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天下界の無信仰者(イレギュラー)  作者: 奏 せいや
第1部 慈愛連立編
358/422

私たちは天界紛争でなにを学んだんですか!?

「ヘブンズ・ゲートを備える必要性は理解しています。ですがそれは協定違反という明確な違反です。ましてや、誰かを守るために誰かを犠牲にするなんて間違っています!」


 ラグエルはまだこの決定に納得していない。理由は理解できている。これこそ賢い選択なのだろう。

 だが、正しくない。

 これは明らかな裏切り行為だからだ。 


「勝利のために、私たちは今なにを犠牲にしようとしていますか? 協定。信条。信用。仲間。これが正義ですか? 私たちは天界紛争でなにを学んだんですか!?」


 備えあれば憂いなしと賢い大儀をかかげ訴えかけてくる。それはそうだろう。理想と合理が一致しないのは常だ。確実にいくほど理想とは乖離する。

 だが、それを飲んでしまえば我々は敗北以前になにかを失うことになる。そうした予感がラグエルにはあった。

 天界紛争は正義と正義のぶつかり合いだった。その結果大勢の犠牲が出た。あんなことは二度と起こしてはならないしあの犠牲を無意味なものにしてもならない。

 だからラグエルは頑なに認めない。理想を訴え続けている。現実の重石が押しかかってきても膝をつかない。

 ヘブンズ・ゲートの開通は、天界紛争の犠牲を無にする愚行だ。

 そこへガブリエルが言ってきた。


「ラグエル。気持ちは察するがウリエルを捕らえ留置(りゅうち)することはすでに決定事項だ。それにやつは裏切り者の堕天羽だ、過剰な擁護は背信行為だぞ」

「しかし」

「お前の考えはなんだ? この場で我意ではないと言い切れるか」


 体が前に出ていたラグエルは静かに席に腰をおろした。


「……それは」

「お前らしくねえなラグエル、なぜやつにそこまで肩入れする? それかお前も裏切り者になるってわけじゃねえよな? ラグエル」

「…………」


 ガブリエルとサリエルからの牽制に口が開かない。これ以上の反論が背信行為と言われてはお手上げだ。

 無言の中で悔しさに表情が歪む。


「ウリエルの処刑についてだが」


 ラグエルが黙ったのを見計らい再びミカエルが話し出す。みなの視線が集まった。


「現在、世界情勢はたいへん危険な状態だ。いつ、どこで火花が上がってもおかしくない。そうした昨今の状況を鑑みて、ウリエルは三柱戦争の開始よりも前に処刑すべきだと考える」

「な!」


 その発言に座ったラグエルが立ち上がった。椅子が勢いよく後ろに下がる。


「まだ開戦前ですよ? この時期に彼女を処刑するのは早すぎでは?」

「開戦してから行おうにも彼女の抵抗等不測の事態が起こっては機を逃す可能性がある。やれる時にやるべきだ」

「しかし!」


 ヘブンズ・ゲートは三柱戦争のための備えだ。それがまだ起きてもいないのに処刑? もし三柱戦争が起こらなければ? そうなればただの無駄死にだ。

 断じて認められない。

 そうは思うが裏切り者の擁護が背信行為と釘を刺されているためラグエルはぐっと言葉を飲み込んだ。

 ただ、事を急いでいる気がしてならない。


「ミカエル様は、なにゆえそこまで急ぐのですか? 確かに危機的状況ですが、予測だけでそこまですることはないかと」


 ミカエルの言うことも分かるが早急な点は否めない。備えは大事だが犠牲を強いるのであれば慎重になるべきなのに。


「…………!」


 その答え。脳裏に過ぎったものにラグエルの表情が強ばった。

 未来消失という世界的に危機的状況。どこもこの事態を三柱戦争だと想定し混迷している。そこにきて突如のヘブンズ・ゲート再開の準備。

 これらが導く答えに震えた。


「まさか、この擾乱(じょうらん)に乗り、かつての使命を遂行するおつもりですか?」


 ラグエルの一言に部屋の空気が一変した。温度が一気に十度も下がったようだ。

 二千年前の使命を、現代で行う。そんなものはめちゃくちゃだ、あの時と現代ではなにもかもが違う。神は他にもいるし神理もある。なにより二千年も前の話だ。

 あり得ない。そう思うがラグエルの胸をいい知れない危機感が熱をあげていく。


「ふ」


 ラグエルの予想。これを受けて、ミカエルの口元が持ち上がった。続けて両手を上げひらひらと振る。


「これは残念残念。とんだ言いがかりだ。それこそ憶測だろう? そんなことを言われるとはとても残念だよラグエル。一応断っておくが、そこまで考えていないさ」


 飄々とした口調で話す様にはそんな大それたことをする気配はない。


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