犯人捜し
それから俺たちは段取りを話し合い放課後、校舎の中で身を隠し夜になるのを待っていた。生徒はもちろんのこと教師たちもいない。夜の学校なんて不気味なイメージだが使命感が燃え上っているため怖くはない。
俺たちは自分たちの教室、その反対側の校舎の廊下にいた。その窓際に身を屈めて俺を含め五人並んでいる。
すると立案者の加豪が小声で言ってきた。
「私たちの教室は一階。その反対側の校舎から見張るわよ。もし犯人を見つけたら二手に別れて左右の渡り廊下から移動、挟み撃ちにして捕まえるわよ」
加豪の説明に頷く。作戦は実にシンプルだ、俺にも分かりやすくて助かる。
「犯人来ますかねぇ」
「どうだろうな、来ると決まったわけじゃないが。だが見逃すことも出来ない」
恵瑠の心配もそうなんだよな、それこそ空振りの方が可能性は高いと思う。だけどやるしかないんだ。
「お前ら休んでていいぞ、見張りは俺がやるから」
「でしたら主、私がやります」
「交代でいいでしょ。一人だけなんて大変よ」
「でも、俺の問題だし」
「いえ、私の役目です」
「あんたらうるさいわねぇ……」
こうして付き合ってくれてるだけで有難いんだ、俺が一番頑張るべきだろ。
「いいから。張り込みは持久戦、今日が駄目なら明日だってやるのよ? 適度に休まないと続かないんだから」
「まあ、そう言うなら」
「まあ、そういうことでしたら」
「なんなのあんたら」
俺とミルフィアなりにやる気と責任感マシマシなんだが加豪は呆れている。
とはいえ加豪の言う通り、犯人はいつ来るか分からない、ここは甘えさせてもらうか。
それから数時間後、時刻はすっかり深夜で物音一つしない。もうかなり遅いな、今日は外れだろうか。このまま朝まで張り込むわけにもいかないし。仕方がないな。そろそろ帰るかみんなに聞いてみよう。
「人影があるわよ」
「「え!?」」
と、窓から顔を覗かせていた天和がつぶやいた。みんなで確認してみるが確かに誰かいる!
「マジかよ、いきなりビンゴか」
「みんな、早速行くわよ」
作戦通り俺はミルフィアと右から、加豪は恵瑠と天和、三人一緒に左から向かう。渡り廊下を進み、足音がならないように慎重に歩き自分たちの教室につく。おいおい、これで決まりか?
前の扉には俺たちが、後ろの扉には加豪たちがついている。犯人はまだ中だ。
いったい誰だ? 俺を貶めようとした犯人に怒りと緊張が湧き上がる。
俺は加豪とアイコンコンタクトを取り、勢いよく扉を開けた。
「な、てめえええ!」
そこにいた人物に咄嗟に声が出る。それは忘れもしない、
「あの、お前、名前忘れたけどお前ええええ!」
「熊田銀二?」
「そうお前!」
それは狂信化した琢磨追求の不良だった。カッターを片手に机に切り刻もうとしているところだ。
「てめえだったのかブチ殺してやる!」
「待って神愛!」
俺はすぐにでも殴りかかろうとするのだが加豪に止められる。
「主、様子が変です」
「あ?」
ミルフィアにも言われる。見れば熊田は俺が怒鳴るなりカッターを放り捨てうずくまったのだ。両腕で頭を庇い体を震わせている。
「怯えてる?」
「う、ううぅ」
そこには狂信化して襲い掛かってきた時の迫力どころか面影すらない。本当に同一人物か? まるで別人みたいだ。
「なんだ、ずいぶん大人しくなっちまったな」
「ええ、あの時とはまるで違いますね。今の彼からは危機感を覚えません」
「神託物を破壊されると信仰者は弱体化するとは聞いたことはあるけど」
「なるほど」
男の様子に加豪も不思議がっている。それかミルフィアの戦いがよっぽど堪えたのかもな。
「お前がボコボコにしたからトラウマになってるんじゃないか?」
「え、私のせいでしょうか」
ま、言ってみただけで理由は分からないけど。でもあり得る話だ。
「まったく、こんなにビビるなら初めからやるなっての。そもそもどうしてここにいるんだよ」
「…………」
「? 加豪、どうした?」
「ううん、なんでもない。とりあえず現行犯逮捕ってことで、明日先生に預けましょう。凶器もあることだし」
「おう、これで一件落着だな!」
これにてめでたしめでたし! 初日から見事逮捕成功だぜ!
「みんなありがとな、マジで助かったよ」
「神愛君良かったですね!」
「なにより」
「おう!」
「主、おめでとうございます。それと三人も、本当にありがとうございました」
「ミルフィアさんも良かったですね!」
ミルフィアが三人に頭を下げ加豪や恵瑠が笑顔で声を掛ける。
それを傍から見るが、ミルフィア、普通に三人とやり取りしてるじゃん。
その光景に自然と笑みがこぼれていた。
「宮司君どうしたの、こういうのが性癖なの?」
「お前ほんっっっとに変わらねえのな」
こうして机の件は犯人を逮捕できたことで解決した。退学の件もなんとかなるだろう。
俺は気を良くするが、しかし事件は終わっていなかった。
翌日、俺へ危害を与える事件が多発したのだった。




