表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天下界の無信仰者(イレギュラー)  作者: 奏 せいや
第3章 己を信じろ
26/428

夜、ミルフィアと二人きり

 学校は終わり、時刻は夜。俺はベッドに横になり二階ベッドの天井を見つめていた。

 明日、ミルフィアは誕生日を迎える。そして誕生会を開くんだ。


「はあー……」


 なんだろうな、明日のことが気になってなかなか寝付けない。心配? 興奮? 胸が騒いで仕方がない。


「…………」


 自然と笑みが浮かぶ。明日、もしかしたら大きな変化になるかもしれないんだ。


「主?」

「ん? ミルフィアか、どうした?」


 ベッドの横、気づけばミルフィアが屈んで俺を見ていた。一体なんだろうか。すぐに体を起こした。


「いえ。ただもう遅いので。なにか心配事ですか?」

「まったくお前ってやつは。率先して奴隷の真似事か?」

「奴隷です」

「はいはい」


 俺はベッドに腰かけた。それでミルフィアは跪こうとするが、俺はいつぞやと同じように強引に止めさせ隣に座らせた。

 ちょうど、黄金律を知ってミルフィアと友達になろうと決めた、あの晩と同じになった。


「なあミルフィア。お前はさ、人生楽しいか?」

「楽しい、ですか?」

「ああ、どうだ?」


 俺はそっと振り向き、ミルフィアの横顔を見つめる。質問にミルフィアは静かに目を閉じて、幸せそうに微笑んでいた。


「はい。主にお仕えしていますから」

「俺の世話役がエンタメだって? 三分で飽きるだろ、もっと楽しいことあるさ」

「いえ、これに勝る喜びはありません」


 これを本気で言ってるんだからな……。


「じゃあさ、困ったことはないのか? 不安っていうか、もしくは手伝って欲しいことは?」


 ミルフィアは瞼を開いた。俺に振り返るが、しかし表情はどこか申し訳なさそうに笑っていた。


「ミルフィアは奴隷です。奴隷のことを気遣う必要はありません」

「答えろって。知りたいんだよ」

「ですが」

「いいから」


 奴隷としての意地でもあるか、ミルフィアは対等に扱われることを拒絶する。少し強めに言えば従ってくれるが、それでも気になる。普通に接したいと思っている女の子がこんなんじゃ誰だっていい気はしないだろう。


 それでミルフィアは答える気になったのか、座り直し俺に正面を向けてきた。暗がりの中でも分かるミルフィアの金髪の下、その表情は真剣だった。


「私は、主のお役に立ていますか?」

「は?」


 真っ直ぐと見つめる青い瞳は澄んだ湖畔のようだ。けれど視線に感じるのは愛らしいものではなく、切羽詰ったものだ。


「主は、優しい人です。私に負担をかけないように、ご自分でなんでもしようとしています。主のお気遣いはいつも嬉しく思っています」


 そう言うが、ミルフィアはすぐに目線を下げた。


「ですが、同時に思うのです。私は、主のお役に立っているのだろうかと……」


 ミルフィアの不安というのは、自分が奴隷として機能していないのではないかと心配してたのか。

 見ればミルフィアの表情は深刻だ。心細いとその顔には書いてある。


「なあミルフィア、お前は分かってないようだからはっきり言ってやるよ」


 不安そうに見つめる彼女に言ってやる。


「お前がいなけりゃ俺の人生真っ暗だ。俺にとってお前は光なんだよ。いいか? 仮に奴隷が嫌になっても俺から離れるなよ? 奴隷は不要でもお前は要るんだからな? 絶対だぞ?」


 こいつがいない人生なんて想像もできない。いや、したくない。それは救いようのないほど惨いものだって分かるから。

 こいつがいるから俺は生きていける。そう言っても過言じゃない。それくらいミルフィアは俺にとって大切な存在なんだ。


「ありがとうございます主。私にとってもあなたは光です、誰よりも大きな。はい。ミルフィアは絶対に離れません」


 そう言ってミルフィアは笑っていた。安心したのか喜んでいるのか、その表情は幸せそうで。そんな顔を見せられたら俺まで嬉しくなってしまう。暗い顔なんかよりもこうして笑っているミルフィアの方がよっぽど可愛い。


 そんな彼女を見て、俺は今一度思う。

 こんないいやつが、奴隷でいいはずがないんだ。もっと幸せになって欲しいと思う。そのためにも。


 明日の誕生会、是が非でも成功させるぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ