デュエットモード
黄金の炎は王金調律の体現に他ならない。敵がいれば妨害し、存在するだけで俺を無限に強化する。
俺はさらに黄金の炎を体育館中に広げた。ヨハネ先生だけでなく加豪たちも炎にさらされるが、黄金の炎に熱はなく、むしろ温かい。光に抱かれるように加豪たちからは安堵の表情が漏れていた。それだけでなく、加豪と恵瑠に変化が起こる。
「腕の怪我が、治っていく?」
「すごい! 痛みが引いていきます!」
王金調律は他の神理とは違い二つの属性を持っている。嬉しいことをして、嫌なことはしない。強化と妨害。強化は治癒としても働き怪我を治していった。
それだけじゃない。俺は腕を天に翳し、攻勢に転じる。
「我が神造体、ミルフィアに命ずる」
ミルフィアは神託物じゃない。神託物とは神が信者に与えるもの。神が自分のために作ったものを、神託物とは呼ばない。
「はい、我が主」
俺からの呼びかけに幸福そうに返事を行ない、ミルフィアは腕を上げる。そして、神を補助するために作られた、神造体としての力を発揮する。
「異教徒に、我が理を布教せよ」
「我が主の、命ずるままに!」
神理を補助するための真理。ミルフィアが抱く絶対の信仰であり信念が力となって発現する。
思想統一。多神世界において俺しか崇めない、それ以外を認めない一神教的信仰。そして思想を広める方法など古今東西、二つしか存在しない。
すなわち、『布教』か『弾圧』。
ミルフィアの指先から金色のベールが幾重にも重なり上空に広がっていく。
ミルフィアは布教を行ない金色の輪が広がった。それはヨハネ先生の頭上にも及び、瞬間苦悶を浮かべる。さらには神託物、巨大な羽を持つ者が小さくなっていった。
「これは、まさか、私の信仰心が低下している!?」
信仰心が強くなればなるほど神託物は強くなる。反対に弱くなればその分弱くなる。ヨハネ先生は布教の影響で、『弱体化』していた。
神託物の彼女はヨハネ先生と変わらないほどの大きさまで縮まり、攻撃はおろか、妨害の炎で身動き一つ取れない状況にまで陥っていた。
まさに格好の的。勝負の趨勢は決し、神の一撃が幕を下ろす。
「ミルフィアに命ずる」
王金調律による強化と妨害の二重属性。思想統一による弱体化と弾圧による攻撃の二重属性。二つを合わせて今や四重属性。その最後の力を振り下ろす。
「我が理に反する愚者を、弾圧せよ!」
「我が主」
命令に、ミルフィアは一度深く瞼を閉じた。黄金に輝くこの時を胸に刻み込んでおくように。俺に命じられ全うする。幸福の一瞬を噛み締め味わい尽くすように。極まった至福の時間に身を震わせて、ミルフィアは瞼を開いた。
「はい。あなたがそれを望むなら!」
前に伸ばしたミルフィアの手に黄金の粒子が収束してく。球体を作り大きくなっていく。
頭上にはいくつもの金の輪が広がり、地面は黄金の炎が覆っている。すでに、この空間そのものが金で染め上っていた。この光景に見る者は言葉を失い神の偉大さを知るだろう。
天が輝き大地が歌う。黄金の時は来て、世界は神の威光を謳う。
俺は力強く、拳をヨハネに突き出した。
「いけぇええ!」
狂気に捉われた信仰から解放するべく、黄金の輝きが異教徒を弾圧する。ミルフィアがかき集めた黄金は巨大な円形となっており、弾けるようにしてこの場を覆った。
炎熱の爆発。破壊の業火。建物や他の三人に被害はなく、俺の望むものだけを燃やし尽くす。
視界は黄金一色に染まり、温かな光を全身に浴びていた。次第に音も熱もなくなっていき、自分が黄金と一つになっていく。
そうして、気が付けば炎は消えていた。黄金の欠片もなく、ヨハネ先生が気絶している。神託物は消えたようでどこにも見当たらない。
「終わった、んだよな」
両手を見つめてみる。服装も元の制服に戻っていた。
終わった。実感がようやく追いついた。
「主」
「え?」
振り返る。そうか、そうだよな。俺が元に戻ったんだから、お前もそうだよな。
俺の背後には、片足をつき胸に手を当てて、微笑みながら頭を下げるミルフィアがいた。
まったく嫌になる。お前を笑顔にしてやろうといろいろ頑張ってきたというのに、こんなことであっさり笑いやがって。
そう思っていると、ミルフィアはゆっくりと顔を上げてきた。
「私はあなたの奴隷。ですので、いつでも命令してください」
殊勝な奴隷だ。でもなミルフィア。俺は諦めないぜ。
俺はミルフィアに近づくと、肩を掴み、跪くミルフィアを立ち上がらせた。そして、抱き締めたんだ。
「主? いけません」
「いいから!」
華奢な体を今一度抱き締める。小さい背中に腕を回し、顔を胸に押し当てる。こんなにも小さな体で、ずっと俺のために働いてくれたんだよな。
「てめえがなにを背負ってるのかなんて知らねえよ。お前が誰かも関係ない」
こいつの言っていることが仮に本当で、俺たちの前世に何かがあったとしても、俺たちの関係が昔から決まっていたのだとしても。
俺は俺で、お前はお前だろ?
「ありがとうな、ミルフィア」
なら、俺が言いたいことくらい言わせろよ。
感謝は一言だけ。もしかしたら他に相応しい言葉があるかもしれないが、あいにく、学のない俺にはこれしか言葉が浮かばない。
はじめは抵抗を見せていたミルフィアだが、次第に落ち着き大人しくなっていった。そして俺に合せるように、背中に腕を回してくれたんだ。
「我が主、私はあなたの傍にいます。ずっと、例え来世でも」
声調は温かく、穏やかで。これがきっと黄金律で築いた、彼女の喜びなんだろう。
「我が主、あなたに永遠の忠誠を」
こうして俺を襲った事件は幕を閉じた。三人の友人と、一人の奴隷に助けられて。
手にした黄金は、胸の中でいつまでも燃えていた。




