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天下界の無信仰者(イレギュラー)  作者: 奏 せいや
第1部 慈愛連立編
361/428

これが、正しいってことなのかよッ

 左右から銃口を向けられ、椅子に挟まれた中央から三人の兵士が近づいてきた。


「おい」


 それを阻止するためにエリヤが立ちふさがる。


「それ以上近づくんじゃねえ」

「聖騎士エリヤ。邪魔をするな。これは正式な任務だ。妨害するというのならお前もただではすまないぞ」

「上等だ、やってみろやオラ!」


 エリヤが三人の兵士に近づいていく。相手もすぐさに銃を構え直した。しかしエリヤは臆することなくさらに歩いていく。


「やめてくれ、エリヤ」


 その歩みを止めたのは、ウリエルだった。


「だが」

「いいんだ」


 エリヤが振り返った先、ウリエルはすべてを受け入れていた。立ってはいるが活気はなく、体に力も入っていない。抵抗の意思なんてなかった。


「諦めるなよ! 約束しただろ、これが終わったら自由に生きるって。もう少しじゃねえか! 待ってろ、俺がこいつら退かして」

「エリヤ!」


 なんとかしてウリエルを助けたい。そう思うエリヤだがウリエルに止められる。


「ここでお前が暴れたら、家族にまで迷惑がかかるのを忘れたのか!?」

「それは…………」


 そう言われ、握りしめた拳から力が抜けていった。同時に嫌な記憶がぶり返る。

 神官長モーゼに刃を向け脅迫し、それによって教皇マルタや家族にまで迷惑をかけた。それは軽率で幼稚な正義だった。

 そのせいで、迷惑をかけ、後悔しか生まれなかった。


「反省したんだろ? もう家族に迷惑をかけないって」


 それを知っているウリエルはそっとエリヤに言い聞かせる。このままではエリヤは力づくでも自分を助けようとする。その後彼はどうなる? 任務妨害でどんな罰を受けるか。彼の家族や所属元の総教会庁にだって波及する。

 自分のせいでそんな目には遭わせられない。


「もう、いいんだ。ありがとうな、エリヤ」


 だから、ここでお終いだ。

 楽しい時間だった。笑顔になれる場所だった。それは本当に久しぶりのことで、自分でも忘れていたものだった。

 けれど、迷惑はかけられない。

 ウリエルは歩き出しエリヤの横を通る。兵士に脇をかためられ出口へと向かっていく。


「ウリエル!」


 その背中へ、エリヤが声をかける。


「おい! お前は、それでいいのかよ?」


 長い旅をしてきた。それが贖罪のためだったとしても、してきたのは人のためだった。それももう少しで終わりのところまできた。

 過去に引きずられる生き方は終わりだ。

 これからは自分のために生きる番だ。

 それがもうすぐだっていうのに。


「エリヤ」


 エリヤから名前を呼ばれウリエルが立ち止まる。そのまま、背中越しに言った。


「約束は、忘れてくれ」

「…………」


 それを最後に、彼女は出て行った。大勢の兵士と一緒に。


「…………」


 なにもできなかった。その場に立ち尽くし開けっ放しの扉を見つめる。しばらくしてエリヤはさきほどまで座っていた椅子に戻った。そこには弁当箱が置かれている。エリヤはそれを拾うが、そこには自分の分だけでなく彼女の分も残っていた。

 エリヤは近づき、そっとウリエルの弁当箱を拾い上げた。


「……くそ!」


 なにも、できなかった。

 いや、なにもしなかったんだ。助けようと思えばできた。やろうとすればやれた。

 なのに、自分はしなかった。あの後ウリエルはどうなる? どんな処分を受けるんだ?

 監禁? まさか、処刑なんてないと思うが。

 でも、そうなら自分は見殺しにしたのも同然だ。目の前にいたのに、自分はしなかった。

 弁当箱を握る手が、怒りに震えた。

 自分が、情けなかった。


「これが、正しいってことなのかよッ」


 もう、シルフィアやエノク。教会に迷惑をかけない。そう誓ったけど。

 なにが正しいのか、これが正しいことなのか。

 エリヤには、分からなかった。


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