なるほど、たいした力自慢だ
今のエリヤの一言は軽率だった。だがすでに疑われていたこと。ここでバレたとしてもたいして痛くはない。
「質問に答えろ、なぜあいつを狙う?」
「それを君に話すと?」
挑発なのか本気でそう思っているのか、ミカエルの小馬鹿にしたような声で言われる。
その後やれやれと顔を振った。
「まったく、これだから馬鹿と話すのは嫌なんだ。無駄な会話が多くて困る」
狙っているのか性格なのか、話の中に自然と罵声を混ぜてくる。
「私から話すことなどなにもない。エリヤ、お前は暴力行為、器物損壊、不法侵入、その他諸々で逮捕だ。いろいろ聞きたいこともある。聞くのは私、話すのはお前。頼むから自分の立場を理解してくれ、君はクズなんだから。クズはクズらしく虐げられていればいいんだよクズ」
「お前が神官とはな」
神官という役職どころか慈愛連立の信仰者にしては口が悪い。ここまで平然に言えるとは性格に難ありとした思えない。
「まあいい。なら最後に一つだけ聞くぜ」
「おいおい、理解してるのか? 話すことなどなにもないと言ったんだけど?」
相変わらず勘に障る言い方だがエリヤは無視する。反対に睨む目つきに力を込めミカエルに問う。
「あいつを、諦めることはないんだな?」
茶化すことも冗談を挟む余地もない。刺し貫く視線に当てられてミカエルも表情を固くする。
「仮に、私が諦めない、と言ったら?」
二人の視線がぶつかり合う。空気はすでに一髪触発の緊張感に包まれ周りの兵士たちも固唾を飲んで見守る。
エリヤはゆっくりと大剣を持ち上げ、剣先をミカエルに向けた。
「お前を、ここで倒す」
敵地のど真ん中、敵に包囲された逆境。それでもエリヤは言った。自分の信念を貫くために。
その目には怯えも恐れもない、真っ直ぐな瞳だった。
「ふん、あいつも厄介なのを知り合いに持ったな」
エリヤは本気だ、ミカエルを倒すか自分が倒れるまで戦うつもりだ。それも最強と名高い聖騎士だった男が。ミカエルとしても楽々で済む問題ではない。
だがこれはチャンスでもある。ウリエルは脱走し追ってはいるがその手がかりはない。しかしエリヤならば知っているはずだ。ここで逃す手はない。
「では相手になろう。ただし、倒されるのは君で、すぐに彼女の居場所を吐いてもらうことになるがね」
エリヤからの宣言にミカエルも剣を取り出した。空間から彼の持つ荘厳な剣が現れる。周りにいる者たちに下がっているよう指示を飛ばし剣を構える。エリヤも剣を構え二人だけの戦場になっていた。
片やウリエルを追うために、片やウリエルを守るために。
二人はにらみ合い、そして、ミカエルが動いた。
「君みたいな下等な者と戦うのは不本意なんだがね」
嫌らしく曲がった口元を浮かべミカエルが攻め込んでくる。二人の距離はすぐに詰まりミカエルの剣がエリヤに襲いかかった。
ミカエルはここに空間転移で現れた。オラクルが振るう一撃だ、さらにウリエルやラグエルと同じ天羽。弱いわけがない。
その一撃は、
「ったく」
エリヤに軽く受け止められていた。
「思ってたより、強くねえな」
ミカエルの刀身が大剣によって防がれている。ミカエルは両手に力を入れ踏み込んでいくが片手で大剣を持つエリヤはびくともしていない。
「なるほど、たいした力自慢だ。脳まで筋肉なやつはやはり違うな」
「負け惜しみじゃ俺は倒せねえぞ?」
「ほぉう」
ミカエルは剣を振りかぶりエリヤに斬りかかる。次々と剣を打ち付けるがエリヤはすべてを受け止める。その表情は薄くミカエルを見下ろしている。
「ふん!」
ミカエルは一旦後ろに飛び退いた。着地をすると剣を握り直し再び地面を跳ぶ。エリヤの頭上高くまでのぼり全力で剣をたたき込んだ。
「ふん!」
「ちぃ!」
ミカエルの剣とエリヤの大剣で火花が散る。両者の力と力がぶつかるが、押し戻されたのはやはりミカエルだった。悔しそうに地面に着地する。
「そろそろ終わりにしてもらうぜ」
防御に徹していたがエリヤも動く。この勝負を終わらせる。剣の柄を両手で握り込み、勢いよく駆け出した。
「てめえのストーキングもここまでだ!」
これで決める。剣を持つ手に自然と力が入った。