ほらよ、フルーツクレープ
エリヤはやれやれと思いながらも店主に注文した。小言は多いがこれもかわいい妹のためだ。
エリヤはクレープを受け取りシルフィアに渡してやる。
「ほらよ、フルーツクレープ」
「フルーツクレープ!」
シルフィアの瞳が輝いている。普段はしっかりした面が強いがこういうところはまだまだ幼い女の子だ。甘味の一つで喜んでくれるなら安いものだ。
「あ、兄さんも買ったんですね」
「俺は酒も飲むけど甘いものも好きだしな」
「なにを選んだんですか?」
「チョコストロベリー」
エリヤの手にもクレープが握られている。イチゴとチョコレートソースのかかった甘さと酸味が合わさったクレープだ。
「どうする、このまま食いながら帰るか?」
「それなら近くの公園に行きましょう。落ち着けますし、今日はいい天気です」
「じゃ、そうするか」
二人は道を変え街道から公園へと移った。そこは木々に囲まれ中にはグランドがある公園だ。犬の散歩やジョギングにちょうどいい、静かな場所だった。
二人はベンチに腰掛ける。
「それではいただきます。あ~ん」
シルフィアはさっそくクレープを頬張った。
「う~ん、幸せ」
口元にホイップクリームを付けながらシルフィアの表情が至福にとろける。彼女のいる場所だけ桃源郷か天国みたいだ。
「なんちゅう顔してんだ、将来はパティシエかデブだな」
そう言った途端シルフィアが片手でエリヤをボコボコに殴りだした。ボコボコに。
「悪かった! 悪かったって!」
「兄さんは淑女に対する接し方も覚えるべきですね」
「お前のどこか淑女だよ……」
「なにか?」
「なんでもねえよレディ」
シルフィアは座り直る。エリヤはふてくされた顔でクレープをかじった。その隣ではシルフィアが再びクレープを口にし満面に笑みをたたえている。
「う~ん、幸せ」
本当に幸せそうだ。反対にエリヤからは愚痴がこぼれる。
「ケッ、あの店イチゴ代ケチりやがったな。大根じゃねえか」
「クレープは甘いイチゴよりも酸味が強いものの方が相性がいいんですよ」
「そういうもんかい」
「そういうもんです」
そうしてしばらくの間二人はクレープを堪能していた。その間会話はなく黙々と食べていく。
もぐもぐ。もぐもぐ。ごくん。
そうして二人は食べ終える。シルフィアは包み紙をきれいに畳みエリヤは握りつぶしていた。
「…………」
「…………」
やることがなくなる。もともとクレープを食べるために来たのだからあとは帰るだけなのだがどうも言い出しづらい雰囲気があった。
というのも、食べ終えた後もシルフィアは正面を向いたまま動かない。目の前のグランドを見つめなにも言わないのだ。そこには意思が感じられ、それを察したエリヤも帰ろうと言えず時間が過ぎていった。
「覚えてますか」
「ん?」
と、シルフィアが話し出した。見ると彼女はまだグランドを見つめている。