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正直な気持ち

 そんな姿に、俺たちの誰一人掛ける言葉がなかった。


「なんだよ、それ……」


 拳が震える。目の前にいる、以前とは似ても似つかないヨハネ先生の姿に。


『やはり、あなたは怒っているよりも、笑っている時の方が素敵ですよ』


 いつも笑顔でお茶らけて、誰かの笑顔のために頑張る人だった。


『黄金律という思想の下、宮司さんは自らの道を手探りながら進んでいるのです。では、それを続けることです』


 無信仰者の俺でも真摯に相談に乗ってくれた。


 優しい人だった。誰よりも尊敬できる人だった。こんなの本当のあんたじゃない!

 なのにッ!


「あんたがそうなっちまったのって、ようは、俺のせいかよッ!?」


 俺を助けようとして、結果狂信化してしまった。俺がいなければ、こうなることはなかった。

 俺が、狂わせてしまったんだッ。


「ふざけんなぁあ!」


 思いを爆発させて、力の限り叫んだ。


「俺の人生は最悪だよ! 生まれた時から親には冷たい目で見られ、周りのガキからは石を投げられた。辛くて泣き叫んでも誰も聞いてやくれない! 親しいやつなんか一人もいなかったんだ! 分かるか? 一人もだぞ!?」


 孤独の世界で疎外感と憎しみだけを植えつけられた。それが宮司神愛ってやつだった。


「最低の人生だ! 公園の便所の底よりも居心地が悪い! 唯一傍にいてくる女もいたが、そいつは友達にはなってくれないし。だけど友達になるために頑張った」


 ずっとそばにいてくれて、俺を支えてくれる人がいた。その人を救うために頑張った。


「自分なりに努力して、したこともない愛想笑い浮かべてさ。だけど不気味だと批評食らって苦笑いさ。それでも頑張って頑張って頑張って。そしたらどうだ? 気づいたら、いつの間にか仲間がいたんだ。嘘みたいだろ? 俺みたいな人間でも、誰かを信頼できたんだ! 信仰者とは分かり合えないって信じてた俺が! ……だっていうのにそいつらときたら、ハッ、なんだ? 刃物を振り回すヒステリック女に真性のアホ、セットにはウサギに欲情する変態女だぞ! 俺の人生どーなってんだ!?」

「ちょっと! 誰がヒステリック女だって!?」

「神愛君それはひどいと思います!」

「宮司君……、もっと言っていいわよ」

「おまけにだ! 何が最悪かって!」


 最悪だと思っていた人生でも、輝いていた時間はあった。出会いがあった。それは加豪や恵瑠、天和だけじゃない。人生を変えるほどの素敵な出会いはもっと前。


「俺の人生の中で、唯一の良心と言ってもいい!」


 その出会いに感謝した。これほど素晴らしい人はいないと思えるほど。だからこそ辛い。想いは溢れて、涙がこぼれた。


 最悪の人生で、それは奇跡のような出会いだったから。


「あんたが俺を殺そうとしていることだ! これはなんのクソジョークだよ! 俺は、俺はあんたならいいと、本気で思ってた! なのに、くそったれ……! 俺の人生っていうのは、いつだってこんなんかよ!」


 胸に収まりきらない思いが頬を伝って地面に落ちる。感謝していた。それだけに、現実は残酷だった。


「ありがとうございます、宮司さん。しかし、あなたには消えていただくしかない」


 思いを受け取ったヨハネ先生が感謝を述べる。だが、方針までは変わらなかった。


「……他の三人はどうするつもりなんだ?」

「私があなたを殺したことを口外されれば平和が乱れる。ならば、あなたと共に殺すしかありません」

「あんたの目的は俺を消すことだろ? ならこいつらは関係ない! ……俺が退学する」

「神愛!?」

「神愛君!」

「宮司君……」


 俺のセリフに三人の声が聞こえる。でも、これしかない。


「待ちなさいよ神愛! あんた、それでいいわけ!?」


 しかし加豪が大声で止めてきた。許せないのか、必死な声が背中にぶつけられる。

 そんなの嫌に決まってる。だけどこの場をなんとかするならそれしかない。


「仕方がないだろう! 無関係なのに、これ以上他人のお前らを巻き込めるか!」

「ふざ、けるなあ!」

「なっ!?」


 なのに返ってきたのは加豪の叫び声だった。こっちは心配で言ってんのに、なんで怒られるんだ。

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