朝のあいさつさ
「次のニュースです。ゴルゴダ共和国は先日開かれた臨時国会で軍事予算の追加を決めたとモーゼ神官長から発表がありました」
「なに!?」
「ちょっと、エリヤ兄さん汚い……」
コーンフレークを食べる手を止めエリヤが叫ぶ。飛び散った牛乳にシルフィアが顔をしかめるががすぐにエノクやエリヤと同じくテレビ画面を凝視した。
「昨今において頻発しているスパルタ帝国軍事演習への対抗手段とみられています。モーゼ神官長は慈愛連立の信仰に則り有する戦力は平和への貢献にのみ行使すると発言していますが、両者の間に亀裂を入れるのは間違いないものとみられています」
「そんな……」
「…………」
ニュースではアナウンサーが冷静に原稿を読み上げていく。ただ、その表情からは緊張が見て取れた。その後もニュース番組は状況の説明や今後の予測を話し合っている。
報じられる内容に今し方知ったシルフィアとエノクが驚いていた。スパルタ帝国による国境付近での軍事演習。これだけでも戦争への危機感があったというのに、これでさらに現実味を帯びてきた。
「わたしたち、どうなっちゃうんでしょうか?」
シルフィアが不安そうにつぶやく。それにエノクは答えられなかった。答えられるはずがない。見えない今後にエノク自身暗い思いが広がっていく。
ダン!
と、エリヤが勢いよくボウルをテーブルに置いた。このわずかな間に食べ終えたのか中身は空っぽだった
「行くわ」
そう言って立ち上がる。声は張りつめており目線はすでに玄関に向かっていた。
「行くってどこへ」
「仕事だよ」
普段とはあまりにも違う真剣な姿にエノクは声をかけるが、エリヤは素っ気なく返すだけで大剣とともに出て行ってしまった。
「兄さん……」
その後ろ姿を、エノクは見つめるだけだった。
*
スパルタ帝国による軍事演習。それにより世界には緊張が漂いゴルゴダ共和国も重い腰を上げた。それは自然な成り行きだ。相手が好戦的ならそれに備える。誰でも分かる。そして、今後の行く末も。このままでは開戦まで一直線だ。
(それが分からないやつらじゃないだろうに)
エリヤの胸の中は火花を散らす電気コードのように熱意と危険な雰囲気が混在していた。足取りもどこか重く目つきには険が滲む。
そうしてエリヤが向かった先。それは勤務先である教皇宮殿ではなく、神官庁本部、サン・ジアイ大聖堂だった。
立派な正門前には端に検問所と二人の見張りが立っている。
「エリヤさん?」
その一人がエリヤに気づいた。
「おはようございます。ここに来るなんて珍しいですね」
「まあな。通っていいかい?」
「まだ開門前なんですけどね。それに今日の仕事はどうしたんですか」
「いろいろあるんだよ」
「分かりました。おい、門を開けてくれ」
見張りの者が検問所にいる仲間に手で合図する。まだ開門時間には早いが聖騎士の来場となれば断れない。
「ちなみにご用件は?」
「朝のあいさつさ」