当然、許されるものではない
「当然、許されるものではない」
「ええ、私も賛成よ。開かないという意味でね」
ガブリエル、ラファエルからも反対の声が挙がる。
ヘブンズ・ゲートを開くという提案。その発言にこの場は沈痛な空気へとなっていく。全員がミカエルに批判的な目を向けていた。
「なんてね」
「?」
と、別の意味であり得ない言葉が聞こえてきた。
「もちろん冗談さ、決まっているだろう?」
発言者であるミカエル自身が小さく両肩を上げジョークのジャスチャーをする。今のは真意ではなくあくまで冗談だと。
「…………」
しかし、張りつめていた空気に放り投げられた一言は焼け石に水、さらに空気を悪くするだけだった。
「おいおい」
最初に声を出したのはサリエルだった。
「くだらねえジョークかましてんじゃねえぞミカエル。言うにしてもものを選べよ。それかそんなことも分からないほどにもうろくしたか、それともはなから間抜けだったか?」
サリエルが睨む。怒気も露骨に含まれている。当然だ、ヘブンズ・ゲートの名前は冗談なんかに使うものじゃない。
「ミカエル…………。あまり、私を本気にさせるなよ」
それはガブリエルも同様で、表面上は穏やかでも心中は嵐のように荒れている。そんな二人の辛辣さに比べればまだラグエルやラファエルの言い方は柔らかかった。
「ミカエル様、今のような発言は控えた方がよろしいかと」
「まったく。当然ね、当然よ。今のはさすがに軽率というか、冗談にしても質が悪すぎるわ。誰か殴ってもいいくらい」
「おいおい止してくれよ、無意味だろ? そんな無駄なことをするほど君たちは愚かじゃないはずだ」
「よく言うぜ」
「まったくだ」
「じゃあ今の冗談が無駄でないならなんだっていうのよ」
三人からの反論にミカエルは反省しつつも飄々とした表情を見せる。
「だから冗談さ、この場の雰囲気をちょっと崩そうとした私なりの気遣いだよ。残念だけど失敗してしまったようだがね」
「ほんと、あなたが一番口に気をつけるべきね。それじゃあ私は帰るわよ? そんな冗談を聞くためにここにいるわけじゃないんだから」
そう言ってラファエルは立ち上がった。それでこの度は閉会だ。各々席を立ち扉へと向かっていく。ラファエルは愚痴をこぼしつつ、ガブリエルとラグエルは黙ったまま部屋から出て行った。そんな後ろ姿を席に座ったままのミカエルは見送る。
そして最後の一人であるサリエルが出て行く時だった。
「サリエル」
「ああ?」
呼びかけられたことにサリエルが振り向く。嫌そうな顔がミカエルをとらえるが、彼の表情はすでに切り替わっており、そこにあるのは真剣な顔のミカエルだった。
それでサリエルの表情も冷めていくように冷静になる。
「サリエル。さきほどの件なんだがな、実際のところ君はどう思っている?」
それは確認。さきほどのような周りの目がある状況ではなく、一対一での意思疎通。ミカエルはサリエルの真意を知りたがっている。
「ヘブンズ・ゲートを開く。そうすれば」
「ミカエル」
ミカエルは話すが、その途中でサリエルは拳銃を引き抜き銃口を向けてきた。
「それ以上は言わない方がいい。今の俺は司法庁の長官だがそれ以前に……。忘れたか、天羽を監視する天羽だってな」