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天下界の無信仰者(イレギュラー)  作者: 奏 せいや
第4章 それでも人生に遭難した時
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終わらない事件

「くそ、なんだよそれ」


 熊田銀二逮捕から数日後。俺の命を狙ってるとしか思えない事件は続いている。だっていうのに学校は事件性がない、たまたまだと片付け調査もしてくれない。ほんと腐ってる。


 放課後の中庭で俺はベンチに座ってうなだれていた。加豪たちからは心配されるが三人を巻き込むんじゃないかと思うとなかなか一緒にいられない。

 まったく、せっかくいい感じだったのに。


「主、大丈夫ですか?」


 そこでミルフィアが現れた。ここには俺と彼女だけで、夕日の光が中央にある噴水を照らしている。朱色と影の明暗が別れる場所で水の流れる音だけが静かに聞こえていた。


「なんだよ、まだ学校だぜ?」

「ですが」

「ああ、そうだよな」


 何度も不自然な事件が起きているんだ、警戒して当たり前。こうしている今だってどこからか狙われているかもしれない。


「……俺ってさ、そんなに悪いやつなのかな」


 こうまでして、命まで狙われるほど悪い存在なのか?


「差別や偏見じゃ飽きたらず、こうも露骨にやってくるとはね」

「許せません」


 そう言うとミルフィアは正面で片膝をついた姿勢のままそう言った。ここからではその表情は見えないが彼女が怒っているのは分かる。


「ありがとな。お前がいてくれて俺は救われてるよ」


 俺の代わりに怒ってくれるお前に一人じゃないって思えるから。

 天下界。神に支配された監獄みたいな場所でも、お前と一緒なら。


「ただ、最近けっこう学校ここ気に入っててさ、最初はすげー憂鬱だったんだけど、今は通うのが楽しみにしてる自分がいるんだ。おかしいだろ? 俺だってどうしたって思うよ」

「いえ。主は、変わりましたから」


 だけど変化はあった。少しはこんな場所もマシだと思える出来事が。


「ああ、三人のおかげでな」


 加豪、恵瑠、天保。三人の女の子。無信仰者の俺でも三人は接してくれて、俺の世界は変わったんだ。


「信仰者なんてみんなクソだと思ってたけどさ、あの三人と出会って、話していく中で変わっていったんだ。前なんて俺のために学校の張り込みまでしてくれたしさ」


 思い出すだけで笑みが漏れる。一緒に張り込みしてる時、そんな状況じゃないんだけど、ちょっと楽しかったんだよな。夜の学校の冒険みたいでさ。


「ほんと、いい奴らだよ」

「はい。加豪も恵瑠も天保も、いい人たちだと思います」

「だよな!? やっぱりそう思うか」


 ミルフィアもそう思っている。俺から見ても四人は仲が良さそうだし、いいと思うんだよな。


「お前の誕生会にも参加してくれてさ、ミルフィアだって仲いいしもう友達になれただろ? そうだ! 今から呼んでくるか、まだ学校に残ってるだろ。呼んできてやるよ」


 ベンチから立ち上がる。彼女の誕生会をきっかけに三人を集めて一緒に参加して、そこでミルフィアは出会って。


 黄金律。自分がされて嬉しいことは人にもしてあげ、自分がされて嫌なことは人にもしない、か。最初は半信半疑だったけど。

 やって良かった。これでミルフィアにも友達ができて、彼女が幸せになれたなら。


「いえ、それには及びません」

「え、なんでだよ」


 振り返る。ミルフィアは未だに片膝を付き、頭を下げていた。


「私に、友などいりません」

「…………え」


 ミルフィアの一言に頭がサッと冷えていく。が、すぐに熱が反発した。

 嫌な、予感がしたんだ。


「ちょ、ちょっと待て。お前と加豪や恵瑠、天和だけど、友達だろ? そうでなくてもさ、仲良くなれたじゃないか。誕生会だってさ、楽しかったろ? そりゃあ、上品とは言えなかったかもしれないけど」

「私の誕生会を開いてくれたことは嬉しく思います。ですが私は奴隷の身、本来あるべき形ではありません」

「じゃあ、お前はあいつらをどう思ってるんだよ!? 友達とは思ってないのか? 友達になりたいとは!?」


 知らず、焦っていた。語気が荒れミルフィアを問い質すような言い方になってしまう。

 なんだこれ? それでも自分を抑えることが出来ない。


「主」


 焦る。わけの分からない危機感に頭の中が赤く点滅する。

 そんな俺を安心させるかのように、ミルフィアは微笑んだ。


「私に、友などいらないのです」


 そして、断言のもとに俺の願いを粉々にしたんだ。


「友はいらないって、それじゃあ……」


 声が震える。聞くな。理性が俺に警告するが、意思が振り切って口を動かす。聞かないなんて出来ない。だって――


「俺とも、友達になってくれないのか?」


 ずっと、お前と友達になりたいと思ってた。誕生会を開いたのだって、お前を喜ばせて、友達になって、奴隷から解放させるためだった。


 ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、お前のためだったんだ。なのに、なあ、ミルフィア!


「なりません」


 お前は、俺のぜんぶを否定するのか。


「私は、主、あなたの奴隷です。それこそが私の存在意義なのです」


 ミルフィアは笑う。

 けれど、胸が引き裂かれたように痛かった。

 その笑顔に言葉を失う。


 どうして……?


 ミルフィアにも普通の生き方をして欲しいと、奴隷なんて止めて欲しいと、頑張ったのに。


「私にとって大切なことは、主に尽くし、主のために生きること。それこそが私の生き甲斐なのです」


 なんでだよ!?

 俺がどれだけ、どんな気持ちで誕生会を開いたのか。


「我が主。ミルフィアはあなたの奴隷です。ずっと、これからも」


 無駄だって? 俺がお前を心配する気持ちも、全部!


「あなたのためなら、私はなんだっていたします」


 俺の友達にはならないのかよ!?

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