが使命と名誉。神の愛だと信じて。

 地上は炎に包まれる。

 救いはない。

 救いはない。

 なぜならば。

 それこそが、救済なのだから。



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