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天下界の無信仰者(イレギュラー)  作者: 奏 せいや
第1部 慈愛連立編
280/428

だが、私の愛は尽きない

「悪いようにはしない。人類は私が責任を持って管理するし、保護しよう。未来永劫誰一人不幸にはしない。私の愛に賭けて約束する」


 物言いは紳士的に。細身の体に流れる銀髪、白のコートは優雅で美しい。


「人類を、私にくれ」


 自信に満ちた瞳がすべての父に人類の引き渡しを要求していた。


「ふざ、けんじゃねええ!」


 それを、神愛ははね除ける。


「てめえの語るご大層な平和で誰が笑顔になるって? 嫌がる連中無理矢理閉じこめて悦に浸ってんじゃねえぞクソ野郎!」


 今も押し寄せてくる純白の世界改変に抗いながら神愛は叫び続ける。


「なにが愛だ、余計なお世話なんだよ」


 どれだけ綺麗な言葉を並べても騙されない。そも、人類はそんなことを望んでいない。


「人間のやることに、神が手出しするんじゃねえ!」


 これのどこか慈愛だ、ただの欲張りだ。愛しているから独り占めしたい、愛しているから傷ついて欲しくないなど。


 愛しているから守ろう。自分のものにして、永遠の檻の中で鑑賞しよう。


 そんなもの、勝手な愛情だ。一方通行の独占欲、よって相手の理解を求めない。必要しない。


 もとより、彼は人間を愛しているが、自分と同じ存在だとは思っていない。


 そんなもの、認められるわけがない。


 神愛の黄金が爆発し迫る純白の波を押し返した。急激な膨張に瞬く間に慈愛連立の本流はかき消されていく。


 神愛は王金調律の流出を消した。この場の宇宙には黄金の粒子がわずかに残留し漂っていた。


「なるほど。やはりと言うべきか、この体では無理か」


 イヤスが残念そうに自らの手を見て言う。


 今のイヤスは天下界用に送った弱小のアバターのようなものだ。本体は今も天上界にいて全力にはほど遠い。出来ることなら本体のまま行きたいところだが霊的質量の関係上入れないのが惜しまれるばかりだ。


 神理のぶつけ合い。それに敗れたイヤスは慈愛連立・世界支配を引っ込めた。それにより白いオーラは収束し世界は元の暗闇と星屑になる。


「神になってなお、欲しいものとは得てして手に入らぬものだ。しかしそれも必然か。ここにある無数の星々の輝き。それは人の身では見るのは易く、触れることは叶わない。私にとって人々の輝きとは夜空に浮かぶ星光だ。いくら手を伸ばしても簡単には捕まえられない」


 イヤスは残念そうに語る。軽く目を閉じ人に対する想いと諦観を感じていた。


「だが、私の愛は尽きない」


 しかしそれも一時。目を開いたイヤスの目は強く、妖しく輝き底なしの情念が渦巻いていた。


「私はすべてを手に入れる! 愛する人類は私のものだ。私の愛で、人類は未来永劫約束された平和の中で生きていく。完全なる純白な時代。その到来こそ我が望み! 愛が! 世界を救うのだ!」


 夢を語る姿は酔狂そのものだ。目は恍惚に輝き自分の望む未来だけを見ている。そこに外部の要因はなく、不都合なことははなから考えていない。


 一方通行な愛玩。圧倒的に上の立場からの意見だ。


 彼こそまさしく神。彼は祈らない。彼は信じない。彼はただ望むのみ。思想、理念。そうした人々の耳心地のいいように見繕った言葉や想いなんかではない。そんな他人でも理解できるようなものでは神にはなれない。


 ただ欲しいという、純粋なる想い。単純だからこそその純正と強靱さ。


「それが私の望みだ」


 神とはわがままなのかもしれない。かつてヨハネが言った言葉の通り、神とは人並み外れた、けれど人が持つ究極的な想いの化身だ。


 イヤスは妖しい笑みを浮かべた。


「創造主。あなたに感謝を。そして、再びあいまみえる時。決着をつけよう」


 イヤスはまだ本気を出していない。もし出していれば出現時に宇宙は崩壊している。彼が全力を出せる場所は一つしかない。


 天上界。イヤスは来いと言っている。いくつもの宇宙、いくつもの次元を経たその先、天上界へ。


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