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天下界の無信仰者(イレギュラー)  作者: 奏 せいや
第1部 慈愛連立編
390/428

超えてみせる、あの時憧れた兄の背中を!

 完璧では彼に追いつけない。ならその先へ。目標は高く険しいならさらにその先へ。 

 超えてみせる、あの時憧れた兄の背中を!

 エノクは剣を構え走った。全神経をこの一戦に集中させエリヤに迫る。

 迎え撃つエリヤの横薙ぎの一閃。大木すら割るその一振り。受けるものなら砕かれ、避けても風に吹き飛ばされる暴威。

 それを前にしてエノクは飛んだ。体を回転させながら水平に、まるで棒の高飛びだ。けれど距離が間に合わない。ぎりぎり当たる。

 その瞬間、エノクの体がふわりと浮き上がった。

 エノクは、風に乗った。


(風圧を利用しただと?)


 エリヤに今度こそ衝撃が走った。

 まるで木の葉が風に舞うように。エリヤの力を利用した。こんなのは剣術ではない。

 エノクの戦い方は、剣の領域を超え始めていた。

 回転していたエノクの体はエリヤの風をつかまえ風車のように勢いを増す。エノクの鋭い眼光はエリヤを見つめたままであり、剣を突き刺した。


「ッく!」


 慌ててエリヤは背中を反らした。エノクの切っ先がエリヤの頬を掠める。そのままエリヤはエノクから距離を取った。

 エリヤ、はじめての後退だった。

 攻撃を躱されたエノクは華麗に着地する。躱された落胆はない。戦意は健在でありエノクを睨み続ける。一切乱れのない剣先がエリヤを捕らえていた。


「ったく、騎士は廃業して曲芸師にでもなるのかよ」

「それなら兄さんは解体業だな」


 予想外の反撃にエリヤも軽口が出る。しかしその目は笑っていなかった。

 攻撃こそ最大の防御。それを地でいくエリヤの防御に裂け目が見えたのだ。エリヤは驚きを覚えエノクは勝機とともに走り出す。

 超える、絶対に!

 エリヤから再び剣が振り下ろされる。表情から余裕は吹き飛んでいた。握る手も両手に変わり破壊を叩きつける。攻撃力、速度、ともに三倍にもなる一撃だ。

 が、それすらエノクは見切っていた。さらにその先、発生する爆風も予測済み。

 エノクは横に飛ぶと風を剣で受けた。縦に構えたそれをナナメに動かす。そうすることで横に吹き飛ばされながらも前に押し出されていた。剣を使って風に流れを作る。その風流に乗りエノクはエリヤの背後にまで回っていた。


「!?」


 その技巧、まさに神業。神化では手に入らないもの、努力、技術、それがこの脅威を退けた。


「ちぃ!」


 目で追っていたエリヤがすかさず片手をエノクに伸ばしてくる。無造作に突き出される手は無防備だ。逆につかみ取ればその隙に脇を切れる。

 瞬時にそこまで考えて否定した。掴んでは駄目だ、引き込まれる。体勢を崩されそこを狙われる。

 エノクは後ろに退いた。すぐさま剣を突きの構えにして突撃する。エリヤの手の間合いの外、そこからの刺突ならばいける。

 どうだ? エリヤの剣では防御も反撃も間に合わない。勝負を決めるチャンス。

 勝利を予感させる一撃は、しかしエリヤには当たらなかった。エリヤはすんでのところで横に回避していた。エノクは内心で舌打ちする。攻撃は外れエリヤの体を横切っていく。

 瞬間エノクの体が押さえつけられた。


(な!)


 エリヤの手がエノクの腰を掴んでいる。そのまま背後に回られた。エリヤがエノクを後ろから抱きしめている形だ。

 掴まった。だがエノクに不安はない。

 二人は密着している。この状態では剣は振るえない。地形を破壊していくエリヤの戦法は使えず自ら最大の武器を手放した。

 焦ったか。エノクは冷静に考えた。この状況なら剣を振れないのだからできることといえば首筋に刃を当てるくらいだ。エノクはすぐさま右手で首をガードし反対にエリヤの首筋に自分の刃を当ててやろうと左手を動かす。目では見えないがエリヤの体格は把握している。背後にいようと正確に当てられる。

 勝てる。エリヤはすでに片手で自分の腰を掴んでいる。ガードはできない。この勝負、自分の勝ちだ。

 そう思ったところで、さらに腰を掴まれたのに気づく。


(なに?)


 目で見るよりも感覚で分かる。今、自分は両腕で腰を掴まれている。

 あり得ない。剣を持っているのだから両手で掴めるはずがない。そう考えが過る中、エノクの視界の隅にそれは映った。

 エノクの大剣が放り捨てられたように床に転がっている。


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