表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天下界の無信仰者(イレギュラー)  作者: 奏 せいや
第4章 それでも人生に遭難した時
31/428

二度目のピンチ

 校長室。俺の目の前には険しい顔をした校長が座り苦しい表情をしたヨハネ先生が並んでいた。


「また君か」

「俺じゃねえって! 信じてくれよ先生!」

「はい、分かっています。分かっていますとも。しかし」


 事件は校長にも伝わりこの現状というわけだ。


 それで話をしていくのだが、初めは希望に縋りつく気持ちだったのが次第に変わっていき、最後には絶望のどん底だった。


 俺は職員室から出る。廊下にはミルフィアはじめ四人が待っており出てくるなり近寄ってきた。


「主、どうでしたか?」


 ミルフィアの質問にすぐには答えられない。言いにくさに顔が下がりため息が出るのを我慢する。


「机の件だけど、俺が犯人だって学校側は判断してるらしい。このまま続けばすぐにでも退学だって言われたよ」

「そんな」


 みんなが驚いている。俺だってそうだ。最初の退学だって解決してないのに、これも退学だもんな。


「ヨハネ先生はなんとか説得しようとしてくれてたが、かなり厳しいようだ」

「でも、さっきの植木鉢の事件はどうなんですか? あれだって大変なことですよ」


 恵瑠が心配そうに聞いてくる。


「それなんだけどさ」


 ほんと、自分で言うのも嫌になる。感情がごちゃごちゃで、怒ってるのか悲しんでるのかも分からない。


「証拠がないって。それで終わりだよ」

「そんな~」


 ほんと、理不尽もここまでくると呆れるっていうか、理解が追いつかねえよ。くそ。


「せっかく、お前らと出会えて、ここまで来たってのに……」

「主……」


 これで退学になって、また振り出しに戻るのか? 


「なんで、俺はいつも……」


 無信仰者として生まれて、ずっとこうじゃねえか。差別と偏見ばっかりで。いつも悪者かよ。


「しっかりしろ!」


 そこで加豪の大声が廊下中に響いた。振り向けば加豪は険しい表情で俺をしっかりと見つめており、次に申し訳なそうな顔になる。


「ごめん、先に謝っとく。なんていうか、理解できるのよ」


 それは後ろ暗さか、負い目なのか、その表情は複雑な色模様をしていた。


「今でこそあんたの誤解は解けたけどさ、前の私も似たようなもんだったじゃん? 無信仰者なんてそんなもんだって。だからこういう扱いなのも分かるっていうか」


 こうして彼女とは仲良くなれたけど最初の頃は加豪もそっち側だったのは覚えている。今ではまったく気にしていないが。


「だけど、諦めることない。あんたは犯人じゃないんでしょ?」

「そりゃあ」

「じゃあ別に犯人がいるってことじゃない。そんなやつに負けてられないでしょ!」


 それは琢磨追及の彼女らしい意見だった。


「そうか! ボクたちで本当の犯人を見つければいいんですよ。それで神愛君の無罪を証明するんです!」

「そういうこと」


 恵瑠もそう言ってくれる。それもまた慈愛連立の彼女らしい言葉だ。


「机を傷つけられていた人は全員あんたにちょっかい掛けていた。ならそれを見ていた者の犯行。誰かは分からないけどクラスの誰かでしょ。そいつはあんたを陥れようとしている。ならそこを見つけて捕まえるしかない」

「捕まえるってどうやって」

「そんなの、張り込みしかないでしょ。教室が現場なんだから時間帯は生徒がいない夜。ならこっちも夜を張り込むのよ」


 加豪は得意げに人差し指を天井に向けながら教えてくれる。言っていることは理解できるが、でも。


「加豪、でしたら私も」

「ええ」


 ミルフィアが真っ先に参加を表明する。でも他の二人は。


「恵瑠、いいかな?」


 加豪は恵瑠に尋ねる。


「ふっふっふ、加豪さん。ボクの信仰忘れてもらっちゃ困りますよ?」

「そうね。天和、あなたは?」

「私はどっちでもいいけど」

「そ、そう。まあ無我無心ならそんな感じか」

「お前いつもマイペースだよな」


 天和はいつも通りか。無我無心の在り様ってのは驚かされるな。


「なあ、お前ら。いいのか? 俺の問題にここまでしてもらってさ」


 気持ちは嬉しいけどさ、でもこいつらには一切関係ない。俺の問題だ。なのになんでここまでしてくれるんだ? 


「なに言ってんのよ、誕生会を共にした仲でしょ。やるわよ」

「そうですよ神愛君! 一緒に無実を勝ち取りましょう!」

「まあ、どっちでもいいけど」

「皆さん、ありがとうございます」


 ミルフィアが三人に頭を下げる。それを見て三人は当然って反応。


「お前ら……」


 こんなにも、人に良くしてくれたことがあっただろうか。なんか、感謝なんてものじゃない、ちょっと感動まできてる。


「神愛君、泣いてるんですか?」

「泣くわけねーだろ……!」


 四人に背を向けて乱暴に目をこする。気持ちを落ちつけて頬を両手で叩く。よし、整った。

 俺は振り返り、四人に向け言い放つ。


「やるか!」


 俺は退学になるわけにはいかない。昔なら躊躇うこともなかったけど今は違う。こいつらと離れるなんて嫌だから。


 そのためにも真犯人を絶対に捕まえる。例え指の骨十本折れようがやるぜ俺は!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ