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天下界の無信仰者(イレギュラー)  作者: 奏 せいや
第1部 慈愛連立編
381/420

いくぞエノク!

 エリヤも背中にある大剣の柄に手を伸ばし構える。弟が向けてくる真摯な戦意が嬉しくて、こんな時なのに胸が浮ついてくるのを止められなかった。


「来い。お前が積み上げてきたっていうなら、その全部を見せてみな」

「望むところだ」


 二人は構え合う。互いに剣先を相手に向け見つめ合う。夜の帳の中白衣の騎士は自分の信念を賭けて戦う。

 二人の間に風が吹いた。エノクとエリヤの前髪が揺れていく。

 瞬間、さきに動いたのはエリヤだった。


「いくぞエノク!」

「こい!」


 静寂を引き裂いて破壊の権化が雄叫びとともに突進する。

 エリヤは大剣を振り下ろした。切るなんて生易しいものじゃない、エノクごと押しつぶす怪物の一撃。この攻撃は防御を許さない。

 エノクはそれを華麗に回避した。エリヤの剣筋を完全に見切り重心を崩すことなくそれを躱していく。そのため動きに乱れはなく、剣は中心線から逸らさない。どのような状況にもすぐ対応できるよう準備していく。エリアの攻撃を掻い潜りながら一瞬の隙を的確に突いていった。

 この男が振るうものは受けてはならない。受ければ吹き飛ばされるか剣が折られるかだ。

 エリヤは剣を振るい続けてくる。それは乱雑に、乱暴に行われている。エノクを吹き飛ばそうとそれだけを考え大剣が宙を切る。無秩序な暴力。その表現が相応しい。この力に理屈など存在しない。嵐も津波も戦術など持たない。ただそれだけで脅威なのだ。

 エリヤのあり方はまさにそれ。エリヤであるだけで強い。そこに小難しい戦術など一つもなかった。

 対して、エノクが繰り出すのは理の合一。どれほどの脅威であろうとも術で対抗する。

 エノクの戦い方は基本に忠実だ。それだけに無駄がない。最高率効率の動きは攻守において完璧だった。これをどう攻略し、どう崩せばいいというのか。攻撃は隙を的確に突いてくる。隙が無いなら攪乱して隙を作る。反対に自分は隙知らずの立ち回りなため迂闊に攻撃もできない。下手な攻撃はそれこそ隙をエノクに与えるだけだ。

 完璧な剣術だった。

 そんなエノクが攻め切れていない。むしろ苦戦していた。


「くっ!」


 やはり強い。知っていたがこうして対戦して改めて実感する。

 エノクをして防戦に追い込むエリヤの戦法。それは一点特化に他ならない。

 完璧と表現する根柢には理論がある。完璧などしょせん想定内で起こることでしかない。だがエリヤの力はその理屈を超えている。

 片手で振り回す大剣はそれだけなら恐ろしくはない。防御の上からでも一発でノックアウトに持っていく馬鹿力だとしても躱せばいい。どんな攻撃でも当たらなければ意味がないのだ。そしてエノクほどの騎士なら振り回すだけの大剣、躱すことなど造作も無い。

 それを困難にさせてるのが、エリヤが振り回すと同時に発生する突風だ。それがエノクの体を押し戻し、体勢を乱れさせる。さらに地面は砕け破片が猛烈な勢いで四方に飛び散るものだからそっちにも注意しなければならない。まるで爆撃地での戦闘だ。

 めちゃくちゃにもほどがある。こんなもの剣の戦い方ではない。よって完璧であるエノクでも防戦に追い込まれていた。

 エリヤを倒すなら大剣だけでなく地形や状況、すべてを見なければならない。人と対峙しているというよりも自然現象と戦うような、エリヤだけ相手していると考えていては勝てない。

 そして、それは以前の試合ですでに把握済み!

 エリヤが頭上まで振りかぶった大剣を振り下ろしてくる。毎度毎度一撃必殺の攻撃を打ち出してくる男だ。

 それに対しエノクは剣を振り上げたのだ。


(俺とやり合う気か?)


 だがエリヤの予想は外れた。

 エノクの剣はエリヤの剣筋から僅かにズレていた。剣は交差することなくすれ違っていく。

 エノクの剣が振り切る。それは、風を切り裂いた。


「!」


 エリヤの目がわずかに見開いた。エノクは、目の前にいる。自分の剣は地面を叩いているがエノクは吹き飛ぶことなくそこにいる。エノクは自分も剣を振るうことでエリヤの風圧を乱していた。自分も体を動かしエリヤの剣を躱し、そのため吹き飛ばされることなく間合いの内にいた。

 エノクは振り上げた剣をすぐさま反転、振り下ろす。隙だらけだ。エリヤの剣は地面についている。防御は間に合わない。

 それはエリヤも分かっていた。そこでエリヤが取った行動は突進、ショルダータックルがエノクに迫る。

 まずい。エノクはすぐに後ろに飛んでエリヤの突進を回避する。チャンスだったが今のは危険だった。エリヤとしてはピンチだったが懐にいたのはエノクも同様、あと少しで倒せたのを逃げられた。

 だが逃げる間際、エノクはエリヤの動揺を見逃さなかった。間違いなく、反撃されたエリヤは焦っていた。


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