……なら、証明するんだな
エノクは、願いの結晶を口にした。
「人の願いを守るため、現れろ。メタトロン!」
天空に再び光の輪が出現する。そこから両足の先を覗かせ、白い巨人が現れた。
それに服はなかった。人の形をしているが人というよりも動く石像だ。石膏を思わせる白い肌に一級の彫刻師が彫りだしたかのような肉体。エリヤの出したサンダルフォンが親しみのある人間の姿なのに対しメタトロンは神秘的な形だった。
教皇宮殿の外、空中でサンダルフォンとメタトロンがにらみ合っている。ガラスには巨大な横顔が映し出され、闘技場でもエリヤとエノクが対峙していた。
エノクとエリヤ。対照的な二人だった。性格も戦い方もあり方も。
それでも二人は騎士だ。選ばれた聖騎士は己の意地と誇りをこの一戦にかける。自分の目指すもののために。自分のなせることのために。
白亜の部屋。そこで、二人は駆け出した。
エノクとエリヤの剣がぶつかり合う。それと同時にサンダルフォンとメタトロンも殴り合いを開始した。サンダルフォンの右ストレートがメタトンの頬を殴り、お返しとばかりにメタトロンのフックがサンダルフォンの顔を吹き飛ばす。
どちらもすさまじい攻防だ。エリヤの大地を割るかのような重い一撃に、風のように走るエノクの剣筋。二人の間では火花が途切れることなく続きそれ自体がなにかの見せ物のようだ。窓の外に目を移せばサンダルフォンがメタトロンをヘッドロックで固めている。
サンダルフォンの腕に抱えられればこの教皇宮殿ですらただではすまない。それをメタトロンはサンダルフォンの体を抱えて持ち上げると強引に頭を抜き、サンダルフォンの背中を自分の片膝に打ち付けた。その衝撃に窓は強風に揺れサンダルフォンの表情まで歪んでいる。
メタトロンはサンダルフォンを両手で掴むと空中へと放り投げる。サンダルフォンは慣性に引っ張られるがすぐに体勢を整え浮遊した。
「おー、やるなメタトロン。お前もあれくらいの力技ないのかよ」
エリヤは戦いの手を止めると体ごと窓に顔を向け神託物の激闘を目にしていた。サンダルフォンやメタトロンほどの巨大な神託物、さらにはそれらが戦うなど今しか見れない。神話に出てくるかのようなスケールにエリヤも上機嫌に見える。
「戦いの最中によそ見をするな!」
関心を向けるのは分かるがそれでは隙だらけだ。エノクはすぐに切りかかった。
だが、それは金属音とともに防がれてしまった。
エリヤは窓を見たまま、エノクの攻撃を防いでいた。その後から顔をゆっくりと向ける。
「ったく、気がはええよ。せっかくあいつとそいつが戦ってるっていうのに。少しは観戦しようっていう余裕はないのかよ」
「私がここに立つ理由はお前を倒すことのみだ」
「……ちっ、そうかよ」
エリヤは剣を振り抜いた。それでエノクは押し戻され二人の距離がひらける。
「ま、目標を持つのはいいことだけどよ。でもお前は……いや、なんでもない」
「言いたいことがあれば言ったらどうだ」
「こういうのは言っても無駄なんだよ。きっかけがないとな」
エリヤは剣を遊ばせながらそう言った。ただその仕草は寂しさを紛らわせるためのようなもので、彼の声にはじゃっかん悲観の色が混じる。
けれど今のエノクにそれを感じる余裕はなく、充満する戦意が今か今かと再開の時を待っていた。
エリヤも剣を構えた。
「おら、かかってこい。お前が倒すべき目標はここにいる。逃げも隠れもするもんか。見事俺を倒してみろ。それまでてめえはひよっこだ」
「あんたになにが分かる? 騎士の落ちこぼれが、知ったような口をきくな!」
「……なら、証明するんだな」
そう言ってエリヤ大剣を大きく振りかぶった。そのまま突進しエノクに切りかかる。
受けてはダメだ。エリヤとつばぜり合いをすれば負けが見えている。エノクはかわし切り返す。それをエリヤも見事な足捌きで回避し次の攻撃を放つ。
その時だった。教皇席の後ろのガラス壁が壊れ、教皇の横からサンダルフォンの後頭部が入り込んできたのだ。




