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天下界の無信仰者(イレギュラー)  作者: 奏 せいや
第1部 慈愛連立編
386/428

その大剣

「ここで全員立っていても仕方がなかっただけさ」

「まあ、それはそうなんだがな」


 エノクは冷静だ。それはそれで嬉しいが、逆にどうこの弟を納得させたものかとエリヤは悩み出していた。


『エリヤ、聞こえるか?』


 その時だった、いきなり声が聞こえてきたのだ。


「ラグエル?」


 聞き覚えのある声が聞こえてくる。ラグエルだ。エリヤは周囲を見渡すがそこに彼の姿はない。


『私の声をお前に直接届けている。私は今サン・ジアイ大聖堂だ』


 オラクルならできるといわれる音声の空間転移だ。


『エリヤ、彼女を連れだしてくれたようだな。お前はいらないと言っていたが、それでも言わせてくれ。ありがとう』


 声の伝播はオラクルなら可能だとエリヤも聞いたことがある。声が外からではなく頭の中から聞こえてくる不思議な感覚だった。思わず片手で頭を押さえる。

 それ自体は別にいい。重要なのはなぜ話しかけてきたのかということだ。


「兄さん? ラグエル委員長の声が聞こえているのか?」


 エノクが聞いてくるのを片手で制する。この声を聞き逃すわけにはいかない。


『ウリエルが脱走したことが発覚した。すでに捜索が始まっており、同時にお前に神官庁への出頭命令が出た。表向きは神官長への恫喝行為、その追及だが、本当はウリエルの行方について尋問するためだ』

「そうくるかよ」

『現在司法庁とも連携して逮捕状や家宅捜索の礼状など用意しているところだ。動きが早い。おそらく明日にはお前の家にも捜査が入る。町中にも捜査網が設置されているところだ』

「ち」


 声から伝わってくるおもしろくないニュースにエリヤは壁に背もたれ思案顔になる。


『急げよ。私でもできることはするが期待はしないでくれ。健闘を祈る』


 そこでラグエルからの声は途切れた。


「くそ、一方的に話しやがって」


 不利な状況に苛立つ気持ちをとりあえずラグエルに八つ当たりしておく。エリヤもオラクルではあるがこの手の芸は繊細で修得する気にもなれなかった。

 とりあえず状況は分かった。ここで泊まっていくという悠長なことはできそうもない。

 エリヤはうんざりするが、そこでエノクと目が合った。そういえば彼をどう説得するかで悩んでいたところだった。

 しかし状況が変わった。いったいなにから説明すればいいのか。

 エリヤが悩んでいるとエノクから声をかけてきた。


「兄さん、場所を変えよう」

「……そうだな」


 二人は玄関から外に出た。どちらにせよこれから話すことはシルフィアには聞かれたくないことだ。エノクもそれを察したのだろう。

 二人は家の壁に背をあずけ並んだ。空はすっかり暗くなり星がいくつも光っていた。二人は遠目に見える星を黙って見上げている。


「その大剣」

「ん?」


 エリヤは隣に振り返る。


「聖騎士を、辞めたんだな」

「……まあな」


 総教会庁に没収されていたはずの大剣。それが彼の背にあることはエノクも一目で分かっていた。その理由と、彼が覚悟を決めていることも。ラグエル委員長から通信があったこともエノクの確信を強めていた。

 エリヤは聖騎士を辞めた。そのことに寂しい気持ちが胸に広がる。ずっと目標にしてきた人は、一度も越えることなくその職を辞めてしまったのだ。

 だが、今はそんな感傷に浸っている時ではない。


「最近」


 エノクは視線を星に向けたままエリヤにも聞こえるように言った。


「神官庁で動きがあると聞いていた。ある女性を捜索していると。これだけなら別段気にする話でもないんだが、なんでもデバッカー部隊まで動いているらしく、総教会庁でも何事かと勘ぐっていた。()の部隊が出動するなどよほどのことだ。あれが(くだん)の女性なのか?」

「…………」


 エリヤは答えない。だがそれは肯定以外のなにものでもなかった。


「まったく。よく連れてきたものだ」

「悪かったよ」

「悪いなんて言っていない」


 エノクは呆れた物言いで言ったがその表情を緩めた。彼のめちゃくちゃを懐かしむ。彼は昔からそういう人なんだと思い出していた。


「人を助けるのは、兄さんの趣味だからな」

「ハッ」


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