認めたくない気持ちは分かるんだけどさ、これが現実だ。
これでようやく終わる。ウリエルの追っ手も消えて自由になれる。二千年の呪縛から解き放たれるのだ。
ウリエルを救うには、ここでミカエルを倒すしかない。
そのためにここまで来た。
全力全開、エリヤは己が持つ最大の力で大剣を振るう。その一閃で彼女の束縛を断ち切るために。
エリヤ渾身の一撃は、ミカエルの首に直撃した。
「な!? ……に」
しかし、直後衝撃がエリヤを襲う。
「ふぅん、たいした力だ。だが残念、私を傷つけるには届かないなぁ~?」
「馬鹿な」
ミカエルは、無傷だった。エリヤの大剣を首で受けてなおかすり傷一つない。エリヤの衝撃はミカエルの足を通って地面は陥没、砕けているというのに、直撃を受けた本人は平然と立っている。
「ぐ!」
エリヤはさらに力を押し込んだ。その力に圧されミカエルの足場が反対側に盛り上がっていく。しかしどれだけ力を入れてミカエルはビクともしていない。
どういうことか分からない。初めての経験だった。自分の攻撃を受けて壊れないどころか傷すらつかないなど。
ミカエルは余裕の表情でエリヤを見上げていた。
「認めたくない気持ちは分かるんだけどさ、これが現実だ。頭の悪い君でも目に見たものを素直に受け入れるしかない。それとも、それすらできないほど残念なのかな?」
ミカエルは片手を大剣に沿わせ、ぐっと掴んだ。
「っ!?」
危機感が走る。無理矢理ミカエルの手を振りほどき後退するのとミカエルが反対の手で突くのは同時だった。
「ぐぅ!」
ミカエルの切っ先がエリヤの腹部に直撃する。エリヤは着地すると腹部に手を当ててみる。見てみれば手のひらは血で赤く染まっていた。
感覚としては深くない。後ろに跳んでいたことと自身の強度が幸いした。まだ戦える。
だがなぜミカエルは無傷なのか。エリヤは困惑の眼差しを向けるがミカエルは肩を竦めていた。
「ふぅー、固いな。本気で突いたんだが。これでそれだけとは本当に残念だ、自信をなくすよ」
エリヤの怪我が軽傷で済んでいることに落胆しているようだがこっちはそれどころではない。
直撃だった。本気の一撃だった。なのに怪我すらない。
(どういうことだ? だが)
分からない。理由はなんだ。しかしやることに変わりは無い。
攻めて、攻めて、時間を稼ぐしかない!
「うおおおお!」
エリヤは走り大剣を振るう。巻き起こる突風でミカエルの動きを牽制するとその隙にミカエルを掴んだ。
「な!」
そのままミカエルを地面に引きずりながら走った。ミカエルの体を押しつけ地面が抉られていく。エリヤは人のいない場所にミカエルを投げ捨てた。
直後、ミカエルを押しつぶすようにサンダルフォンの拳が叩きつけられた。地震のようにこの場が揺れる。サンダルフォンが拳を引き上げるとミカエルは仰向けで倒れていた。
そこへさらに拳をたたき込む。地面が衝撃に揺れる。まるで爆撃を受けたようにこの場にいる兵士たちが倒れていった。
サンダルフォンは三回目の攻撃をしようとする。瞬間ミカエルの目が見開いた。打ち付ける三度目の衝撃が地面を粉砕するがサンダルフォンの表情が歪んだ。
「君は初対面か。まったく、二代目とはいえ私に攻撃をするとはな」
サンダルフォンによって巻き起こった砂煙が晴れる。そこにはミカエルが立っていた。サンダルフォンの攻撃を受けてなお傷は見られない。
「おいおい……」
いつもと変わらないその姿。それがどれほど異様なのか言葉に表せない。
強いは強い。しかしなにより不気味だった。エリヤの胸に暗雲が立ちこめていく。