俺はここに、暴れに来たんだからな!
エリヤの進行を防ぐため兵士が集合していく。建物に挟まれた大通りを部隊が陣取り装甲車まで出張り道を塞いでいる。
しかし、そんなもの足止めにもならない。荒狂う竜巻がすべてを吹き飛ばしていく。
そしてエリヤはサン・ジアイ大聖堂に辿り着いた。
そこには、すでに兵隊によって封鎖されていた。三カ所に設置された巨大なライトがエリヤを照らし、横一列に並んだ兵士が全員エリヤに銃口を向けている。装備は警備隊のそれではなく軍仕様。警備隊ではない、軍が出動していた。
この事件は一人による暴力事件ではない。テロとして扱われている。
相手はただの暴漢ではない、エリヤだ、一人でテロ認定を受けるほどの超危険人物。
それが一度ならず二度もサン・ジアイ大聖堂に現れた。
拡声器の大音量が夜に響きわたる。
「エリヤ! お前にはモーゼ神官長襲撃の件で出頭命令が出ている。武器を地面に置きこちらの指示に従え」
「あいにくこいつはお気に入りだ、置く気はねえよ」
エリヤは大剣を兵隊たちに向ける。端から端へ、ゆっくりと全員に剣先を向けていく。
「モーゼ神官長殿ならここにはいない。諦めて投降しろ!」
「情報が遅いな。用があるのはモーゼのじじいじゃねえ、ミカエルっていう神官はどこにいる? そいつに会わせてもらおうか」
これだけの人数を前にしてもエリヤは平然としている。襲撃者猛々しいと言わんほど、その顔には余裕の笑みすらあった。
「ミカエル神官との面会は許可できない。大人しく投降しろ!」
サン・ジアイ大聖堂の正門から再三に渡って投降が呼びかけられるがエリヤにその動きはない。
こうしている今も彼女は走っている。その時間を稼がなければならない。
「そいつは無理だ」
エリヤは剣を構えた。自分に向けられる無数の銃口と敵意、それを前にしてもなお不敵に笑った。
彼女を守るためなら、誰だろうが戦える。
「俺はここに、暴れに来たんだからな!」
エリヤは駆け出した。彼女が走る反対側へと。
ウリエルとの距離が離れていくがそれでいい。
これが、自分の道だ。
「お前らには悪いが、踊ってもらうぜ!」
陽気な宣戦布告。しかしその突撃は猛然としていた。目に見えて分かる竜巻が正門に押し迫る。
「う、撃てぇ!」
エリヤの接近に司令官から発砲の指示が飛ぶ。それを合図に一斉に銃撃が行われた。威嚇射撃なんてない。相手はエリヤ、一度モーゼ神官長に刃を向けている極悪人、射殺しても仕方がない。
しかし、そんな心配をするまでもなくエリヤは走り続けていた。
大剣を縦に構える。銃弾は巨大な刀身に阻まれ弾けていく。接触に火花が間断なく散りエリヤの進行を止められない。
エリヤは接近すると大剣を振りかぶった。足を止め勢いのまま大剣を振り抜いた。
「いけえええ!」
全力の一振りが生み出した突風が正面にいた兵士を吹き飛ばす。十数人の男たちが十メートルほども後ろに飛んでいったのだ。端にいた者ですらその風に転倒している。
「正門突破されたぞ!」
エリヤは防衛線を突破しさらに進撃する。
サン・ジアイ大聖堂に入るためには大通りを抜ける必要がある。両側道路、街路樹が並ぶ道を突き進んでいく。
それを阻まんと雨のように銃弾が降り注いだ。まるでエリヤの足場だけが地雷原のように大量の流れ弾によって地面がえぐられていく。
人一人に対し、それはあまりにも膨大な攻撃だった。正面、両側面からも銃撃を加える。
しかしそれでもエリヤは止まらなかった。物理耐性のため傷すらつけられない。出来て顔面に集中させ目くらましをするくらいだ。
銃では止められない。
エリヤの前に中隊が立ちはだかる。二百人を越える軍人が銃剣を構えエリヤを向かえていた。動く気配はない。それは倒すというよりも壁になる配置だった。
倒せないなら押しとどめるまで。数という有利を活かしエリヤを圧倒するつもりだ。
そんな術を、理を、人が考え出した計算を、一つの暴力が粉砕していく。
「おらあああ!」
走る途中に振るった突風が中隊に襲いかかる。吹き飛ばされそうになるのを前にいる兵の背をつかんでなんとか耐えるが体勢が不安定になっている。
その状態をエリヤの大剣が直撃した。前面にいたものが銃身で受けたものの銃は大破し後ろにいた者も巻き込んで三分の一もの人数が吹き飛んでいく。さらに振るって振るって中隊すべてを吹き飛ばしていた。人がかみ切れのように飛んでいく。
「突撃しろぉお!」