かつての決着を、つけられる最後のチャンスだ
真剣な雰囲気は冗談などではない。一歩間違えれば本当に撃たれる。そんな危険な雰囲気がこの部屋に満ちていた。
だが、それでもなおミカエルは怯むことなく一手を打ち出していく。
「なるほど、仕事には律儀だね。だがそれでいいのかい? 特に、君には関心のある話だと思ったんだがねぇ」
「俺に?」
「知っているはずだ、門を開けるためには鍵がいる」
「…………」
鍵。地上に残った彼ら天羽たちならば誰しもが知っている事実。ヘブンズ・ゲートを開けるための四つの鍵。
その一つはここにはない。むしろその機能を失っている。
そして、それを取り戻す方法をサリエルは知っていた。
「君は興味がないのかい? かつての決着を、つけられる最後のチャンスだ」
かつて、二千年前に起こった出来事。たった一度の不覚で自分は傷を負い、当時の地位を失った。
その後を継いだのが、あの女だ。
横からかすめ取られた栄光。取り戻す機会もないまま時間は流れ、ないものとして忘れ去られようとしていた名誉。
だが、このときになってようやく訪れる。
かつての栄光を取り戻す時だ。
「どうする? 元、四大天羽のサリエル君」
ミカエルは、笑っていた。
*
清々しい朝に迎えられエノクは起床していた。新しい一日に気を引き締め一階のリビングへと向かう。そこにはすでにシルフィアが台所で慌ただしく働いていた。
「あ、おはようございますエノク兄さん」
「ああ、おはようシルフィア。どうした、なにかあったのか?」
「いえ、その、ちょっと寝過ごしてしまって」
えへへと照れた笑みを浮かべる。まだ十歳だというのに働き者な女の子だ。感心こそすれ責める気など起きない。
「すみませんけど今日の朝食はコーンフレークでいいですか?」
「私の大好物さ」
申し訳なさそうに言う彼女にエノクは気さくに笑った。
シルフィアはお皿を用意しコーンフレークを乗せる。そこに牛乳をかけた。これで完成。これ以上にない早さで朝食は出来上がりテーブルに置かれる。
「いただきます」
「いただきます」
二人はソファに並びスプーンで食べていく。テレビから流れるニュースを眺めつつ器用にスプーンを口へと運んでいった。
そこへエリヤもリビングに下りてきた。
「ふぁ~、起きたぞ~。シルフィア、悪いが牛乳出してくれ」
「今日はコーンフレークですから自分でかけてください」
「おお、食事と牛乳が一緒になってるとは気が利くな」
「そういうつもりじゃなかったのですが……」
なにはともあれ気に入ってもらえたようでなによりだ。エリヤはボウルにこれでもかとコーンフレークを入れるとこれでもかと牛乳をかけソファに座った。スプーンでコーンフレークを掬うともしゃもしゃと食べ始める。
「兄さん、まずは顔くらい洗ったらどうなんだ」
「あとでな」
「もぉう……」
清々しい朝の空気がリビングに満ちる。そんな中真面目な弟は目を尖らせ奔放な兄は相手にしない。仲の悪い兄弟に挟まれ妹は残念そうに声を出す。
いつもの朝だ。いつの間にか習慣になってしまった我が家の朝がそこにある。どこか歪で、どこか和やかな、そんな家族の風景だった。
そんな時だった。ニュースから報じられる内容に三人の意識が集まった。