お前はなぜそうも勝手なんだ
「なんだ、自信がないのか?」
「自信とかじゃない、比べることになんの意味がある」
「俺が嬉しい」
「まったく」
話が通じない。というか、この男は自分の考えを通すことしかできない。その強引さに呆れを通り越して尊敬すら覚える。
「お前はなぜそうも勝手なんだ」
こんなこと、やろうとしてもそうはできない。
エリヤがウリエルと比べようとしていること。
それは、どちらが多く人を助けられたか、というものだった。
ウリエルが贖罪のために始めた人助けの旅。それに勝手に合わせ、それだけでなく競い合ってきたのだ。
ウリエルからすればいい迷惑だ。自分が自分のためにしていることなのに、それを他人にあれこれ干渉して欲しくない。これは自分の問題なのだ。
だというのに、この男には遠慮というものがない。
「いいだろ、細かいこと気にするな。じゃあ同時に言うぞ? せっのー」
止めろと言ってもエリヤは止めないだろう。それに言わなければ言わなかったでなにを言い出すか。ウリエルは不承不承答えた。
「六人」
「五人」
同時に言われた数字は、エリヤが六でウリエルが五だった。
「っしゃー!」
エリヤが両腕を天井に向ける。その後腰を丸め前屈みになって喜んだ。
「よっしゃー! 勝ったー!」
エリヤの大声が穴だらけの教会を吹き抜ける。それくらいの大声だった。
まるで子供のようにはしゃぐエリヤにウリエルが嫌そうに顔をしかめる。
「うるさい奴だなお前は」
「なんだ、悔しいか? 悔しいのか?」
「うるさい」
そんなウリエルに追い打ちをかけるようにエリヤがドヤ顔で言い寄ってくる。うざい。
ウリエルもちょっと腹が立つ。これは勝ち負けじゃない。自分のけじめの問題だ。だというのに勝手に勝負にして自分を敗者にされたのだ。悔しいというよりも納得できない。
「そもそもな、なんだこれは。私よりも助けた数が多かったらなんなんだ」
「いいじゃねえかよ、目標があった方がやりがいに繋がるだろ?」
「こんな目標、繋がらん」
この男に勝ったところでなんの益もない。するだけ無駄だ。何度もいうがこれは勝負じゃない。自分の問題なのだ。
「第一、なぜお前は私に構う? これとお前は関係ないことだろ」
だから言った。お前は無関係だと。意味がないと。外野がはしゃいだところで変わるものではないというのに。
それを聞いて、エリヤが答えた。
「関係ないことねえだろ、お前の百人チャレンジに俺の分も加算されるんだからよ」
その言葉に、視界からエリヤを追い出していた顔をそっと向けた。
エリヤは、明るい顔でウリエルを見つめていた。
「一人で頑張るよりよ、二人の方が早いだろうが」
それが、エリヤが人を助ける本当の理由だった。
ゴミ拾いなど間違ってもこの男がする柄じゃない。さきほど六人と答えたがその内訳だって一つはゴミ捨てで一つはエノクへのアドバイスだ。人助けにカウントするほどでもない。ただ、エリヤにとっては精一杯の人助けだ。
ほかの諸々もエリヤからしたらめんどくさいだけ。もしくは抵抗を覚えるか。どちらにしてもしたくてしてるわけじゃない。
それも全部、彼女のためだ。
自分で決めた百人助けたら贖罪の旅は終わりというルール。それを早く終わらせるためにエリヤは行動していた。
「だから、それになぜお前が関わってくる。これは私の問題だろう」
「なんか気になるんだよ」
それでウリエルは聞くが、エリヤは視線を教会の壁へと泳がした。崩れた木製のイスや壁の穴から見える外の草原。ぼうと眺めながら、エリヤは自身の思いを語っていく。
「お前は昔罪を犯したって言うけどよ、悪いやつがそれで人助けしようなんてするかよ。それ、絶対いいやつだろうが」
視線がさまよう。ただウリエルは見ない。彼女を見ながらこれを言うのはエリヤといえど気恥ずかしい。
「そんないいやつがよ、今日まで責任感じて一人ひっそり生きてきたんだ。知らなかったならともかく、知っちまったらほっとけねえよ」
それは、エリヤなりの優しさだった。
普段はがさつで、ちょっと乱暴で、強引で。
それでいて、優しいエリヤだった。
エリヤがウリエルに振り返る。
「お前だけに、辛い思いなんてさせねえよ。友達、だろ?」