表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天下界の無信仰者(イレギュラー)  作者: 奏 せいや
第1部 慈愛連立編
309/428

だから、離れないでくださいね?

 また否定されると思っていたエリヤは少しだけ驚いた。なにより、そばにいるという言葉が力強くて。その言葉に意識をもっていかれる。


 シルフィアはエリヤを見上げ、真っすぐその青い瞳を向けていた。


「私は、なにがあっても。兄さんがどうであろうと。ずっと! ……ずっとそばにいますから」


 とても純粋で、ブレない視線。強い意思だ。まだ初等部の年頃なのに。彼女はこんなにも強い芯を持っている。


 そんな彼女が、エリヤを見つめて言う。


「だから、離れないでくださいね?」


 彼女のつぶらな瞳が見える。強さのなかに悲しみを湛えた、それは少女の懇願(こんがん)だった。


 シルフィアの願いを聞いてエリヤは少しだけ面食らっていたが、すぐに顔つきを優しくした。


「ったく」


 離れないでくださいね。そんなこと確認するまでもない。約束するまでもないことだ。だというのにそれをするシルフィアの健気さと、そこまでさせてしまった自分の不甲斐なさが身に染みる。


 エリヤはシルフィアの気を晴らそうと、頭に手を置き髪をくしゃくしゃ撫でてやった。


「安心しろ。お前が二十歳になるまではちゃんと世話見てやるよ」


 エリヤの手からシルフィアが慌てて逃げる。乱れた髪を直しすぐに睨んできた。


「もぉう! 世話してるのは私の方だと思うんですけど!」


「へいへい、そうだったな」


「感謝してもいいと思うんですけど!?」


「おう、ありがとよ」


「う~、なんか期待してるのと言い方が違う……」


「ははは」


 エリヤは笑った。いろいろあるけれど、それでもこうして日常は過ぎていく。時には喧嘩して、時には笑って。そんな時間を過ごすことができる。


 それが、たまらなく嬉しかった。


 エリヤは立ち上がりシルフィアに手を伸ばす。


「ほら、帰ろうぜ。夕飯の用意、今日は手伝ってやるよ」


 エリヤから差し出された手を見つめ、シルフィアは微笑むとその手を握って立ち上がる。


「はい!」


 そして二人は岐路についた。親子ほどにも見える兄妹は笑顔を浮かべ、楽しそうに公園をあとにした。


「あ、ちなみにお酒はなしですからね」


「げ」



 路地裏の影の中、その男は太陽のように明るい人だった。


「おい、お前こんな場所でなにしてんだ?」


 見上げれば青空が見える。なのにこの場所は陰鬱だ。人はまず通らないし見向きもしない。だからこそ居座るにはちょうどよかった。壁に背を持たれ座り込む。誰にも知られることなく。誰に憐れられることもなく。誰にも迷惑をかけない。一人きりの影の国。それがこの場所だったのに。


 なのに、彼は現れた。


「…………」


 問いには応えない。すでに少年の目に生気はなく、生きることを諦めた空虚な瞳があるだけだった。


「親は?」


「…………」


「家族はいるのか?」


「…………」


 少年はもう諦めたのだ、すべてを。それが分からないのか目の前に立つ青年はしつこく聞いてくる。それでも黙り込んでいると、青年は納得したように頷いた。


「……そっか」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ