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天下界の無信仰者(イレギュラー)  作者: 奏 せいや
第1部 慈愛連立編
270/428

人は、神を知る

 無信仰者は祈らない。


 自分の道は手探りで進めばいい。


 己を信じろ。


 それでも人生に遭難した時。


「諦めたりなんかしない!」


「!?」


 人は、神を知る。


(諦めないだと?)


 その一言に、ミカエルは胸を撃ち抜かれた気がした。


 その言葉は、かつてどこかで、誰かが言っていた言葉ではなかったか。


 神愛は諦めていない。それがどんなに過酷でも、仲間のためにここまで来た。仲間のおかげでここまで来れた。


 諦めたりなんかしない。諦めた先に彼女はいない。


 望んだ未来なんて、ないのだから。


「自分の道を! 仲間との絆を! それを信じること。それが俺の信仰だ!」


 信仰とは続けることに意味がある。己の自信。友への信頼。すべてが溶けて、信じる力へ、黄金と一つになる。


 神愛のオーラが爆発した。そう思わせるほどの極大の噴出。黄金は神愛の全身を覆い、立ち上がる光は宇宙を切り裂いていく。


 神愛とミカエルの戦い。この激闘にて、初めて黄金の輝きが神愛の右手に宿った。


 神愛は走った。光を超えて、ミカエルへと拳を振り上げる。


「なにをしても無駄だ! |完成された美へと至る第六の(シックス・セフィラー・ティファレト)は無敵の力だ、誰も私に敵わない!」


 神愛の接近にミカエルが叫ぶ。あらゆるものが無駄だと告げる。努力も、工夫も、行動も。すべてが無力。この宇宙、この世界にはミカエルが傷つくという事象は存在しない。足掻いたところで勝機はない。


 だが、


 しかし、


 だとしても!


「俺が!」


 想いはまだ、死んでいない!


「みんなとの未来を!」


 終わっていない!


「終わらせるかぁあああ!」


 神愛は、諦めない!


 神愛は進んだ。敗北の未来へと。勝てない。敵わない。希望もない。


 それでも、神愛は進んだ。信じて進んでいた。


 不可能なんてない。


 特にここ、天下界では。


 どんな困難ですら、信仰が超えていく!


 神愛の拳が、ミカエルの腹部にめり込んだ!


「があああああああ!」


 ミカエルから悲鳴が上がる。戦いが始まってから一度も通らなかった攻撃が、ついに通ったのだ。


 無敵を誇った|完成された美へと至る第六の(シックス・セフィラー・ティファレト)が、崩れ落ちていく。


(馬鹿な!?)


 ミカエルの顔が激痛に歪む。だが、なによりその表情は驚愕していた。


 そう、これは傷つかない。そうした可能性がないからだ。可能性がないのにどうして傷ついたのか。


 しかし『傷つく可能性がない』ということは、『可能性ゼロパーセント』のことが起きれば傷つくということ。


 それは本来あり得ない。なぜなら可能性ゼロパーセントなのだから。起こるはずがない。


 だが、可能性とはなんだ? 『なにを想定して、可能性がないと判断したのか?』


 想定外、イレギュラーを前にしてそれは通じない!


 誰も知らない、過去現在未来を知る者ですら。なぜなら、『この力は宇宙が存在する以前から存在したから』。


 宇宙が誕生するよりも前のことなど、いくら時間を遡っても分からない。想定できない。


 可能性ゼロパーセント。宇宙に存在しないもの。


 それが今、黄金に燃え上がる!


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