これが、私の正体だ
驚愕に声が出ない。なにも考えが動かない。ただ頭の中ではこれが本物なのだということを思考ではなく本能的に理解していた。
(まじかよ……)
言葉にならない。目の前にある奇跡に表現する術などなかった。
ラグエルは羽を出したがエリヤが理解したのを見て翼を消した。光の粒子となって消え空間に流れていった。
「…………」
「これが、私の正体だ」
「おお」
返事をするだけで精一杯だ。
「当然だが、このことは口外無用だ。本来人目に晒してはならんことだ。お前の信用を勝ち取るため今回は特別に開示したに過ぎん」
「分かった、信じるよ」
エリヤは頭を掻いた。まいった。まさか本当だとは。これなら冗談の方がよかった。
「信じてもらえてなによりだ。それでここからが本題なんだが」
「まだあんのかよ!?」
さっきからとんでも隠し芸大会の連続で追いついていないというのにこれ以上なにがあるというのか。
「当然だろう、意味もなくこんな真似をするか」
「今度はなんだよ、なにをバラそうって? 実はその髪の毛ヅラだったとか?」
「…………」
「悪かったって、冗談だよ」
エリヤは軽口で聞くがラグエルは答えない。雰囲気がどんどんと固まっていく。それで最初はふざけたから怒っているのだと思ったが、そうではなく言うのを躊躇っているのだと分かった。
「…………」
「…………」
それを察してエリヤも口を閉じ、ラグエルが話し出すのを黙って待った。
時間が流れる。よほど言いにくいようだ。自身が天羽だと明かしたラグエルだが、それでも言いにくいこととはどういうことなのか。
「拘束されているウリエルだが」
そこでようやく話し出した。エリヤは気持ちが一歩前に出るが、直後踏みとどまることになった。
「近々、処刑されることになった」
「な、なに!?」
処刑、その言葉にエリヤの余裕が吹き飛ぶ。
「処刑ってどういうことだよ? なんで? あいつが堕天羽だってのは分かったが二千年前のことだろ?」
「それは、私にも分からない。天羽の最高幹部である四大天羽の面々なら知っている風だったが」
「なんだよそれ!」
エリヤの激しい激にラグエルは答えない。返す言葉もなかった。
「私は……! …………ん」
沈黙の裏側でラグエルは激しく葛藤している。眉間に皺がより目を強くつむっている。まるで悪夢にでもうなされているようなその顔色にエリヤもなにを考えているのか分かった。
「……なんだよ、言うだけ言ってお前はなにもしないのか?」
「!」
「そういうことかよ、ったく」
ラグエルがなぜそこまで悩んでいるのか分かった。
「お前はなにもしないけど俺には助けろって? 俺だけに罪を被せたいってそういうことか?」
「…………!」
ラグエルはウリエルの身を心配している。それは本気だ。そこを疑おうとは思わない。
なのにここまで心苦しくしているのは、ようは助けないからだ。助けたいと思っているのに、助けない。それだけでなくエリヤに相談したということは自分の代わりに助けて欲しいということ。
虫のいい話だ。そんなに助けたいのなら自分ですればいいのに、人に任せ責任まで負わせようとしている。
「……そうだな」
ラグエルは観念したようにつぶやいた。
「私は、卑怯な男だ……。なんとかしたいと願ってはいる。しかし私は天羽を監視する者、私が破るわけにはいかない。裏切るわけにはいかない。ただ」
消沈した様子で話すラグエルだったが少しずつ声が大きくなっていく。
「それでも……! 彼女を、救えるなら救いたかった。救われて欲しかった」
諦めきれない。諦めるにはそれは大きな願いだ。それだけラグエルにとっても彼女は大切な存在だった。